2008エリザベス女王杯


世界を席巻する欧州3歳牝馬

 週刊競馬ブック「海外競馬ニュース」の熱心な読者の方は、この秋「レベルの高い欧州3歳牝馬」という文を頻繁に目にされたことと思う。そこで実際どんなものだったのかを拾い出してみたのが下の表。3歳牝馬は思った以上に圧倒的な成績を残していた。欧州での3歳古馬混合の牝馬G1は6月28日、アイルランドのプリティポリーSが最初。ここは3歳馬マッドアバウトユーを抑えて4歳のプロミシングリードが勝ったのだが、それが結局古馬にとっては最初で最後の勝利。7、8月を全勝した3歳牝馬勢は9月に入ると性の壁さえ超え、ムーランドロンシャン賞、スプリントS、ヨーロッパ賞といった各カテゴリーの重要なレースで牡馬を負かした。圧巻は10月。ザルカヴァが凱旋門賞で我がメイショウサムソンを含む15頭のトップクラスの牡馬を一蹴すると、ブリーダーズCマイルでもゴルディコヴァが突き抜けてしまった。何という強さでありましょう。欧州に古牝馬G1路線が整備されたのが2004年のことなので、それ以来最大の3歳牝馬の大豊作年だった。さて、その波は日本にも及ぶのだろうか。まず、状況を整理しておこう。1)近年まれに見る強力世代とされる04年生まれの牝馬。しかし、ウオッカもダイワスカーレットも今回は出てこない。2)3歳世代は桜花賞、オークス、秋華賞と全て勝ち馬が違った。違うのはいいが、信頼に足る強さを示したものがいなくて、レベルに疑問がある。3)サンデーサイレンスUSAの影響力が薄れたことで、日本競馬全体のレベルに地盤沈下がないとはいえないのではないかという疑問も広く深く残っている。

 それらを踏まえた上でトレラピッドを吟味すると、まず欧州の3歳牝馬というだけで侮れない。重賞勝ち1コすらないフランスの小さな牝馬がそんなに強いとは思えないし、もちろんトップグループの強さが第二グループの能力まで保証するものではないが、日本の04年生まれ牝馬から今年になってスリープレスナイトが現れたように、このような豊作世代からは次々と強い馬が登場するものだ。日本やこの後の香港で欧州の3歳牝馬の猛威が続く可能性は十分にある。父のアナバーブルーは、ダンチヒ直仔のスプリンター・アナバーが種牡馬となっていきなり送り出した仏ダービー馬で、今年の米G1アーリントンミリオンを産駒のスピリットワンが逃げ切った。その父アナバーも活躍馬をコンスタントに送り出すわけではないが、下表にある通り、娘にゴルディコヴァ、娘の産駒にラッシュラッシズを得て、今年のG1戦線では特に重要な血脈だったということになる。母の父モンズーンはドイツの名種牡馬で、ズルムーとジンギスハーンという代表的ドイツ血脈同士の構成はおおまかにいうと95年のジャパンC勝ち馬ランドGERと同じ。ドイツ血統というと重厚過ぎて日本のスピード競馬には合わないという先入観があるが、このようにドイツ系牝馬にスピード豊富な血脈を取り入れたケースでは、マンハッタンカフェやビワハイジなど成功例も多い。

