2008高松宮記念


ほえるサンデーサイレンス

 シーキングザパールのモーリスドギース賞制覇が98年。アグネスワールドは99年にアベイドロンシャン賞を、00年にジュライCを制した。国際的にはこの3つが日本調教馬によるスプリントG1での成果。そのほか98年のこのレースの勝ち馬シンコウフォレストは種牡馬として欧州で優れた成績を残し、97年の勝ち馬シンコウキングはニュージーランドで、こちらはステイヤー種牡馬として成功した。今思うとその当時が日本のスプリント界のピークだったのかもしれない。下の表はほぼ昨年の使い回しだが、輸入競走馬の勢力が弱まるのと入れ替わるようにして、サンデーサイレンス産駒が急速にこの分野へ進出してきたことがよく分かる(SSがサンデーサイレンス産駒)。その効率の良さは特にこのレースで際立っている。

短距離勢力図の変遷
年度 レース 着順 (外)
頭数
SS
頭数
出走
頭数
1997 高松宮 (外) (外) (外) (外)   7 1 18
スプリ (外) (外) (外)   (外) 8   16
1998 高松宮 (外) (外) (外) (外)   10 1 16
スプリ (外) (外) (外) (外) (外) 10   15
1999 高松宮   (外) (外)   (外) 12 1 16
スプリ (外) (外)   (外) (外) 8 1 16
2000 高松宮   SS (外) (外) (外) 8 2 17
スプリ   (外) (外) (外) (外) 7   16
2001 高松宮   (外) (外) (外)   8   18
スプリ       (外) (外) 6   12
2002 高松宮     SS     4 3 18
スプリ SS     SS   2 3 11
2003 高松宮 SS     SS   3 3 18
スプリ SS SS SS (外) FK 4 4 15
2004 高松宮   SS (外)     6 1 18
スプリ   SS [外] SS   3 2 16
2005 高松宮 SS (外)     (外) 3 1 18
スプリ [外] SS SS FK (外) 1 2 16
2006 高松宮 SS         2 2 18
スプリ [外]     [外] [外] 2 2 16
2007 高松宮 SS SS   FK SS 2 3 18
スプリ       SS FK   4 16

 そういうわけで予想も昨年の使い回しという手はある。しかし、ビリーヴが02年のスプリンターズSとその半年後の高松宮記念を制した以外、SS産駒のスプリントG1はどれもその一発で終わっている。一気に頂点に駆け上がる力はあるが、それを長く持続するのが難しいということだろう。これはスプリント戦に限らず実は中長距離でも同じことで、ディープインパクトやスペシャルウィーク、あるいはダイワメジャーのように長期間にわたってトップレベルで活躍したのはむしろ例外。ワンシーズンに集中的に活躍するか、クラシックなどここ一番に一撃の威力を示すケースの方が多い。ならば、まだ“一撃”を繰り出していないサンデーサイレンス産駒を狙うのがいいのではないだろうか。キョウワロアリングは昨年夏にハンデ重賞を勝っただけだが、その血統の豪華さが目をひく。4代母は名牝ホームスパン。その子孫には英2000ギニーのマークオブエスティーム、愛セントレジャーのマシャーラー、オークリーフSのフォークアート、朝日杯のエイシンチャンプらが出ている。そこにバックパサー、ニジンスキーとかかった“マルゼンスキー配合”の祖母は米G2勝ち馬。母は2勝して3歳秋に引退したが、シーキングザゴールド×ニジンスキーの配合はG1・8勝の米国の名牝ヘヴンリープライズと同じパターン。母の父シーキングザゴールドは米国を代表する名種牡馬の1頭で、ミスタープロスペクター×バックパサーの組み合わせはミスワキやマイニングと同じ。それぞれサイレンススズカ、ゼンノロブロイといったSS産駒の大傑作の母の父となっているので、それらより格上のシーキングザゴールドなら大物が出て当然ともいえる。母が3×3という強いインブリードで持つバックパサー血脈もSSとの配合によって生きてくる。かつての協和牧場らしい贅沢なベスト・トゥ・ベスト配合で、やはり協和牧場による傑作キングヘイローに通じる。

