2008桜花賞


ブライアンズタイムの自己ベスト

 ドバイシーマクラシックに勝ったサンクラシーク、ドバイデューティフリーの2着馬ダルジナ、同5着のフィンスケールビオの共通点は何でしょう。そう、それぞれ根拠地の桜花賞相当レース勝ち馬ということ。サンクラシークは南アフリカのケープフィリーズギニー、ダルジナはフランスのプールデッセデプーリッシュ、フィンスケールビオは英、愛の1000ギニーに勝った。これはたまたまでもなくて、3歳春のマイル戦には高い精度で能力を測る機能が備わっているということだろう。日本でも、トリッキーな阪神1600mが昨年から広大なコースに替わって、ダイワスカーレット、ウオッカという牡馬顔負けの国際レベルの名牝が生まれた。これも偶然ではなさそうだ。

 ところで、ダルジナは2月13日生まれ、フィンスケールビオも2月19日生まれ。これはヨーロッパではそう珍しくない程度の早生まれだと思う。今年の桜花賞は、有力馬にそれらとそう変わらない早生まれが多い(表1)。これは異例だ。桜花賞は早い時期のレースだから早生まれで早熟なのが有利と考えがちだが、実際には4月前後に誕生した馬が中心勢力を占める場合が多い。個体数の違いがまずあるが、あまり早く生まれてもまだ寒いとか放牧地に青草がないとか発育を阻害する要因が残るせいだと説明してくれる関係者もいる。そこで実際どうなのか、過去20年で5着までに入った馬の誕生日を一覧にしてみた(表2)。上位入着馬の誕生日の平均は年によってバラつきが大きいので統計としてはそう役に立たないだろうが、占星術やバイオリズムに心得のある方は有効利用していただきたい。それでも目につくところを拾っていくと、最早生まれは94年2着のツィンクルブライド1月24日、最遅生まれは90年の勝ち馬アグネスフローラの6月18日。4月生まれが多いこと、勝ち馬に2月生まれがいないことは分かる。ただ、06年などは1月、2月生まれが6頭出走して3頭が掲示板に載ったわけだから、育成システムの進歩によって早生まれの不利が取り除かれつつあると考えていいのかもしれない。1、2月生まれと3月以降に生まれたのが半々となった今回、流れが大きく転換する可能性はある。


表1 今回出走馬の
誕生日
(早い順)
誕生日 馬名
1.22 ブラックエンブレム
1.24 リトルアマポーラ
1.30 トールポピー
2.1 ベストオブミー
2.5 ソーマジック
2.11 エアパスカル
2.14 エフティマイア
2.26 エイムアットビップ
2.28 オディール
3.9 エーソングフォー
3.14 ポルトフィーノ
3.31 マダムルコント
4.4 デヴェロッペ
4.4 マイネレーツェル
4.11 シャランジュ
4.13 ハートオブクィーン
4.23 ルルパンブルー
5.11 レジネッタ

表2  桜花賞入着馬の誕生日(過去20年)
競走
年月日
1着馬 人気 2着馬 人気 3着馬 人気 4着馬 人気 5着馬 人気 平均
1988.4.10 3.24 (5) 3.14 (4) 4.8 (6) 4.12 (2) 5.4 (10) 4.6
89.4.9 3.23 (1) 3.14 (6) 5.26 (4) 4.21 (9) 4.21 (10) 4.14
90.4.8 6.18 (1) 4.28 (3) 4.28 (14) 3.29 (5) 5.18 (9) 5.6
91.4.7 5.25 (4) 4.12 (13) 4.16 (2) 4.11 (3) 3.13 (1) 4.15
92.4.12 4.19 (1) 3.28 (6) 3.18 (12) 5.15 (10) 4.7 (4) 4.11
93.4.11 3.8 (1) 3.10 (5) 4.26 (2) 6.6 (3) 3.26 (6) 4.8
94.4.10 5.20 (3) 1.24 (12) 3.21 (1) 4.18 (4) 5.1 (9) 4.4
95.4.9 3.7 (7) 5.25 (3) 3.25 (2) 5.25 (1) 5.31 (4) 4.28
96.4.7 3.17 (10) 4.11 (4) 2.18 (9) 3.29 (15) 3.23 (12) 3.20
97.4.6 4.19 (1) 5.6 (2) 5.20 (8) 3.31 (15) 3.15 (4) 4.17
98.4.12 4.4 (3) 5.6 (4) 3.27 (9) 4.12 (7) 5.20 (5) 4.19
99.4.11 4.5 (4) 3.26 (2) 2.22 (5) 3.19 (3) 2.16 (7) 3.12
2000.4.9 3.30 (6) 4.27 (7) 4.22 (3) 5.1 (1) 4.29 (8) 4.21
01.4.8 4.9 (1) 3.27 (4) 5.4 (2) 6.3 (3) 4.29 (13) 4.26
02.4.7 3.1 (13) 4.21 (7) 4.18 (1) 3.22 (11) 3.6 (9) 3.26
03.4.13 5.2 (2) 4.2 (13) 4.30 (1) 2.15 (3) 5.10 (6) 4.11
04.4.11 4.10 (1) 2.8 (7) 4.1 (4) 4.15 (3) 5.9 (2) 4.2
05.4.10 4.4 (2) 3.31 (1) 3.9 (10) 2.4 (3) 4.21 (14) 3.20
06.4.9 4.25 (6) 2.8 (1) 2.24 (5) 2.9 (9) 5.23 (7) 3.18
07.4.8 5.13 (3) 4.4 (1) 4.6 (7) 4.28 (9) 4.30 (6) 4.22
平均 4.9 4.10   3.28   4.1   3.28   4.22   4.9