2008年 欧州3歳牝馬の輝かしい戦果 (全てG1)
月/日レース名条件距離勝ち馬母の父
5/31000ギニー3歳牝8Fナタゴラ
Natagora
ディヴァインライトLinamix
5/11プールデッセデプーリッシュ3歳牝1600mザルカヴァ
Zarkava
ZamindarKahyasi
5/18サンタラリ賞3歳牝2000mベルエセレブル
Belle et Celebre
パントレセレブルUSAクリスタルグリッターズUSA
5/251000ギニー3歳牝8Fハーフウェイトヘヴン
Halfway to Heaven
PivotalIndian Ridge
6/6オークス3歳牝12F10yds.ルックヒア
Look Here
エルナンドFRRainbow Quest
6/8ディアヌ賞3歳牝2100mザルカヴァ
Zarkava
ZamindarKahyasi
6/20コロネーションS3歳牝8Fラッシュラッシズ
Lush Lashes
GalileoAnabaa
6/28プリティポリーS3歳上牝10Fプロミシングリード
Promising Lead 牝4歳
デインヒルUSAKahyasi
7/9ファルマスS3歳上牝8Fナフード
Nahoodh
ClodovilIndian Ridge
7/13オークス3歳牝12Fムーンストーン
Moonstone
DalakhaniLaw Society
8/2ナッソーS3歳上牝9F192yds.ハーフウェイトヘヴン
Halfway to Heaven
PivotalIndian Ridge
8/3ロートシルト賞3歳上牝1600mゴルディコヴァ
Goldikova
AnabaaBlushing Groom
8/3ディアーナ賞3歳牝2200mローゼンライエ
Rosenreihe
Catcher in the RyeBe My Guest
8/21ヨークシャーオークス3歳上牝12Fラッシュラッシズ
Lush Lashes
GalileoAnabaa
9/6メートロンS3歳上牝8Fラッシュラッシズ
Lush Lashes
GalileoAnabaa
9/7ムーランドロンシャン賞3歳上牡牝1600mゴルディコヴァ
Goldikova
AnabaaBlushing Groom
9/13スプリントC3歳上6Fアフリカンローズ
African Rose
ObservatoryクエストフォーフェイムGB
9/14ヴェルメーユ賞3歳上牝2400mザルカヴァ
Zarkava
ZamindarKahyasi
9/28ヨーロッパ賞3歳上2400mバイラメ
Baila Me
SamumLaw Society
10/4サンチャリオットS3歳上牝8Fハーフウェイトヘヴン
Halfway to Heaven
PivotalIndian Ridge
10/5凱旋門賞3歳上牡牝2400mザルカヴァ
Zarkava
ZamindarKahyasi
10/5オペラ賞3歳上牝2000mレディマリアン
Lady Marian
NayefShareef Dancer
10/25ブリーダーズCマイル3歳上8Fゴルディコヴァ
Goldikova
AnabaaBlushing Groom


 カワカミプリンセスは母がシアトルスルー×セクレタリアトという米三冠馬同士の配合で、祖母が米G3勝ち馬。父は名馬ダンシングブレーヴUSA×名牝グッバイヘイローUSAという組み合わせだから、名血ばかりを集めた豪華な血統。3代母の父としてリボー系キートゥザミントが入っているあたりもG1向き。父が2歳時から5歳暮れまで高い能力を維持したことから考えても、まだ十分な活力を残していると見ていい。

 ▲ポルトフィーノは半姉アドマイヤグルーヴがこのレース2勝3着1回、母が98年に3着、イトコのエガオヲミセテも99年に3着となった。近年屈指の名門であるこのファミリーには3着以内が義務付けられているようだ。イトコで同じクロフネUSA×トニービンIRE配合のフラムドパシオンがそうであるように、自身のパワーをいかに制御するかが課題となる血統。それだけに距離延長は問題となるが、スムーズに運べば圧勝もあり得る。

 リトルアマポーラの父は前年の勝ち馬と同じ。今年アグネスタキオンの産駒は、皐月賞、NHKマイルC、日本ダービーと3歳牡馬の大レースを独占し、秋も天皇賞で2、3着を占めた。父サンデーサイレンスUSAの抜けた穴は埋めるには大き過ぎるが、それでもこの世代から6頭の重賞勝ち馬を出しているのだから立派なものだ。最優秀古牝馬に選ばれた祖母ルイジアナピットはロックフェラ4×4の珍しい近交を持つステイヤー血統で、牝系は名門コランディア。3歳で成長力があるのはこれ。

 秋華賞で16番人気ながら3着となったプロヴィナージュは桜花賞馬と同じフレンチデピュティUSA×サンデーサイレンスUSAの配合だった。アスクデピュティも同じパターン。何匹目のドジョウなのかという話だが、穴で狙う価値はある。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.11.16
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