2007安田記念


東洋で出会った欧州ダンチヒの両雄

 昨年あわや1、2着独占の場面を作った香港勢は過去に延べ15頭が出走し2勝2着1回。今回は過去最多4頭の来日があり、しかも、それらはいずれも国際レーティング115以上と粒は揃っている。そこで、まず彼らの力関係を整理することが先決であると考えて、香港の1400〜1800mの重賞、マイル部門の一線級の対戦成績を示す表を作ってみた。枠から外れた部分は完全データのページを参照していただくとして、香港の短距離部門はそれまでのスプリントのサイレントウィットネス、マイルのブリッシュラックという2強体制が崩れて中心不在、レベルが低いとはいわないがドングリの背比べになってしまった。そういったことが読み取れるのではないだろうか。チャンピオンズマイルをグリーンチャンネルでご覧になった方も多いかと思うが、エイブルワンが緩いペースで楽に逃げているにも関わらず誰も動こうとしなかったのはみんなが色気を持って乗っていたことの裏返しだったのかもしれない。底力はあるがジリ脚のザデューク、決め手随一だが脚の使いどころが難しいジョイフルウィナー、ペースに左右される追い込み馬グッドババ、逃げへの脚質転換が奏功したエイブルワンとそれぞれに持ち味も違う。チャンピオンズマイルでも何回も走ればそのたびに勝ち馬が替わっただろう。そういう状況なので、4頭に上位独占されるようなことにはならず、どれか1頭、流れの向いたものが勝ち負けに加わるのではないだろうか。

 香港勢から取り上げるのはまずエイブルワン。前走の逃げは奇襲戦法であって今回はたぶん逃げないだろうが、初の国際G1で一線級を抑えたのは評価すべき。スローに助けられただけなら1 1/4馬身の差はつけられない。父はロッキンジSに勝ったマイラーで、産駒には日本でもお馴染みの名牝ウィジャボードがいる。父系祖父グリーンデザートからは、98年のこのレースで2着に入り、最初に香港競馬の力を印象付けたオリエンタルエクスプレスが出た。グリーンデザート直仔は欧州系なのでそれほど多く輸入されたわけでもないが、他に高松宮記念のシンコウフォレストや函館スプリントSのメジロダーリングを出してダンチヒの優れたスピードを伝えている。そして母の父はデインヒル。いわずと知れた世界の大種牡馬だが、産駒のフェアリーキングプローンが10番人気で00年に勝っており、大レースでは人気薄でも怖い血脈として定評がある。01年に15番人気で2着したブレイクタイムもその直仔だ。グリーンデザートとデインヒル。これは欧州ダンチヒ系の両雄でもあるので、当然ダンチヒの3×3という強いインブリードが生じる。一般的にいって、それがいいのか悪いのかはまだ何ともいえないが、他にサーアイヴァー4×4、ネヴァーベンド5×5など父母が対称をなした配合は見た目にもきれい。もっとも、国際G1に勝って悪い配合もないですよね。

 ザデュークはデインヒル直仔。昨年もそれだけの理由で香港馬のうち唯一買ったのがこの馬だった。半年後の香港マイルでは結果を出しているので、デインヒルが大レースで強いという点は間違っていない。日本のマイル戦ではラスト100mの瞬発力に欠ける不安は拭えないが、うまく流れに乗れれば意外な粘りを発揮する可能性はある。

 安田記念の最大の謎はサンデーサイレンスの不振。マイルチャンピオンシップや天皇賞(秋)は勝つのに不思議だ。しかし、それが東京1600m独特のタフさなのかもしれない。ここは勇気を持ってSS直仔を切りましょう。SSが勝利に最接近したのが03年のアドマイヤマックス。それを差し切ったのはアグネスデジタルなので、同じMr.プロスペクター系を探すとこれが意外に少ない。サイレントウィットネスと同じ父のジョイフルウィナーのほか、日本馬ではエイシンドーバーだけだ。この、父系がMr.プロスペクターで母系がロベルト系という組み合わせは一昨年の米2冠馬アフリートアレックスを筆頭に大レースの定番ともなっている。クリプトクリアランスの母の父ホイストザフラッグと祖母の父グロスホークからそれぞれリボーの血を受けている点も大舞台向き。

 ▲マイネルスケルツィは逆に父系がロベルトで母系がMr.プロスペクター。逆もまた有効なのがこの配合の優れた点で、4代母フェアリーブリッジという牝系も豪華。

 ダンチヒ、Mr.プロスペクターに並ぶマイルの大御所はヌレエフ。その孫コンゴウリキシオーはスプリンターとさえいえる血統構成。純粋なスピード勝負になると怖い存在。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.6.3
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