2007秋華賞


名門を潤す地下水脈

 時代とともにチャンピオンの基準というのは変わるもので、少なくとも種牡馬としての価値という点で今は凱旋門賞に以前ほどのありがたみがない。最高のチャンピオン、最良の種牡馬の現代的モデルはヨーロッパのマイルで勝ちまくり、仕上げにアメリカでブリーダーズCクラシックを勝つというものだろう。アイルランドの巨大生産事業体であるクールモアが目指す種牡馬の理想といっていい。これは2000年にジャイアンツコーズウェイが実際に成功寸前まで行ってBCクラシックでティズナウにクビ差で阻まれた未完の偉業だが、実はそのアイデアの種を撒いたのは、ゴドルフィンの1頭の名馬だったのではないだろうか。ドバイミレニアムは3歳後半にジャックルマロワ賞、クイーンエリザベス2世SとマイルのG1を圧勝して、すでにその名にふさわしいスケールの大きさを示していたが、4歳を迎えての2000年のドバイワールドCでは6馬身差、そして英国の芝に戻ったプリンスオブウェールズSでは8馬身差の大勝を収め、その2戦だけで芝・ダートの世界最強馬というダブルタイトルを手に入れた。そのインパクトが、強い馬には芝もダートも関係ないという考え方を広範囲に行き渡らせ、日本でもちょうどそのころアグネスデジタルが出現している。

 ドバイミレニアムの血統でまず取り上げなければならないのはその豪華な牝系。祖母フォールアスペンは当代屈指の名牝で、小さな重賞の入着馬を削っても、ブラックタイプは下に示したように名馬がすし詰め。欧州クラシック馬に米国G1馬、スプリンターからステイヤーまであらゆる高級ネタが揃っているのも特徴といえるだろう。そこで、やや唐突だが、この牝系から現れたヒシアスペンにしてみた。ダートでしか勝っていないし、見た目もからも完全なダート馬であっておかしくないが、祖母ノーザンアスペンは芝のG1ウイナーであり、ドバイミレニアムや競走成績やティンバーカントリーの種牡馬成績を考えれば芝・ダート不問の力はこの牝系に地下水脈のように絶えることなく流れている資質だと考えられる。父のフォレストリーはUAEダービーを圧勝したディスクリートキャットをはじめ、すでに3頭のG1勝ち馬を送るストームキャット後継種牡馬の1頭。これまで日本では大レース勝ちの出なかったストームキャット直系も、今年はフェブラリーSで初めてサンライズバッカスがG1勝ちを果たしており、そうなると世界の主流だけに堰を切ったように活躍が続く可能性もある。ノーザンダンサーとミスタープロスペクターの組み合わせはありふれたものであるのは確かだが、おおまかにいえばドバイミレニアムに共通するし、ティンバーカントリーの代表産駒アドマイヤドンの母系にもノーザンダンサーが入っているので、パターンとしては同じ。そのノーザンダンサー+Mr.プロスペクター+フォールアスペンを柱として、ヒズマジェスティ、セクレタリアト、バックパサーといった大レース向きの血脈が脇を固める配合も魅力。もうひとつの表に示したように、このレースで穴を開けるのは、SS的な才気よりもむしろノーザンダンサー的な渋太さや底力。ノーザンダンサーの近交を持ち、ダートの勝ち鞍しかなかったブゼンキャンドルに近いイメージもある。


