2007スプリンターズS


SS王国の残照

 02年の夏に死亡した大種牡馬サンデーサイレンスは03年生まれの現4歳が最後の世代。今年のクラシックからは新戦力の補充がない戦いを強いられ、種牡馬ランキングでも首位を確保してはいるものの、それまでのような圧倒的な差をつけての独走ではなくなっている。そのように先細りが避けられない状況だけに、層の薄い短距離路線を新規開拓のターゲットとするのは当然の流れかもしれない。これまでスプリントの大レース勝ちがあるサンデーサイレンス産駒はビリーヴ、デュランダル、アドマイヤマックス、そして、今回も出走予定のオレハマッテルゼとスズカフェニックス。これらのうちで複数の勝ち星を挙げたのはビリーヴ1頭だけ。デュランダルはスプリンターズS2着2回、アドマイヤマックスはスプリンターズS3着2回、オレハマッテルゼは高松宮記念、京王杯SCと連勝したあとは長い不振に陥っている。というわけで、サンデーサイレンスを狙うなら短距離にスイッチして間もない新興勢力に目をつけるべき。キングストレイルはマイルチャンピオンシップのシンコウラブリイの甥で、1800mの新馬でデビューして、3歳秋にはセントライト記念にも勝った。そしてこの春と秋で1600mを連勝している。1200mは初めてだが、SS産駒が力業で専門的スプリンターを抑え込んでしまうのは春の高松宮記念に見る通り近年のスプリント戦線の一般的傾向となりつつある。サンデーサイレンス×ノーザンテーストの配合はデュランダルやアドマイヤマックスと同じ。表1に示したように、全SS産駒の12%を占める最大派閥で、初期には「G1の壁を越えられない配合」と揶揄されることもあったが、デュランダル出現以降は急ピッチで追い上げ、ほぼ最終段階に至った現在、実績も最大級といえるものになってきた。興味深いのはこの配合パターンによる重賞勝ち馬の構成比がサンデーサイレンス産駒全体とほぼ相似形を描いている点(表2)。数が多いから均されて似たような比率になるのは当たり前というと身も蓋もないが、このように配合種牡馬の良さを過不足なく引き出す安定性はブルードメアサイアーとしてのノーザンテーストの真骨頂ともいえるだろう。また、ノーザンテーストは昨年2月に直仔モガリブエの勝利によって産駒のJRA28年連続勝利記録を作り、それが8歳での障害戦。なんとも渋太いというほかない。そして、このような渋太さとか息の長さが、今後のSS軍団の生き残り作戦には最も必要とされる資質だろう。

表1 サンデーサイレンス産駒 母の父別G勝ち馬数分布
種牡馬G1勝
ち馬
G2勝
ち馬
G3勝
ち馬
G入
着馬
その
産駒
G勝ち
馬率
G入着
馬率
ノーザンテーストCAN4691315718910.05%16.93%
Sadler's Wells1 1245494.08%8.16%
トニービンIRE3212344214.29%19.05%
Danzig1137294112.20%29.27%
Nureyev3 34293915.38%25.64%
Nijinsky3  234397.69%12.82%
Caerleon1 32333910.26%15.38%
Mr. Prospector 221313611.11%13.89%
マルゼンスキー2214253414.71%26.47%
Lyphard14 3263414.71%23.53%
リアルシャダイUSA 22 242814.29%14.29%
Woodman 1  19205.00%5.00%
Seattle Slew    20200.00%0.00%
トウショウボーイ 211151915.79%21.05%
Alydar1121141921.05%26.32%
ミルジョージUSA 1 115175.88%11.76%
パーソロンIRE 1 113156.67%13.33%
ディクタスFR1111111520.00%26.67%
Storm Cat 1  12137.69%7.69%
Seeking the Gold  1111137.69%15.38%
モガミFR   210120.00%16.67%
ブライアンズタイムUSA 1  11128.33%8.33%
デインヒルUSA120181225.00%33.33%
シンボリルドルフ  1110128.33%16.67%
Affirmed11  91118.18%18.18%
ラッキーソブリンUSA    10100.00%0.00%
産駒総計2331315065579010.76%17.09%
※Gは当該馬が勝ったレースの最高のもの。便宜上、正規のグレードとそうでないものを一緒にカウントしてある

 SS軍団や外国馬にいいように生息域を荒らされるのは、しかし、短距離プロパーに活力がないことの裏返しでもある。マル外相手に孤軍奮闘、高松宮杯とスプリンターズSを制したフラワーパークや、最低人気でアグネスワールドやブラックホークをやっつけたダイタクヤマトのようなのはいないのか。もし、いるとすればそれはエムオーウイナーではないだろうか。母はフラワーパークのひとつ下の半妹で、父は同じニホンピロウイナー。フラワーパークと3/4同じ血に加え、アバーナント、チャイナロック、セントクレスピンといったハイペリオン直系の血が潜んでおり、母の父も祖母の父もハイペリオン血脈は2本ずつ持っている。6歳とはいえ、まだジワジワと成長を続けていても不思議はない。

 ▲アストンマーチャンは昨年の新種牡馬チャンピオン・アドマイヤコジーンの代表産駒。2歳チャンピオンの父は骨折による長い休養とその後の長い不振を経て、実に6歳の安田記念で復活した。朝日杯と安田記念では距離こそ同じでも求められるものはかなり違う。それを両方備えていたわけだから、種牡馬としても早熟なスピードの奥にまだ隠れているものがあるのではないか。コジーン系とミスタープロスペクター系の組み合わせは今年のオークス馬ローブデコルテと同じ。ウッドマンは直仔にヒシアケボノがおり、日本のスプリント戦への適性も証明済みだし、瞬発力を感じさせるわけでもないのに、いつの間にか相手をち切ってしまうようないわく言い難いパワーを伝える。古馬・牡馬が相手となる今回、この点は特に心強い。

 タマモホットプレイはフジキセキ×ノーザンテーストだから、キングストレイルに似たパターン。祖母の父ディクタスも表1が示すとおりSSと相性の良い血脈。3代母ロイヤルサッシュの孫には名馬サッカーボーイがおり、この牝系にフジキセキが配合されて神戸新聞杯のドリームパスポートが出ている。香港ヴァーズのステイゴールドも含めてどれも同じような配合で、“SS+サッカーボーイ”の驚異的な力がこの馬にも宿っている可能性はある。コイウタや南アの名牝サンクラシークが出る今年のフジキセキは怖いぞ。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.930.
©Keiba Book