 表のFKはフジキセキ産駒。まだ掲示板の一角を占めるのみだが、じわじわと存在感を増してきつつある。その産駒ファイングレインは短距離に転じて開眼した。3代母キーラインが“牝馬版セントレジャー”パークヒルS勝ち馬で、祖母の産駒に愛オークス、ヨークシャーオークスに勝った名牝ピュアグレイン、母はそのピュアグレインの全妹で、もう1頭いる全妹オールグレインもG3ランカシャーオークス3着馬だから、牝系はステイヤー色が強い。母の父ポリッシュプレセデントも自身は名マイラーだったが、一流に育つ産駒にはピルサドスキーをはじめステイヤーが多い。サンデーサイレンス後継としてはマイラー色の強いこの父でも中長距離向きに育ちそうな配合ではある。ただ、スプリンターの大物は論理的予測を外れたところから出現する場合が多いのも事実。さまざまな良血を受けた結果、スプリンターらしいスプリンターよりも奥行きがあって底力に優れるのかもしれない。サンデーサイレンス系×ダンチヒ系の配合はビリーヴを思わせるし、ミルリーフの母ミランミルの血を5×4で持つ点も面白い。

 ▲マルカフェニックスはダンスインザダークが父だから異色のスプリンターといえるかもしれない。この父で母の父ミスワキの組み合わせからは菊花賞馬ザッツザプレンティが出ているくらいだからなおさらだ。ただ、ダンスインザダークをステイヤーと決めつけてしまうのも間違いで、名牝系に大種牡馬ばかりを配合されたその名血はスピードもスタミナも備えた万能型と見るべき。自身が示した瞬発力や、マイラー型産駒の代表ツルマルボーイの切れに、その隠れた部分を垣間見ることができる。マルカフェニックスの祖母スピットカールはアラバマSに勝った名牝で、ヒラボクロイヤルやホオキパウェーブの出る牝系にも活気がある。ノーザンダンサー4×3、レイズアネイティヴ5×4のインブリードを柱に、バックパサー、キートゥザミント、サーゲイロードが脇を固め、サンデーサイレンスで仕上げた配合には隙がなく、G1でも見劣りのしない底力と瞬発力が期待できる。

 スズカフェニックスは昨年ここを勝った後、いったん下降線を辿って、ここにきて再上昇を示している。ずっと張り詰めた状態でいるより長期的にはいいのかもしれない。このあたりは“SSマイスター”橋田調教師らしい周到な戦略といえるだろう。母はシンコウキングのひとつ下の全妹でノーザンダンサー2×3の強烈なインブリードが特徴。その効果をシンコウキングは競走馬として、そして種牡馬としても発揮し、ローズオブスズカは繁殖馬として発揮した。半兄にはダービー馬ドクターデヴィアスもいる底の知れない牝系なので、意外にアッサリ連覇達成というケースがあるのかも。

 上の表に入っていない96年は、高松宮杯もスプリンターズSもニホンピロウイナー産駒のフラワーパークが勝った。ビコーペガサス、ヒシアケボノ、エイシンワシントンといった強力輸入競走馬を封じて国産血統最後の砦となった名牝だ。エムオーウイナーはその甥で、父が同じニホンピロウイナー。母の父としてキャロルハウスが入っていて、これが果たしていいのか悪いのか関係ないのかは分からない。ただ、伯母の強力なスプリント色が薄れた反面、渋太く成長する方向性は感じられる。

 ローレルゲレイロには父子2代制覇の記録がかかる。サクラバクシンオーあたりが達成していそうだが、その現役当時はまだ2000mだった。ちなみに2000m時代にはイットー→ハギノトップレディ、ハギノカムイオーの母子(姉弟)制覇がある。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.3.30
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