2009天皇賞・秋


頼りない男たちの奮起

 1600mで勝てるスピードがあって2000mも我慢できる、あるいは、2400mに耐えるスタミナを備え2000mをこなすスピードもある。これがだいたい現代の名種牡馬の条件。サドラーズウェルズやジャイアンツコーズウェイ、クロフネUSAの競走成績は前者にあてはまり、後者にはスペシャルウィークやシンボリクリスエスUSA、欧州ならモンジューIREあたりが該当する。そういうわけで、G1安田記念やG1天皇賞(秋)、日本ダービーは種牡馬選定のための最重要レースといえる。しかし、そんな貴重な機会であるにもかかわらず、1回や2回ならまだしも、4回にわたってウオッカに一蹴された近ごろの牡馬というのはどうなのだろう。たとえば、G1ケンタッキーダービーでウイニングカラーズの後塵を拝したフォーティナイナーUSAやブライアンズタイムUSA、シーキングザゴールドはそれぞれ大種牡馬となり、G1ベルモントSでラグズトゥリッチズにアタマ差敗れたカーリンはその後堂々たる世界チャンピオンに成長したが、日本ではそのようなことが起こる気配が一向にない。ウオッカかダイワスカーレット、あるいは両方の出走したG1で勝った牡馬がアドマイヤムーン、マツリダゴッホ、スクリーンヒーローの3頭に過ぎないというのは、かなり深刻な状況なのではないだろうか。ウオッカやダイワスカーレットがいかにずば抜けた能力を持っているとしても、さすがに種牡馬にはなれない。私個人はそれでも特に差し支えないが、種牡馬としての価値の創出ができないということは、生産界にとっては大変困ったことだ。
 そこで、ウオッカが(ダイワスカーレットも)勝ったレースに出走していない馬をピックアップしてみる。オウケンブルースリ、キャプテントゥーレ、サクラオリオン、シンゲン、ホッコーパドゥシャ、ヤマニンキングリー(50音順)が残った。これはトップクラスでの戦歴に乏しい馬のリストでしかないともいえるが、とりあえず、ウオッカの怖さは知らない。したがって、ビビらない。オウケンブルースリはG1ジャパンCで、ヤマニンキングリーはG2毎日王冠で先着されているが、ウオッカが勝ったわけではないので、やはり、怖さを知らずにすんでいる。昨年のスクリーンヒーローがG1ジャパンCに勝ったのも、このパターンだった。あとは、実績と経験の不足をカバーできる血統を備えたものを探せばいい。
 G2札幌記念でブエナビスタを破ったヤマニンキングリーを女王キラーと呼ぶひとはまだいないが、祖母ティファニーラスUSAはG1ケンタッキーオークスに勝って米3歳女王に選ばれた名牝。サンデーサイレンスUSAの輸入に合わせて日本に買われてきて、92年に生まれたのがこの母。母はデビュー戦で同じサンデーサイレンスUSA産駒のプライムステージに3/4馬身差で敗れるが、2戦目で勝ち、続くクローバー賞も快勝した素質馬。その後は伸び悩んだものの、繁殖入りしてクイーンSなど重賞2勝のヤマニンメルベイユを生んだ。また、母のひとつ上の持込馬の姉ヤマニンジュエリーは阪神ジュベナイルフィリーズに勝ったヤマニンシュクルを産んでいる。母の父としてのサンデーサイレンスUSAは、今年ここまで3歳クラシックで全敗。G1/Jpn1勝ちはサクセスブロッケンのG1フェブラリーSとヴァーミリアンの帝王賞があるだけ。要するに芝ではサッパリなわけだが、逆にいえばそろそろ反攻がありそうな時期。下表に示した通り、ミスタープロスペクター系種牡馬との組み合わせも、量的には着実に拡大傾向にあるので、ラインクラフトを除くと遅咲きだったことも考えると、質的向上が見込めるのはこれからともいえる。そして、この配合は菊花賞のソングオブウインドをはじめ、人気薄での大駆けが多く、ウオッカを2度負かしたアドマイヤムーンもこのパターン。特に、父アグネスデジタルUSAは01年のこのレースで難攻不落のテイエムオペラオーを下したいわゆる“ジャイアントキラー”。種牡馬としてまだ大物を送り出してはいないが、人気薄での大物食いがお家芸となりそうな意外性の片鱗は見せている。三冠全てが父仔制覇となった今年の流れが続くとすれば、今回唯一の有資格馬でもある。


