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第87回凱旋門賞に勝ったザルカヴァはアガ・ハーンIV世殿下の生産所有馬。ずっとそこそこの活躍馬を出してきた牝系で、1956年生まれの5代母プティトエトワールは英1000ギニー、英オークスなど19戦14勝の歴史的名牝。これは殿下の父アリ・ハーン王子の馬だった。その4代母ムムタズマハールを殿下の祖父アガ・ハーンIII世殿下が1歳セリで購買したのが1922年のことだから、9代80数年、人間の方は父子孫3代にわたって丹精をこらした牝系の果実が本年世界最強牝馬だった。日本でもウオッカやメイショウサムソンのフロリースカップ系など渡来後100年に達する牝系は少なくないが、一軒の牧場でずっと面倒を見てきたわけでもないので、ひとつの牝系を守り育て、しかも成功させるというのは時間もお金も並大抵のことではないのが分かる。 コランディアGBは英国産で1966年の暮れに浦河の鎌田牧場によって輸入された。ファロス3×3、トウルビヨン3×3を持ち、5代母が女傑ザリバというマルセル・ブーサック(仏の名ブリーダー)配合の名血で、1972年春の天皇賞馬ベルワイドを産んだ。その後もこの牝系はずっと名門として扱われてきたのだが、実際にはG1級が出たわけではない。ルイジアナピットが最優秀古牝馬のタイトルを得たが、これは年度末に阪神牝特を制した印象点が強い。今イチの時期が長く続いた名門という流れはザルカヴァの牝系に似ている。◎リトルアマポーラは祖母ルイジアナピットに英ダービー馬コマンダーインチーフGB、皐月賞馬アグネスタキオンという配合。牝系に蓄積された古い欧州ステイヤー血脈を損なうことなく、近代的で活力のある血を導入した。父はこの春の3歳牡馬戦線をキャプテントゥーレとディープスカイの2頭で席巻。父も母の父も一戦全力投入型という面があり、むしろ休み明けがいいかもしれない。 |
| コランディアGB系の繁栄 |
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コランディアGB Corandia 鹿毛、1958年生、英国産、 父Auriban、1966年12月輸入。産駒 ヒカルカマタ(鹿、牝、1967、アイアンリージUSA)2勝、産駒 | ミヤコメルド(鹿、1972、ロムルスGB)10勝、2着:札幌記念、福島記念 | ホースメンホープ(栗、牡、1974、ムーティエFR)6勝、日本経済新春杯、 | | 中京記念、3着:阪神大賞典 | ニッショウキング(栗、牡、1975、ムーティエFR)5勝、クモハタ記念、2着: | | 東京新聞杯、3着:金杯(東) | ホースメンピース(黒鹿、牝、1976、ボールドリックUSA)1勝、産駒 | | ヘイリョウ(鹿、牝、1984、マタボーイGB)産駒 | | キンショーテガラ(鹿、牡、1996、ラグビーボール)3勝、2着:共同 | | 通信杯4歳S、3着:全日本3歳優駿 | タケノハナミ(黒鹿、牝、1982、ハードツービートGB)5勝、ローズS | シングンオペラ(黒鹿、牡、1998、オペラハウスGB)3着:アルゼンチン | 共和国杯 ベルワイド(鹿、牡、1968、インディアナGB)8勝、天皇賞(春)、目黒記念(秋)、 | セントライト記念、2着:スプリングS、アルゼンチンジョッキークラブC、日本 | 短波賞、3着:高松宮杯、弥生賞 ヤヨイカマダ(鹿、牝、1972、チャイナロックGB)産駒 ミユキカマダ(黒鹿、牝、1978、ダイアトムGB)3勝、産駒 | ルイジアナピット(鹿、牝、1985、ヴァリイフォージュIRE)、最優秀古牝馬、 | | 阪神牝馬特別、牝馬東京タイムズ杯、産駒 | | リトルハーモニー(鹿、牝、1995、コマンダーインチーフGB)3勝、産駒 | | リトルアマポーラ(黒鹿、牝、2005、アグネスタキオン)本馬 | ダイカツリュウセイ(鹿、牡、1987、プルラリズムUSA)2勝、新潟3歳S | マーチンミユキ(鹿、牝、1989、マルゼンスキー)3勝、産駒 | フレンドレイ(鹿、牝、1997、デインヒルUSA)産駒 | ラッシュライフ(黒鹿、牝、2003、サクラバクシンオー)2勝、2着: | 函館2歳S、ファンタジーS コランデアガール(栃栗、牝、1980、ネヴァービートGB)産駒 | オースミシャイン(栗、1990、シンボリルドルフ)3勝、2着:中山牝馬S | | アズマサンダース(鹿、牝、2001、サンデーサイレンスUSA)2勝、京 | | 都牝馬S、2着:桜花賞、チューリップ賞、札幌2歳S、3着:京都金 | | 杯 | マジックキス(青鹿、牝、1992、サンデーサイレンスUSA)5勝、北九州記 | 念、2着:阪神牝馬特別、府中牝馬S、3着:阪神牝馬特別、サファイヤ | S、福島記念 クラウンマーチ(黒鹿、牡、1983、サドンソーCAN)6勝、3着:フェブラリーH |
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○マイネレーツェルは1950年生まれの6代母ダイアンケーUSAの子孫から久々に登場した重賞勝ち馬。ダイアンケーUSAは直仔に菊花賞馬ダイコーター、孫に大阪杯のハシクランツ、鳴尾記念のハシローディーを出したかつての名牝だが、重賞勝ち馬は89年新潟大賞典の玄孫メモリーバイス以来。ただ、休眠牝系とはいっても、配合されてきた種牡馬はライジングフレームGB、シンザン、ヴェンチアGB、マルゼンスキー、そしてサクラユタカオーと日本種牡馬史上に重要な地位を占めるものばかり。父のステイゴールドからサンデーサイレンスUSA血脈を導入して現代的なスピードと底力も補強された。同時にこの父の血を考えると、春にある程度の実績を残した者の中で、もっとも成長の度合いが大きいのはこれではないかと思う。 ▲ムードインディゴはオークス2着馬チャペルコンサートの半妹。春は素質を示しながらもモタついたが、単純に考えて、父がサンデーサイレンスUSAからダンスインザダークに替わったぶん、ピークを迎えるのが遅れて秋に本格化したということ。母がイタリアで活躍したスプリンターなので信頼し切れない部分も残すが、このような英国血統のスプリント牝馬は決め手に優れた中長距離馬を出すケースが少なくない。フジキセキとアグネスタキオンに挟まれてこのところ影の薄い父が、そろそろ反発してみせる時期かもしれない。 △トールポピーはフサイチホウオーの全妹で、兄のできなかったクラシック制覇を実現した。これはトニービンIRE産駒が牡馬よりも牝馬の方が安定した成績を残す傾向をジャングルポケットも受け継いでいるということかもしれないし、そもそも、全兄妹といっても同じ遺伝情報を受け継ぐわけでもないので、似ていて違うのが当たり前。兄のように秋を迎えて戦意喪失といった兆候も見せてはいない。ただ、能力のマックスが世代トップクラスなのは確かだが、トニービンIRE〜ジャングルポケット系だけに京都内回りがいいとはいえない。そのぶん割り引いてみた。 レジネッタは人気薄で桜花賞に勝った後も崩れることなく堅実に走っている。堅実なのがいいのか悪いのか。フレンチデピュティUSA産駒はG3級ならG3で、G2級ならG2で停滞してしまうところがあるので、そこそこの地位で落ち着いてしまうと再度上昇を示すのは難しいような気もする。それなら春は成長途上でここに来て上昇気流に乗る同じ父のメイショウベルーガの方が面白そうだ。 |
競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.10.19
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