2007エリザベス女王杯


お茶の時間

 牝馬がダービーを勝つというのは大変なことのようで、大変だからこそ日本では64年も例がなかったわけだが、昭和12年のダービー馬ヒサトモは次の勝利を挙げるまでに1年を要している。同18年のダービー馬クリフジはその後も無敗を続けたが、時代が競馬どころではなくなってしまった。近い例があるのはアメリカのケンタッキーダービーなので、下に歴代ケンタッキーダービー優勝牝馬のその後を表で並べてみた。おまけとして今年ベルモントSをこちらは102年ぶりに制した牝馬ラグズトゥリッチズもつけた。遠い時代のリグレットはともかく、三冠フル出場のジェニュインリスクとウイニングカラーズは相当苦労している。ラグズトゥリッチズがベルモントS以降秋まで出走態勢が整わなかったのも記憶に新しいところだ。こういった例を引いてウオッカに対するネガティヴキャンペーンを繰り広げるのは本意ではないが、ひとついえるのは競馬に限らず代償をともなわない栄光はないということ。牡馬でもダービー制覇で燃え尽きる場合が少なくないわけだし、実際に父もダービーが最後のレースになった。昨年のメイショウサムソンも秋にはひとつも勝てなかった。逆にいえばダービー制覇はそれだけ大変なことなのだという……あれれ、冒頭に戻っちゃいましたね。ともあれ、父が日本ダービー馬、その父ブライアンズタイムがフロリダダービー馬で日本ダービー馬の父、ロベルトが英ダービー馬、クリスタルパレスが仏ダービー馬、タニノシーバードの父シーバードが英ダービー馬、母系のリヴァーマンは仏ダービー馬と伊ダービー馬の父、トウショウボーイは日本ダービー馬の父と、4代血統表に出現する牡馬の約半数がダービー絡みというその血統がダービー制覇の原動力だとすると、“その後”まで保証はしかねるのではないか。それがもし見当違いなら、東京2400mのダービーコースでこそと考えることもできるだろう。そういうわけで

リグレット Regret
栗、1912年生、父Broomstick
母Jersey Lightning、母の父Hamburg
年月日レース
1915.05.08ケンタッキーダービー
15.08.17サラナックH
16.07.31サラトガH
16.08.18アローワンス
17.05.31アローワンス(牝)
17.06.25ブルックリンH
17.07.10ガゼルH(牝)
17.09.25ハンデ
ジェニュインリスク Genuine Risk
栗、1977年生、父Exclusive Native
母Virtuous、母の父Gallant Man
1980.05.03ケンタッキーダービーG1
80.05.17プリークネスSG1
80.06.07ベルモントSG1
80.09.10マスケットSG1(牝)
80.09.27ラフィアンHG1(牝)
81.04.11アローワンス(牝)
81.05.25アローワンス(牝)
81.08.10アローワンス(牝)
ウィニングカラーズ Winning Colors
芦毛、1985年生、父Caro
母All Rainbows、母の父Bold Hour
1988.05.07ケンタッキーダービーG1
88.05.21プリークネスSG1
88.06.11ベルモントSG1
88.09.10マスケットSG1(牝)
88.10.15スピンスターSG1(牝)
88.11.05BCディスタフG1(牝)
89.04.29アグリームHG3(牝)
89.05.13シュヴィーHG1(牝)
89.08.26アローワンス(牝)
89.09.09マスケットSG1(牝)
89.09.30ターフウェイBCS(牝)
89.10.21アケダクトBCH(牝)
89.11.04BCディスタフG1(牝)
ラグズトゥリッチズ Rags to Riches
栗毛、2004年生、父A.P. Indy
母Better Than Honour、母の父Deputy Minister
2007.06.09ベルモントSG1
07.09.15ガゼルSG1(牝)


 今回もサンデーサイレンス系の有力馬が多いので、少々無理のある狙いだが、ブライアンズタイム直仔のタイキマドレーヌにしてみる。00年にブライアンズタイム産駒ファレノプシスがこのレースを勝ったときは1番人気のフサイチエアデール、2番人気トゥザヴィクトリーがいずれもサンデーサイレンス産駒だった。当時に似ているといえば似ている状況。特に皐月賞馬ヴィクトリー、ダート王者フリオーソが出る今年は父の復活ぶりが目覚ましい。半兄は安田記念、ジャックルマロワ賞など日仏のG1を制した名馬タイキシャトル。祖母の孫には阪神ジュベナイルフィリーズのピースオブワールドがいる。マイルチャンピオンシップのシンコウラブリイとは4代母を共有しているので、一流馬がマイラーと出る傾向の強い牝系ではあるが、母の父カーリアンの血が生きるヘイルトゥリーズンの3×4を持つ点は偉大な兄と同じで、この父ならこの母の良さを損なわずに距離克服能力が高められていると見ることもできる。ここまでに示した能力では上位と大きな開きがあるのは事実だが、そういった差を埋める上昇力に優れているのも父の持ち味。ちなみに85年生まれの父はケンタッキーダービーで牝馬の後塵を拝したクチだが、次走のプリークネスSではリズンスターの2着に入ってウイニングカラーズに1 1/4馬身先着を果たし、とりあえず汚名はそそいでいる。

 ▲ダイワスカーレットは半兄ダイワメジャーが2000mを超えるとパフォーマンスが下がるので、同様の傾向は見ておかねばならない。強力なスプリント血脈クリムゾンサタンの入るスカーレット一族の宿命のようなものだ。ただ、昨年の兄の成績でいうと、ディープインパクトを別にすれば、4着の宝塚記念が2着から0秒4差、3着の有馬記念は2着から0秒1差だった。印象ほど長距離が向かないわけではない。父のアグネスタキオンも産駒全体のマイラー傾向は今のところ否定できないが、その全兄アグネスフライトがダービー馬なのだし、トップクラスに抜け出す者は距離面でもある程度は融通が利くと考えていい。同じスカーレット一族でも、クリムゾンサタンが一代遠ざかっているヴァーミリアンやサカラートはダートで2500mや2300mを平気でこなしている。勢いのある系統はこういった限界を徐々に壊していくものでもある。

 フサイチパンドラは01年の勝ち馬トゥザヴィクトリーと同じサンデーサイレンス×ヌレエフ。トゥザヴィクトリーがドバイワールドC日本馬最先着記録(2着)を保持しながら、より軽いレースで簡単に負けることが多かったのは、気性による部分が大きいが、その点はこの馬も同様。その気になって全力を発揮すればアグネスアークを抑え込んでいるくらいだから、今年も能力に陰りはない。牝系はベストインショウ系で、今年もこの名門牝系からはアメリカのラグズトゥリッチズ、英愛でG1を4連勝したピーピングフォーンが現れた。世界3地域で同一年にG1勝ちという快挙を平気でやり遂げて不思議のないファミリーだ。

 今年のキーンランド11月セールでは初日に1050万ドルという繁殖牝馬としては世界レコードとなる価格でプレイフルアクト(英G1フィリーズマイル)が落札された。同じ日にこれも十分高額な230万ドルで落札されたのがメロールアインダ。アメリカンオークスでシーザリオの2着に入ったあの馬で、これがディアデラノビアの従姉妹。ということは、父がサンデーサイレンスだけにG1のタイトルを手に入れれば世界的にも大変な価値が生じることになる。

 今年のブリーダーズCはクラシックとターフを同一種牡馬の産駒が勝ったが、違う年ならコジーンも両方勝っているし、自身もマイルを勝っている。スピードとか切れ味ばかりが武器と思われがちだが、主流血脈に負けない底力も秘めている。一発があればローブデコルテ


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.11.12
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