ミスタープロスペクター系×サンデーサイレンスUSAの重賞勝ち馬
馬名 生年 重賞勝ち鞍
シャドウスケイプ 1999 フォーティナイナーUSA 根岸S(7人気)
クラスターC(4人気)
サカラート 2000 アフリートCAN 東海S(6人気)
ブリーダーズGC(2人気)
日本TV杯(1人気)他
スズノマーチ 2000 ティンバーカントリーUSA エプソムC(4人気)
ヴァーミリアン 2002 エルコンドルパサーUSA ジャパンCダートG1(1人気)
フェブラリーSG1(1人気)
川崎記念(1人気)
東京大賞典(1人気)
帝王賞(1人気)
JBCクラシック(大井2人気)
JBCクラシック(園田1人気)他
ラインクラフト 2002 エンドスウィープUSA 桜花賞(2人気)
NHKマイルC(2人気)
阪神牝馬S(1人気)他
アドマイヤムーン 2003 エンドスウィープUSA ドバイデューティフリーG1
宝塚記念G1(3人気)
ジャパンCG1(5人気)
京都記念G2(2人気)
札幌記念(1人気)他
ソングオブウインド 2003 エルコンドルパサーUSA 菊花賞(8人気)
ラピッドオレンジ 2003 エルコンドルパサーUSA TCK女王杯(6人)
エアパスカル 2005 ウォーエンブレムUSA チューリップ賞(5人気)
ドリームシグナル 2005 アグネスデジタルUSA シンザン記念(1人気)
ナンヨーリバー 2005 スキャンUSA 兵庫チャンピオンシップ(1人気)
フサイチアソート 2005 トワイニングUSA 東スポ杯2歳S(9人気)
ヤマニンキングリー 2005 アグネスデジタルUSA 札幌記念G2(7人気)
中日新聞杯(2人気)
グランプリエンゼル 2006 アグネスデジタルUSA 函館スプリントSG3(1人気)
ゴールデンチケット 2006 キングカメハメハ 兵庫チャンピオンシップ(3人気)
Florentino 2006 スウェプトオーヴァーボードUSA ジェファースンカップSG2(3人気)
太字はG1/Jpn1 

 キャプテントゥーレの父アグネスタキオンは、昨年の2、3着馬、一昨年の2着馬の父で、特に昨年の2着馬はダイワスカーレットだから勝ったも同然で、このレースにおけるサンデーサイレンスUSA後継の地位を固めつつある。母は阪神牝馬Sに勝ち、フランスでG1モーリスドギース賞2着、シンガポールでG3クリスフライヤースプリント3着など国際的な活躍を見せた。祖母スキーパラダイスUSAもG1ムーランドロンシャン賞や京王杯SCに勝ち、G1BCマイルで2着となった名牝。3代母スキーゴーグルも米G1エイコーンSに勝った。母の父は直仔のサクラチトセオー、エアグルーヴ、オフサイドトラップと3頭がこのレースに勝った。

 オウケンブルースリの父ジャングルポケットは日本ダービー、ジャパンCに勝った。“東京のトニービンIRE”の象徴的存在で、産駒にオークス馬トールポピーを出して、トニービンらしさを伝えている。3代母は大種牡馬ミスタープロスペクターの半妹。その孫チーフベアハートCANは北米芝王者で、春には産駒マイネルキッツがG1天皇賞に勝ち、秋にはビービーガルダンがG1スプリンターズSをほとんど勝ちそうになった今年の殊勲賞種牡馬。

 ウオッカも当然有力だが、ダイワスカーレットのいた昨年とはペースが違うだろう。落とし穴があるとすればそのあたり。

 大穴でサクラオリオン。ダート王ヴァーミリアンと同じ02年産のエルコンドルパサーUSA産駒。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.11.1
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