2008有馬記念


銀幕に浮かぶ世紀末の激闘

 95年生まれの3強というと、海外を目指したエルコンドルパサーUSA、保守本流を守ったスペシャルウィーク、“グランプリ”での力の誇示を生きがいにしたグラスワンダーUSAと、それぞれの志向が違うため同時代のトップを走りながらも棲み分けができていた。下表の通り直接対決も意外に少なくて、3頭が揃ったことは一度もない。これだけ接点が少ないにもかかわらず3強と称されたということは、この3頭がいかに抜きん出た存在だったかを示しているともいえるだろう。種牡馬となってからも、やはり産駒の傾向に違いがあって、顔合わせは少ない。宝塚記念ではスペシャルウィーク産駒のインティライミとグラスワンダーUSA産駒のオースミグラスワンが3、4着を占めたが、3強の産駒が揃うのはJRAのG1級レースでは2005年の桜花賞以来2度目のこと。エルコンドルパサーUSA産駒は現5歳が最終世代なので、この先も機会は少ないだろう。そのときは2着シーザリオ(スペシャルウィーク)、5着ダンツクインビー(スペシャルウィーク)、9着アドマイヤメガミ(エルコンドルパサーUSA)、18着フェリシア(グラスワンダーUSA)と2世対決とは程遠い結果だったが、今はそれぞれの勢いが当時とは違う。エルコンドルパサーUSAはその後ヴァーミリアンやソングオブウインド、アロンダイトが一流馬に育ち、グラスワンダーUSAはこの秋になってスクリーンヒーロー、セイウンワンダーが立て続けにG1/JpnTを制し、スペシャルウィークも2歳にリーチザクラウンとブエナビスタという牡牝の逸材を得た。さて今回、スクリーンヒーローはともかく、フローテーションもエアジパングも人気薄だが、種牡馬としての3強にあえて共通する点を探せば、段階を踏まずに一撃でそれまで序列を崩壊させる破壊力ということになる。


95年生まれ3強(+1)の対戦成績
レース 98毎日
王冠
98ジャ
パンC
99宝塚
記念
99凱旋
門賞
99ジャ
パンC
99有馬
記念
馬名
エルコンドルパサーUSA      
グラスワンダーUSA      
スペシャルウィーク    
モンジューIRE(96年生)        
※3頭だけではスペシャルウィークが負けっぱなしに見えるので、ゲストでモンジューIREに加わってもらった

 スクリーンヒーローはグラスワンダーUSA産駒待望の初G1ウイナー。3強では最後まで待たせて、しかも一番大きなタイトルをもぎ取る派手好みはこの父ならではといえるだろう。母の父サンデーサイレンスという配合は重賞3勝のサクラメガワンダー(なぜか3勝は全て12月)、そして、朝日杯のセイウンワンダーと同じ。ただ、それ以上に底力という点で強い影響力を及ぼしているのは恐らく祖母のダイナアクトレス。87年、88年と2年連続最優秀古牝馬に選ばれた名牝で、マイル路線でニッポーテイオーを相手に繰り広げた死闘の数々もさることながら、メンバー中最速の上がりで3着に追い込んだジャパンCは外国馬が質量ともに今より相対的に充実していた時代だけに快挙だった。その直仔には菊花賞2着、天皇賞(春)2着のステージチャンプ、桜花賞3着のプライムステージがいたものの、タイトルには届いておらず、名牝の孫の代に名馬が出るというひとつのパターンともいえる。ちなみに中山大障害2勝目がかかるマルカラスカルは父が同じイトコ。同一年に同一種牡馬の産駒が中山大障害と有馬記念のダブルを達成すれば、1961年のトサミドリ(中山大障害=トサキング、有馬記念=ホマレボシ)以来の快挙。

 スペシャルウィーク産駒のフローテーションは母がロベルト系で父がサンデーサイレンスUSA系だから、スクリーンヒーローをさかさまにしたパターン。菊花賞を勝ってここに臨んでいれば、テイエムオペラオーとメイショウドトウIREの馬連320円コンビが飛んだ01年のマンハッタンカフェの立場に収まったとは思うが、2着を繰り返すあたりはリアルシャダイUSA的。リアルシャダイUSAの良さは弱い相手に2着に負けても、強い相手に2着に頑張る底力であり、娘の産駒にイングランディーレやアドマイヤジュピタが出たように、長丁場への適性は母の父に回っても衰えることがない。祖母の産駒にはサンデーサイレンスUSAとの配合で阪神3歳牝馬Sのスティンガー、ローズSのサイレントハピネスがいて、名馬アリダーと同じ牝系はコンスタントに活躍馬を送り出す名門。

 ▲エアジパングは札幌日経オープンでスクリーンヒーローとクビ差。その後のアルゼンチン共和国杯で明暗を分けたが、前走で軌道修正に成功した。父の産駒はソングオブウインドの重賞初制覇が菊花賞で、アロンダイトに至っては重賞初挑戦でジャパンCダートに勝ったように、成長期には力関係を一気にひっくり返す力がある。牝系は米国の名門ヒルブルック系で、ここからはジャパンダートダービーのサクセスブロッケンや愛知杯のセラフィックロンプなど、最近の活躍馬も多い。祖母の父がヌレエフなので同馬の4×3の近交が生じ、父のアイデンティティともいうべきソング、フォルリとノーザンダンサーの意匠的配合を更に発展させる意図が窺える。3代母の父としてリボー系の重鎮キートゥザミントの名が見えるあたりも大レース向きの要素。

 マツリダゴッホはスピードシンボリ(1969・70年)、シンボリルドルフ(84・85年)、グラスワンダーUSA(98・99年)、シンボリクリスエスUSA(2002・03年)以来の連覇がかかる。更にサンデーサイレンスUSA産駒としてフジキセキの94年朝日杯以来14年続いているG1級勝利を15年に伸ばせるかどうかという記録もかかる。これはもう後がない。馬自身は知ったこっちゃないだろうが、このような負けられない戦いというのは大変だろうと思う。サンデーサイレンスとボールドルーラー系の母の父の組み合わせは初期のジェニュインから代表産駒アグネスタキオンまで成功例が多いが、淡白というか脆いというか、タフさに欠ける面がある。勝てばアッサリ、負けてもアッサリという可能性は残す。

 “スカーレット一族”の一流馬は3歳まで素質だけで相当なレベルまで達し、古馬になって成長すると更に上昇するという底知れない力がある。ダイワスカーレットも2着の昨年より確実に強くなっている。ただ、あえて重箱の隅をつつくようなことをすれば、今回の距離は足かせとなり得る。2000mならドンと来いだが、中山2500mとなると、流れ次第でこなせるかもしれないし、流れ次第でこなせないかもしれない。そういった微妙な境界線上にあるとは思う。

 ドリームジャーニーは父が98年の3着馬で母の父が91年に2着。縁がないともいえるが、父はグラスワンダーUSAに敗れ、母の父は名前が「ダイ」で始まる馬に負けた。発奮材料は揃ったぞ。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.12.28
©Keiba Book