名牝フォールアスペンの子孫
フォールアスペン FALL ASPEN(76、牝、父Pretense)米8勝、メートロンSG1、
     アスタリタSG3 産駒:
 ノーザンアスペン Northern Aspen(82、牝、Northern Dancer)英仏米5勝、
 | | ゲームリーHG1他
 | キャンディスインアスペン
 |   ヒシアスペン 本馬
 エルスール Elle Seule(83、牝、Exclusive Native)仏米3勝、アスタルテ賞G2
 | Only Seule
 | | オキュパンディスト Occupandiste 仏6勝、フォレ賞G1他
 | メーサーフ Mehthaaf 愛英仏4勝、愛1000ギニーG1他
 | | ナジャー Najah 愛英伊2勝、リディアテシオ賞G2
 | エルナディム Elnadim 英米5勝、ジュライCG1他
 | クルード Khulood 英3勝、ネルグウィンSG3
 マッツァカノ Mazzacano(85、牡、Alleged)英仏3勝、グッドウッドCG3
 コロラドダンサー Colorado Dancer(86、牝、Shareef Dancer)仏米3勝、
 | | ポモーヌ賞G2他
 | ドバイミレニアム Dubai Millennium 英仏首9勝、ドバイワールドC
 | | G1他
 | ダージー 英出走、本邦輸入種牡馬
 Dance of Leaves(87、牝、Sadler's Wells)
 | チャーンウッドフォレスト Charnwood Forest 英仏米4勝、
 | | クイーンアンSG2他
 | メダーリー Medaaly 英首3勝、レーシングポストトロフィーG1
 | Desired
 |   デジデラトゥム Desideratum 仏4勝、リス賞G3
 Sheroog(88、牝、Shareef Dancer)
 | カブール Kabool 英仏首港5勝、ロンポワン賞G2(仏国)他
 ハマス Hamas(89、牡、Danzig)英5勝、ジュライCG1
 フォートウッド Fort Wood(90、牡、Sadler's Wells)仏独3勝、パリ大賞G1他
 ティンバーカントリーUSA(92、牡、Woodman)米5勝、プリークネスSG1他
 プリンスオブシーヴズ Prince of Thieves(93、牡、ハンセルUSA)、米2勝、
 |   ケンタッキーダービーG13着
 ビアンコーニ Bianconi(95、牡、Danzig)、愛英仏3勝、ダイアデムSG2


 アレフランスとダリアといえば1970年生まれのフランスの名牝としてあまりにも有名だが、この2頭、直接の対戦ではアレフランスが8戦全て先着し、しかしダリアは国外で“キングジョージ”連覇やワシントンDC国際Hで牡馬を蹴散らして回った。ウオッカダイワスカーレットも、同じ世代に生まれたのがもったいないくらいという点ではフランスの偉大な名牝2頭に共通する。アレフランスはホームで、ダリアはアウェイでとそれぞれ強さを発揮する舞台が違ったわけだが、それを当てはめると、3歳牝馬限定戦の今回はダイワスカーレットに分がある。ウオッカは▲。

 先週のダイワメジャーのまさかの取りこぼしに関連して、穴馬をもう1頭。マイネルーチェはチョウサン同様サッカーボーイ牝馬にSS系種牡馬の配合。妹(ダイワスカーレット)は兄がどんな血統の馬に負けたかなど知る由もなかろうが、SS+サッカーボーイはとんでもない底力を発揮することがある。


秋華賞 穴馬の血統  (5番人気以下)
年度着順人気馬名母の父
1996
1
5
ファビラスラフインFRFabulous DancerMercalleKaldoun
3
7
ロゼカラーShirley HeightsローザネイFRLyphard
1997
3
9
エイシンカチータバンブーアトラスエイシンハピネスノーザンテーストCAN
1998
2
14
ナリタルナパークブライアンズタイムUSAルナパークノーザンテーストCAN
1999
1
12
ブゼンキャンドルモガミFRブゼンスワンアスワン
2
10
クロックワークリアルシャダイUSAケイワンマリオンゲイメセンUSA
2000
1
10
ティコティコタックサッカーボーイワンアイドバンブーブライアンズタイムUSA
2
7
ヤマカツスズランジェイドロバリーUSAフジノタカコマチコリムスキーUSA
2002
3
7
シアリアスバイオタマモクロスコミニュケーションマルゼンスキー
2003
3
8
ヤマカツリリーティンバーカントリーUSAリンデンリリーミルジョージUSA
2004
2
5
ヤマニンシュクルトウカイテイオーヤマニンジュエリーNijinsky
3
10
ウイングレットタイキシャトルUSAエアウイングスサンデーサイレンスUSA
2005
3
5
ニシノナースコールブライアンズタイムUSAノーブルドノールノーザンテーストCAN
2006
2
5
アサヒライジングロイヤルタッチアサヒマーキュリーミナガワマンナ

競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.10.14
©Keiba Book