2009ダービー


亡き桜花賞馬のためのマーチ

 ブエナビスタが阪神JF母子制覇、セイウンワンダーは朝日杯父子制覇、アンライバルドも皐月賞父子制覇、ほかにもリーチザクラウンのきさらぎ賞父子制覇、アンライバルドのスプリングS父子制覇、アプレザンレーヴの青葉賞父子制覇があり、このクラシック世代は世襲が幅を利かせている。年長の世代でも今年はローレルゲレイロによる高松宮記念父子制覇をはじめ、タマモサポートの京都金杯父子制覇などがあって、2代目強しという流れには逆らえないようだ。これはサンデーサイレンス直仔を中心とした内国産種牡馬とシンボリクリスエスUSAのように輸入競走馬から種牡馬になったものが今年のG1/Jpn1をほぼ独占(“輸入種牡馬”の産駒は天皇賞のマイネルキッツのみ)していることと流れの方向は同じ。このレースでは18頭中7頭が“父子制覇”の有資格者ということになった。下表に見る通り、ダイゴホマレからトウカイテイオーの出現まで33年ものブランクがあったのに比べると大変な違いといえるだろう。

 アンライバルドは父ネオユニヴァースの蹄跡を辿るかのように、2戦目だけ3着に敗れると、その後は破竹の連勝で皐月賞制覇に至った。96年のダービー馬フサイチコンコルドの半弟だから、父子制覇に加え、ヒカルメイジ〜コマツヒカリ以来50年ぶりとなってより難易度の高い兄弟制覇もかかる。この兄弟の13歳差という間隔も記録的で、重賞級ならダイナコマネチ産駒のシスティーナ(1989年生)とパラダイスフラワー(2004)の15歳差という例があるが、G1級に絞ればタケノダンサー産駒のリーゼングロス(1979)とタケノベルベット(1989)、シルバーレーンUSA産駒のブラックホークUSA(1994)とピンクカメオ(2004)がそれぞれ10歳差に過ぎない。いや、過ぎないというか、それでも十分大したものなんだが……。ちなみに、米国のG1ではアンキャンベル産駒のデザートワイン(1980年生、ハリウッドゴールドカップH)とメニフィー(1996、ハスケル招待H)の16歳差が最大で、イギリスのクラシックでは19世紀まで遡ってミスワスプ Miss Wasp(1807年生、父Waxy)の産んだ2000ギニー馬マンフレッド Manfred(1814、Election)とオークス馬ヴェスパ Vespa(1830、Muley)がやはり16歳差だった。話がそれたが、フサイチコンコルド以外にも、子孫にボーンキング、ヴィクトリー、リンカーン、アンブロワーズといった活躍馬を送り出した母バレークイーンIREの偉大さが記録的だということは確か。祖母サンプリンセスもやはり偉大な名牝で、G1オークスに勝ってG1キングジョージVI世&クイーンエリザベスSでは3着、G1ヨークシャーオークス、G1セントレジャーに勝つとG1凱旋門賞に挑んで2着となる大活躍を見せた。3代母サニーヴァリーからも、G1コロネーションCのサドラーズホールから昨年のG1ブリーダーズCターフに勝ったコンデュイトまで多くの活躍馬が出ていて、欧州屈指の名門のひとつ。

 皐月賞2着のトライアンフマーチにはダービー父子制覇にクラシック母子制覇のオプションが加わる。こちらは1999年にアドマイヤベガ、2000年にアグネスフライトが達成していて、簡単ではないが意外とあり得る親子制覇のひとつ。ベガがオークスにも勝って、アグネスフローラがオークス2着だったことを考えると、オークスで逃げて11着に惨敗したこの母を同列に置くのは無理がある。ただ、トライアンフマーチを含めわずか4頭の産駒を残したのみで2007年に世を去ったキョウエイマーチのダンシングブレーヴUSA系らしい短命には、バレークイーンIREとは対照的な凝縮された生のエネルギーが感じられないでもない。欧州の名門牝系にネオユニヴァース×サドラーズウェルズのアンライバルドと、オグリキャップなどたまに大物が出るシュリリーAUS系にスペシャルウィーク×ダンシングブレーヴUSAのトライアンフマーチという比較で、より日本的なのは後者。ポストSS時代の傾向でいうと、トライアンフマーチ、アンライバルドが正解なのではないだろうか。