 2月1日生まれのベストオブミーは3月の一瞬サイアーランキングのトップに立ったベテラン・ブライアンズタイムの産駒。この世代からは牡馬戦線の暫定トップ・マイネルチャールズも出ている。サンデーサイレンスより1歳年長でなお勢いを失っていないのだから、その息の長さは驚異的。牡馬に活躍馬が多く、傾向としては長距離、ダートを得意とするものが多いが、桜花賞もファレノプシスが98年に勝っている。この馬の場合、それ以上に強調すべきは母の血。祖母フォレストフラワーが87年の愛1000ギニー馬で、母の父ナシュワンは英ダービー、エクリプスS、“キングジョージ”の歴史的3連勝の前に英2000ギニーで後の大種牡馬デインヒルを完封している。英愛的“ギニー色”が極めて濃い。ブライアンズタイムとブラッシンググルーム系の配合にはマヤノトップガンという最大の成功例があり、祖母の父グリーンフォレストが豊富に持つ異系の血はロベルトと呼応して活力をもたらしそうだ。3×5で持つグロースタークの近交もダービー馬タニノギムレットに通じる。勢いに乗ったときにこの父系が示す“突破力”ほかがまねのできないもの。

 オディールは父がNHKマイルC勝ち馬で、母が阪神3歳牝馬S 勝ち馬 2着馬。3代母の娘にBCマイル連覇を含め欧米でマイルG1・8勝を挙げた歴史的名牝ミエスクがいる。ミエスクの産駒にはキングマンボやイーストオブザムーンといった“ギニー馬”が出たほか、この牝系からはミエスクを経由しない分枝からもマイルG1・3勝のシックスパーフェクションズが出ている。欧州型の母とデピュティミニスター系の父の組み合わせで全体に重厚さの勝った力の配合だが、新阪神マイルにはむしろその方が似合うのではないだろうか。

 ▲リトルアマポーラは祖母が89年の阪神牝特に勝ったルイジアナピット。当時は今週の阪神牝馬Sとは性格が違い、暮れの最終週、押し詰まった雰囲気の中で行われたので最後の勝者という雰囲気があって最優秀古牝馬に選ばれている。母の父は阪神3歳牝馬Sでキュンティアを斥けたアインブライドの父でもある。父の代表産駒はいわずと知れた昨年の桜花賞馬であり、父の母も桜花賞馬。ダンシングブレーヴも直仔に2頭の桜花賞馬がいる。牝系は名門コランディア系で、少し遠いが、4代母の曾孫には04年の2着馬アズマサンダースが出た。“阪神”とか“桜花賞”といったキーワードでは、この馬が最も多くの繋がりを持つ。

 前哨戦で敗れてなお強しのトールポピー。全兄フサイチホウオーに流れが似てきたような、そうでもないような。兄と違って1回おきに勝ったり負けたりを繰り返してきたので、少なくとも惜敗のショックを引きずるようなことはなさそうだ。

 エイムアットビップは3代母が名牝イットー。その娘に80年の桜花賞馬ハギノトップレディ、息子に宝塚記念のハギノカムイオーがいる。平成の時代に入るとさすがに“華麗なる一族”の称号もすたれたが、ときおり安田記念のダイイチルビーやJBCスプリントのマイネルセレクトといった実力馬を送り出して家柄の良さを示している。Mr.プロスペクター系種牡馬とトニービン牝馬の組み合わせからはアドマイヤドンやビッグウルフが出ていて、ダート志向は強いが大物を送り出すパターンであることは間違いない。

 大穴でエフティマイア。サンクラシークのドバイシーマクラシック制覇の10数時間後、高松宮記念で1、2着を独占したファイングレインとキンシャサノキセキなど、今もまた進行中のフジキセキ・ブームは静かに一定期間持続する場合が多い。母がニホンピロウイナー×ノーザンテーストというハイペリオン色の強い配合だけに、早熟なだけで終わるとも思えない。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.4.13
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