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ダイワスカーレットの勝利で桜花賞は父系母系合わせてサンデーサイレンスの孫による3連覇となった。桜花賞はサンデーサイレンスが攻略までに最も時間を要したクラシックだったことを考えると、ここ5年のSS血脈の占有率の上昇は驚くべきもので、もうSS系に逆らえる場面はどこにもないのではないかと思える。皐月賞でのSSは、いきなり初年度産駒のジェニュインとタヤスツヨシが1、2着。以来12年間で12頭の直仔が連対を果たしていて、何でも得意なSSが特に得意とするレースのひとつ。今年も全出走馬の過半数をサンデーサイレンスの孫が占めた。そうなると雰囲気としてはSS系の上位独占が濃厚だが、昨年を振り返ってみれば1〜4番人気をSS直仔または孫が占め、2〜6着までがやはりSS直仔または孫だったものの、勝ったのは非SS系のオペラハウス産駒メイショウサムソン。SS登場以降の皐月賞を振り返ると、SSでもブライアンズタイムでもなければノーザンダンサーの直系というケースが多い。例外は98年の勝ち馬セイウンスカイだけ。これはやはり熾烈なクラシック戦線の途中で走り過ぎて消耗したSSが、ここ一番で頑健なノーザンダンサーの反撃を受けるという構図だろう。 そういった大雑把な理由で◎ナムラマースをピックアップしてみた。父のチーフベアハートは3歳秋口のカナダ三冠最終戦ブリーダーズS(芝12F)で初めての重賞勝ちを果たすと、続くG1カナディアン国際でシングスピールの2着。4歳を迎えると国外に打って出て手薄な米国芝戦線を席巻し、カナディアン国際、BCターフのG1連勝でシーズンを終了。この年は7戦して5勝2着2回、G1・2勝、G3・2勝の輝かしい戦果を挙げた。3歳前半は三冠前哨戦のプレートトライアル3着、三冠第一関門クイーンズプレート4着と今イチだったので、晩成といえば晩成なのだが、種牡馬としては朝日杯フューチュリティSのマイネルレコルトや京都新聞杯のマーブルチーフを出している。チーフズクラウン系でもあり、軌道に乗りさえすれば一気に力をつけて大物に育つといえるだろう。ナムラマースの場合は祖母の産駒に米G1ホイットニーHのブランズウィック、4代母コンティニューの子孫にはケンタッキーダービーのスウェール、英2000ギニーのシャディードなど多くのクラシック馬が出る一流の牝系。特にコンティニューにトムロルフ、ミスタープロスペクターとかかった大種牡馬フォーティナイナーは祖母に非常に近い配合でもある。チーフベアハートとの配合で大きくクローズアップされるのが祖母の父ミスタープロスペクターの血で、父の祖母マートルウッドラスとミスタープロスペクターはゴールドディガーを母とする半兄妹の間柄。このゴールドディガー4×4のインブリードがあるおかげで、茫洋とした印象のあるチーフベアハートの配合がピリッと引き締まり、パワーとスピードが加わっているようにも思える。狙いは大雑把だが、血統構成は極めて緻密なのである。母の父は父と同じカナディアン国際の勝ち馬で、サドラーズウェルズと仏オークス馬デュネットの配合という名血。日本では懸念されたスピード不足がモロに出たが、母の父としてはスタミナの供給源として優れた効果を上げそうだ。パーツ毎に見ると2400m向きの印象が強い配合ではあっても、テイエムオペラオー、メイショウサムソンなどサドラーズウェルズ血脈にはこのレースで実績があり、小回りでペースの緩まないこの時期の2000m戦は、予想以上にスタミナが要求されるケースが多い。SS系の切れ味が尽きてから、もうひと伸びが利くのはこういう血統なのではないだろうか。 ノーザンダンサー直系で、母系からサンデーサイレンスが入るのが○アサクサキングス。父は伊ダービー馬で天皇賞(春)のイングランディーレとオークス馬スマイルトゥモローを出した。イングランディーレは単勝10番人気、スマイルトゥモローは4番人気でタイトルを得ているから、意外性の大種牡馬といっていい。父系祖父ダンシングブレーヴの直仔には98年2着のキングヘイロー、娘の子には昨年の勝ち馬メイショウサムソンがいて、このレースには相性の良い血脈。そして、母は95年の勝ち馬にしてSSのクラシック馬第1号となったジェニュインの全妹。ジェニュインはまた、エアシャカール、アグネスタキオンらが後に続いたSS×ボールドルーラー系の最初の成功例でもあった。SSの衝撃的なクラシックへのデビューから12年、初めてSS不在で迎える年に、こういう記念碑的な血統はよく合う。 ▲フサイチホウオーも母の父がサンデーサイレンス。母は3歳暮れの阪神牝特で2着して引退。3代母は仏1000ギニー、サンタラリ賞、仏オークスとフランスの春の3歳牝馬のG1を全勝した名牝で、娘のムーンライトダンスもサンタラリ賞に勝った。父ジャングルポケットの荒々しさがそのまま出ているように見えるが、一流の牝系にトニービン、ヌレエフ、サンデーサイレンス、エルグランセニョールと日欧の名血をバランス良く組み合わせており、ベースとなるハイペリオン血脈が遠い代で効果を上げ、父系のゼダーンと3代母マデリアの父カロからフォルティノに至るグレイソヴリンの血がスパイスとして効いている。名配合といえるだろう。ただ、ダービーとジャパンCを制した父も、このレースでの3着を含め、中山の大レースではことごとく敗退しており、問題があるとすればその点。阪神で勝っているのだから大丈夫とも考えられるし、それと同じくらいの確率で、やっぱりトニービンは東京でなければという結果も想像できる。 △サンライズマックスは昨年の勝ち馬と同じく母の父がダンシングブレーヴ。父は朝日杯のドリームジャーニーを出して、自身は7歳まで時間がかかった大レース制覇を、産駒は2世代目で早くもやってのけた。ステイゴールドの母は阪神3歳S勝ち馬サッカーボーイの全妹なので、そういった産駒が出てくる要素は十分にあったわけだが、現役時の戦績を知っていると意外ではある。これもダンシングブレーヴ系と同じく意外性の大種牡馬として成功することになるのではないだろうか。その両者の組み合わせとなると、実際のところの能力はかなり推測が難しいものになる。でも、当たれば大きそうですよね。祖母は東海菊花賞勝ち馬で、その産駒には帝王賞2着のミラクルオペラ、3代母の産駒にダービーグランプリのナリタホマレがいるダート色の強い牝系だが、遡れば5代母の産駒に南関東から中央に転じて68年の天皇賞(春)を圧勝したヒカルタカイがいる。こういった古い名門にSS血脈を導入して大きな飛躍を遂げるケースは多い。前走から更に上昇する余地は大きいだろう。 ローレルゲレイロの父は98年の2着馬。カワカミプリンセスが出現したことで、良血に見合った能力が改めて証明された。ユートピア牧場の名門セレタ系から出た5代母クリヒデは62年の天皇賞(秋)を制した名牝。そこにキングヘイロー、テンビー、カコイーシーズ、マルゼンスキーと日英のクラシックを勝てなかったり出られなかったりした名馬ばかりを集めた配合だが、そのぶん2、3着候補としての妙味は高まる。 |
競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.4.15
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