日本ダービーの父子制覇
カブトヤマ(1930年生、父シアンモアGB−母アストラル、母の父チャペルブラムプトンGB)
 子 マツミドリ(1944、母栄幟、母の父プライオリーパークGB)
ミナミホマレ(1939、父プリメロGB−母フロリスト、母の父ガロンGB)
 子 ゴールデンウエーブ(1951、母ユウコ、母の父レイモンドGB)
 子 ダイゴホマレ(1955、母トキフジ、トキノチカラ)
シンボリルドルフ(1981、父パーソロンIRE−母スイートルナ、母の父スピードシンボリ)
 子 トウカイテイオー(1988、母トウカイナチュラル、母の父ナイスダンサーCAN)
タニノギムレット(1999、父ブライアンズタイムUSA−母タニノクリスタル、母の父クリスタルパレスFR)
 娘 ウオッカ(牝、2004、母タニノシスター、母の父ルションUSA)
兄弟制覇
カブトヤマ(1930年生、父シアンモアGB−母アストラル、母の父チャペルブラムプトンGB)
ガヴアナー(1932、同上)
ヒカルメイジ(1954、父Bois Roussel、母イサベリーンGB、母の父Canon Law)
コマツヒカリ(1956、父トサミドリ)
日本ダービーで母子クラシック制覇(母が桜花賞馬)
ベガ(1990年生、父トニービンIRE−母アンティックヴァリューUSA、母の父Northern Dancer)
 子 アドマイヤベガ(1996、父サンデーサイレンスUSA)
アグネスフローラ(1987、父ロイヤルスキーUSA−母アグネスレディー、母の父リマンドGB)
 子 アグネスフライト(1997、父サンデーサイレンスUSA)


 リーチザクラウンは皐月賞で3着だった父スペシャルウィークより豪快に人気を裏切ってしまったが、父も京都大賞典で大敗して、天皇賞(秋)で一変した例がある。母クラウンピースは米三冠馬シアトルスルー×大種牡馬ミスタープロスペクター×米三冠馬セクレタリアトというアメリカンヒーロー的配合なので、パワフルな反面、小技がきかずモロいということがあるかもしれない。牝系は昨年のダービー馬と同じで、G1ケンタッキーダービーを逃げ切った名牝ウイニングカラーズやジャパンC大勝のタップダンスシチーUSAも出る名門ミスカーミー系。血統的には逃げて圧勝という可能性もある。

 シェーンヴァルトにも父子制覇の資格がある。アグネスタキオン、クロフネUSAなどタレント揃いの世代のダービー馬である父ジャングルポケットは、2005年生世代からオークス馬トールポピー、菊花賞馬オウケンブルースリ、南半球でもG1ニュージーランドオークスのジャングルロケットを出して成功。母の父エリシオFRが凱旋門賞馬でG1ジャパンC3着、祖母の父はジャパンC馬ゴールデンフェザントUSAの父だから、これらが父の東京2400mの適性を増強していると考えられる。かなり遠いが、英ダービー馬ジェネラスIRE、英オークス馬イマジンと同じファミリー。一発があって驚けない。

 アプレザンレーヴは青葉賞に勝ってダービーでは2着だった父シンボリクリスエスUSAの雪辱戦ということになる。これだけ周りがサンデーサイレンスUSA系だらけだと、ロベルト系が意地を見せるということもあるだろう。母レーヴドスカーFRはフランスのG1サンタラリ賞勝ちなど牝馬クラシックで活躍。ハイエストオナー×バイアモンUSAの配合なので、道悪なら一気に浮上も。

 ジョーカプチーノは菊花賞馬マンハッタンカフェ×ダービー馬フサイチコンコルド×ダービー2着馬トウショウボーイ。距離はこなせるのではないか。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.6.1
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