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今年も北半球の競馬は牝馬の年だった。米国ではレーチェルアレクサンドラが、プリークネスSG1を牝馬として85年ぶりに制すると、ハスケル招待SG1ではベルモントS馬サマーバードを6馬身ち切り、ウッドワードSG1では古馬を完封。年長の女傑ゼニヤッタは史上初めて牝馬としてブリーダーズCクラシックG1を制した。欧州でもマイル女王ゴルディコヴァが健在で、連覇となったブリーダーズCマイルG1を含め4つのG1勝ちを収めた。日本ではウオッカが春の安田記念G1、秋のジャパンCG1に勝ち、G1コレクションを増やしている。オセアニアでも11月7日のニュージーランド2000ギニーG1と11月14日のニュージーランド1000ギニーG1をケイティーリーが連勝しているので、牝馬上位の流れはひょっとすると地球規模なのかもしれない。また、去る16日に川崎で行われた全日本2歳優駿を逃げ切ったラブミーチャンの勝ち時計1:40.0は、このレースが1600mで行われるようになった1959年以来最速のもの。それに先立つ13日の香港ヴァーズG1では、アガ・ハーン殿下の3歳牝馬ダリアカナが、並み居る古豪を大外からアッサリ差し切ってしまった。これらの結果は、“牝馬の時代”が、まだこの先も続くことを示しているのではないだろうか。 ◎ブエナビスタの母ビワハイジは、阪神3歳牝馬Sでエアグルーヴを抑えて逃げ切り勝ちを収め、札幌3歳Sと合わせて重賞2勝で最優秀2歳牝馬となった。3歳春に、果敢に日本ダービーに挑んだ後は骨折により休養。4歳秋に戦列復帰してからの3戦は不振だったが、5歳1月の京都牝馬Sに勝って引退した。競走生活ではカーリアンの軽快なスピードが前面に出ていたが、その牝系はドイツ起源の重厚なステイヤー系。01年のこのレースの勝ち馬マンハッタンカフェはビワハイジのイトコにあたり、4代母ズライカの子孫からドイツダービーG1のスタイヴァザントGER、英ダービーG1のスリップアンカーらが現れている。6代母シュヴァルツゴルトは1940年、戦時下のドイツでオークスとダービーを制した。ビワハイジの日本ダービー挑戦は牡馬にくじかれたが、バックボーンには遠く女傑の血があったわけで、ドイツの一流牝系の良さのひとつは、代を経ても力を失わない点にある。G1の舞台で牡馬相手でも、力負けすることはない。 |
| 2009年 北半球の女傑一覧 | |
| ヴェンチュラ Ventura 2004年生、黒鹿毛、米国産 父 Chester House 母の父 Be My Guest 母 Estala 母の母 Roupala 09年6戦3勝(通算21戦10勝)09年の主な勝ち鞍(太字は牡馬混合):ウッドバインマイルG1(加、芝8F)、サンタモニカHG1(米、芝7F)、メイトリアークSG1(米、芝8F) |
ダリアカナ Daryakana 2006年生、栗毛、フランス産 父 Selkirk 母の父 Night Shift 母 Daryaba 母の母 Darata 5戦5勝(5戦5勝):香港ヴァーズG1(港、芝2400m)、ロワイヤリュー賞G2(仏、芝2500m) |
| ウオッカ 2004年生、鹿毛、静内産 父 タニノギムレット 母の父 ルションUSA 母 タニノシスター 母の母 エナジートウショウ 7戦3勝(25戦10勝):ジャパンCG1(芝2400m)、安田記念G1(芝1600m)、ヴィクトリアマイルG1(芝1600m) |
フリーティングスピリット Fleeting Spirit 2005年生、鹿毛、アイルランド産 父 Invincible Spirit 母の父 Distant Relative 母 Millennium Tale 母の母 The Bean Sidhe 5戦1勝(13戦5勝):ジュライCG1(英、芝6F) |
| ゴルディコヴァ Goldikova 2005年生、鹿毛、アイルランド産 父 Anabaa 母の父 Blushing Groom 母 Born Gold 母の母 Riviere d'Or 6戦4勝(15戦10勝):ブリーダーズCマイルG1(米、芝8F)、ジャックルマロワ賞G1(仏、芝1600m)、ロートシルト賞G1(仏、芝1600m)、ファルマスSG1(英、芝8F) |
