2007ヴィクトリアマイル


世界の中の日本の強い牝馬

 例えば日本でもお馴染みのウィジャボードのように、一流の牝馬が長く現役に留まる傾向を受けて、英・仏・愛では04年にファルマスS、サンチャリオットS、アスタルテ賞、メートロンS、プリティポリーSの古馬が出られる5つの牝馬重賞がG1に昇格し、3歳限定のヴェルメーユ賞が古馬にも開放された。チャンスの拡大を受けてウィジャボードが現役を5歳まで続けたともとれるが、いずれにしても、そういった相乗効果によって多くの名牝が活躍の場を得た。ヨークシャーオークスがやっと古馬に開放された99年以前の一流牝馬は3歳で引退するか、牡馬相手に戦いを続けるしかなかったことを考えると10年に満たない期間に大きな変化が起こったものだ。

 そこで現状のパート1国のG1に占める牝馬限定戦の割合を表にしてみた。下の表1の太字の部分。その他は当該国の競馬の大体の規模を示すと思われるデータを拾ってくっつけた。年度がずれているが、目安としてはこれで用を果たす。これらのうち全G1に占める牝馬限定戦の割合がずば抜けて高いのはアメリカ合衆国の44.34%。ほぼ牡牝対称の番組体系となっているためだが、競走馬の販売国としては当然の戦略ともいえる。牡馬は1頭が1年100頭以上の産駒を出すのに対し、牝馬は1年1頭。矛盾するいい方になるが、希少価値の高い物の品揃えを最大限にするためには牝馬のG1が多いほど都合がいい。下の方の南米は軒並み30%超。これは2歳とか3歳とか世代限定戦が多いようで、特にアルゼンチンはG1全14レースの内訳が2歳5、3歳5、古馬4というもの。競馬場ごとにチャンピオン決定戦を作った結果だろう。南半球の競走馬販売大国オーストラリアの割合が低いが、これはシャトル種牡馬の成功の次の段階として、今後変化を見せることになるかもしれない。いずれにせよ、これらの数値から最大値と最小値を削って平均を出すと、牝馬限定戦は25.73%となる。これが世界的に平均的な割合ということができ、英・仏がそれに沿う数値になっている。

表1) パート1国のG1に占める牝馬限定戦の割合
生産登録
頭数※1
レース
数※2
出走頭
数※3
全GG1牝馬
限定
占有率
(牝馬/全)
日本(上段:パート1)
(下段:G+Jpn)
7,930 18,080 28,897 59 1218.33%
160 32618.75%
アメリカ52,257 52,061 66,200 468 1064744.34%
カナダ2,580 5,238 7,750 37 3133.33%
イギリス6,003 5,301 9,471 139 31929.03%
フランス5,252 4,532 8,326 107 26726.92%
アイルランド11,748 868 2,130 57 12541.67%
ドイツ1,185 1,840 3,051 48 7114.29%
イタリア2,184 5,605 6,385 27 8112.50%
オーストラリア17,178 19,828 30,591 259 671217.91%
ニュージーランド4,600 2,671 5,611 78 24312.50%
アルゼンチン? 7,268 12,762 155 441431.82%
ブラジル3,034 5,105 7,017 103 29931.03%
チリ1,761 6,270 4,169 63 18633.33%
ペルー386 ? 1,526 34 8337.50%
南アフリカ2,974 4,113 6,876 112 321134.38%
UAE36 288 1,038 17 400.00%
※1=2005年米ジョッキークラブ統計 ※2=2005年IFHA統計(平地のみ) ※3=ICSブック2007