レーチェルアレクサンドラ Rachel Alexandra 2006年生、鹿毛、米国産 父 Medaglis d'Oro 母の父 Roar 母 Lotta Kim 母の母 Kim's Blues 8戦8勝(14戦11勝):ハスケル招待SG1(米、ダ9F)、プリークネスSG1(米、ダ9.5F)、ウッドワードSG1(米、ダ9F)、ケンタッキーオークスG1(米、ダ9F)、マザーグースSG1(米、ダ9F)、ファンタジーSG2(米、ダ9F)、フェアグラウンズオークスG2(米ダ9F) |
| ゼニヤッタ Zenyatta 2004年生、黒鹿毛、米国産 父 Street Cry 母の父 Kris S. 母 Vertigineux 母の母 For the Flag 5戦5勝(9戦9勝):ブリーダーズCクラシックG1(米、AW10F)、レディーズシークレットSG1(米、AW9F)、クレメントL.ハーシュSG1(米、AW9F)、ヴァニティHG1(米、AW9F)、ミレイディGG2(米、AW9F) |
ラブミーチャン 2007年生、栗毛、新ひだか産 父 サウスヴィグラスUSA 母の父 アサティスUSA 母 ダッシングハニー 母の母 ラストヒット 5戦5勝(5戦5勝):全日本2歳優駿Jpn1(ダ1600m)、兵庫ジュニアグランプリJpn2(ダ1400m) |
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ビワハイジに立ちはだかるとすれば、その天敵にして近年屈指の女傑エアグルーヴだろう。○フォゲッタブルの母エアグルーヴは天皇賞(秋)、優駿牝馬に勝ったが、女傑の称号は2度2着となったジャパンCG1での奮戦にこそふさわしい。97年がピルサドスキーIREにクビ差、98年はエルコンドルパサーUSAに敗れたが、スペシャルウィークには先着を果たしている。低調な年に勝つより、よほど価値の高い2着だった。娘のアドマイヤグルーヴが2度エリザベス女王杯に勝ち、母としての優秀さは実証済みだし、祖母ダイナカールも優駿牝馬勝ちの後は牡馬と戦い、その年の有馬記念でもリードホーユーから0秒3差の4着と健闘した。ダイナカールを起点とした牝系は、エアグルーヴ以外にも、カーリーエンジェルの仔に高松宮記念のオレハマッテルゼ、マイラーズCのエガオヲミセテ、孫にアンタレスSG3のウォータクティクス、カーリーパッションの仔にUAEダービーG2・3着のフラムドパシオンなどが出て今後の大きな発展の可能性を示している。ところで、フォゲッタブルは菊花賞の前後あたりから、キャンターの格好が同じ厩舎のディープインパクトに似てきたと思っていたのだが、誰もそういわないので黙っていた。で、先日、調教を見ながら池江泰郎調教師に「ディープと似てきましたね」とたずねてみると「な、そうやろ」と返事があったので、ディープインパクトに近づくところまで、最終的には行くのではないだろうか。 ▲リーチザクラウンは02年、04年とこのレースで2度2着となったタップダンスシチーUSAと同じ牝系。5代母ミスカーミーがタップダンスシチーUSAの3代母となり、あちらがケンタッキーダービー馬ウイニングカラーズの近親なら、こちらはG1・8勝の名馬チーフズクラウンの近親となる。祖母はガゼルHG1の勝ち馬。母の血統表に並んだシアトルスルー、ミスタープロスペクター、セクレタリアトという米国を代表する名馬・大種牡馬の血は歯車が噛み合えば大変な力を発揮するはずで、いずれは父の持つ日本的血脈の融和的な働きによってうまくいくようになるのだろうとは思う。いわゆる“伝説の新馬戦”昨年10月26日の京都5R芝1800mは、アンライバルド、リーチザクラウン、ブエナビスタ、スリーロールスという上位4頭のうち3頭がJpn1に勝った。今回リーチザクラウンが勝てば、残りの1ピースが埋まって“伝説”が完全な形で完結することになる。 出走馬のほとんどがサンデーサイレンスの血を受けているだけに、怖いのは、異質なオペラハウスGB産駒の△ミヤビランベリ。昨年最低人気で2着のアドマイヤモナークと同じ父系でもある。 |
競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.12.27
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