 日本もそのあたりを目指すべきだとすると、牝馬限定戦は8〜9レースあってもいい。もちろんお手盛りG1ではなく、レーティングがG1の基準を満たすくらいに牝馬戦線が充実してくることが前提となる。G1が増え過ぎると興が削がれるというファンも多いが、それは“G”を興行的指標に使った結果であり、“G1”を有り難がり過ぎた結果だろう。実際には世界中で多くの面白くないG1も戦われており、格の高いレースと面白いレースがつねに一致するとは限らない。3歳三冠や有馬記念の持つ競馬の祭典としての性格と、競走馬の能力の指標としての“G1”は分けて考える必要もあるのではないだろうか。

 このデータが語るもう一点は、日本の一流牝馬は世界でも最難関といえる戦いにさらされているということ。そう考えれば、アメリカ遠征で毎年好成績を残すのも驚くにはあたらない。そこでG1アメリカンオークス2着のアサヒライジングに期待してみた。昨年の勝ち馬ダンスインザムードも同レースの2着馬ですからね。表2は過去10年の主要牝馬限定戦で大穴を開けた馬の一覧。どうも傾向が掴み辛いが、大レースの例に漏れず人気薄でもSS系は怖そうだということは読みとれる。父がSS直仔、母はミナガワマンナ×ボンモーのステイヤー。4歳を迎えてもう一段階強くなる可能性が高い血統には違いない。

 カワカミプリンセスは実質無敗。父系祖父ダンシングブレーヴの娘にはエリモシック、キョウエイマーチ、テイエムオーシャンらが出ており、サンデーサイレンスの大攻勢に敢然と抵抗した数少ない血統。母のシアトルスルー×セクレタリアトという米三冠馬配合は、米年度代表馬で大種牡馬のエーピーインディと同じ組み合わせ。まだ奥がある良血。

 ▲スイープトウショウは母の父がダンシングブレーヴ。加齢とともにアテにしにくくはなってきたが、破壊力という点では衰えなし。

 フサイチパンドラは名門ベストインショウ系。今季無敗で5月4日のG1ケンタッキーオークスを圧勝したラグズトゥリッチズは同じくベストインショウの曾孫。これだけの名門が活動を活発にしはじめたとなると、日米連続の快挙も十分。

 コイウタは父フジキセキ、祖母の父Mr.プロスペクターの“カネヒキリ配合”。牝系も良く一発あり。


表2) 過去10年の主要牝馬限定戦での大穴一覧 (6番人気以下)
年度レース人気馬名母の父
1997優駿牝馬13ナナヨーウイングセレスティアルストームUSAバンブーアトラス
1998優駿牝馬エリモエクセルロドリゴデトリアーノUSARiverman
秋華賞14ナリタルナパークブライアンズタイムUSAノーザンテーストCAN
1999優駿牝馬ウメノファイバーサクラユタカオーノーザンディクテイターUSA
秋華賞12ブゼンキャンドルモガミFRアスワン
秋華賞10クロックワークリアルシャダイUSAゲイメセンUSA
エ女王杯フサイチエアデールサンデーサイレンスUSAMr. Prospector
2000桜花賞チアズグレイスサンデーサイレンスUSAAl Nasr
桜花賞マヤノメイビーMiswakiNijinsky
秋華賞10ティコティコタックサッカーボーイブライアンズタイムUSA
秋華賞ヤマカツスズランジェイドロバリーUSAコリムスキーUSA
2002桜花賞13アローキャリーラストタイクーンIREサンキリコUSA
桜花賞ブルーリッジリバーフジキセキノーザンテーストCAN
優駿牝馬12チャペルコンサートサンデーサイレンスUSASharpo
2003桜花賞13シーイズトウショウサクラバクシンオートウショウフリート
優駿牝馬13チューニーサンデーサイレンスUSAKris
2004桜花賞アズマサンダースサンデーサイレンスUSAシンボリルドルフ
優駿牝馬ダイワエルシエーロサンデーサイレンスUSAドクターデヴィアスIRE
2006桜花賞キストゥヘヴンアドマイヤベガノーザンテーストCAN
エ女王杯フサイチパンドラサンデーサイレンスUSANureyev

競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.5.13
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