2007NHKマイルC


スピードの世界基準

 日本がパートT国に昇格したことで、重賞の格付けは正式なグレードであるG1、G2、G3と国内的にのみ通用するJpn1、Jpn2、Jpn3(それぞれローマ数字)の二重構造になった。一部重賞は正式な「グレードの()」に通され、残りは控えの間で待たされている。遠からず控えの間から解放される可能性はあるが、保証があるわけではない。サッカーのワールドCの出場枠やオリンピックの競技ルール、F1の規則、これらはいつも欧州が切り札を握っている。競馬も同じだ。非居住外国人の馬主登録問題をはじめ、さまざまな交渉のカードとしてGの格が使われることになるだろう。こんなことならもとの「パート2の間」のほうが居心地が良かったなという考えが出てくるのも無理からぬことだが、いったん土俵に上がってしまった以上、もう後戻りはできない。

 実は控えの間も、条件次第で「グレードの間」に進める組と、残らなければならない組の2つに分かれている。パート1の格付けを得られる基準は原則として以下の3つ。

 (1)国際競走であること。
 (2)過去3年間のレースレーティングの平均が各グレードの基準を満たすこと。
 (3)新設後3年間の競走実績があること。

 問題となるのは(2)で、下表に示した通り、NHKマイルCは過去3年間の平均が110.00。この数字はファイナルレースレーティングと呼ばれ、各レースの上位4頭の年度末時点での最高レーティングを平均したもの。皐月賞や日本ダービーは四捨五入でG1基準の115をクリアするが、このレースはそこまでにかなり隔たりがある。3歳限定戦なので、ある程度おまけしてもらえる可能性もあるが、厳密にいえば基準に満たない。したがって、Gなら“1”を名乗れない。ところがJpnなら“1”で通ってしまう。おまけにJpn1と書いてジーワンと呼べという。「水野」と刷った名刺を渡して「オオノです」といっているようなものだ。このような偽装がいったいどこまで通用するというのだろうか。20年にわたって定着してきたグレード制とレース体系を崩したくない気持ちは分かるが、判断の基準がJRAの都合ばかりで、何が正しく何が正しくないかが置き去りにされている。せっかく新しく立派な服が用意されているのに、いったん素っ裸になることを拒んでいては、いつまでもたっても着替えが終わらないのではないか。

3歳限定戦(牡馬)のレースレーティング
年度皐月賞NHKマイルC日本ダービー菊花賞
2004ダイワメジャー113キングカメハメハ117キングカメハメハ117デルタブルース116
コスモバルク117コスモサンビーム107ハーツクライ114ホオキパウェーブ111
メイショウボーラー110メイショウボーラー110ハイアーゲーム111オペラシチー110
コスモサンビーム107ダイワバンディットUSA103キョウワスプレンダ109コスモバルク117
FRR111.75109.25112.75113.50
2005ディープインパクト124ラインクラフト(f)116ディープインパクト124ディープインパクト124
シックスセンス113デアリングハート(f)111インティライミ114アドマイヤジャパン113
アドマイヤジャパン113アイルラヴァゲイン110シックスセンス113ローゼンクロイツ109
マイネルレコルト108ペールギュント107アドマイヤフジ109シックスセンス113
FRR114.50111.00115.00114.75
2006メイショウサムソン117ロジック111メイショウサムソン117ソングオブウインド117
ドリームパスポート121ファイングレイン110アドマイヤメイン116ドリームパスポート121
フサイチジャンク110キンシャサノキセキAUS114ドリームパスポート121アドマイヤメイン116
アドマイヤムーン121アポロノサトリUSA104マルカシェンク113メイショウサムソン117
FRR117.25109.75116.75117.75
2004〜2006 平均 114.50110.00114.83115.33
※FRR(ファイナルレースレーティング)は各馬の年度末のレーティングの平均、牝馬(f)は4ポイント加点



 エルコンドルパサーやクロフネといったクラスが毎年複数出走してくればこのレースの実質G1格も安泰なのだろうが、この路線を底支えしてきたマル外の勢力が弱まると、キングカメハメハやラインクラフトらクラシック級の勇気ある挑戦がない限りレベル低下は避けられない。レースレーティングを持ち出したついでに、今年のメンバーを持ちレーティングで見ると、上位4頭はローレルゲレイロ110、オースミダイドウ109、マイネルシーガル106、マイネルレーニア106となる。ちなみにシンザン記念上位4頭の現時点でのレーティングを見るとアドマイヤオーラ110、ダイワスカーレット115(セックスアローワンス4点加点)、ローレルゲレイロ110、エーシンビーエル97。それぞれ平均すると107.75対108.00でシンザン記念の方が高い。途中経過で比べては気の毒な面もあるが、こういったレベルなら下位からの逆転も十分あり得る。

 過去10年の連対馬を色分けすると、Mr.プロスペクター系×ノーザンダンサー系の配合が3勝(エルコンドルパサー、イーグルカフェ、キングカメハメハ)2着3回(ブレーブテンダー、ザカリヤ、アグネスソニック)と際立っている。父エンドスウィープ、祖母の父ノーザンテーストのラインクラフトもそのバリエーションと考えると1勝上乗せとなる。世界のマイラーの定番ともいえる配合パターンなので好成績も当然だが、今回この組み合わせは2頭しかおらず、には両者の代が近いワールドハンターを選んだ。父はG1・11勝の名牝アゼリの父として知られ、それ以外にもシュテューカ、ヤグリ、ディアゾら3頭のG1ウイナーを出した。他にミッドウェイロードやフーファズウォリアなどレコードでG3勝ちを果たした産駒もいて、優れたスピードを示している。日本では96年に単年度供用されたが、その前にマル外としてエーピーダンサーがラジオたんぱ賞を逃げ切った。祖母の父シアトルスルーはシーキングザパールの母の父、シンボリインディの父系祖父、エルコンドルパサーの祖母の父だからこのレースには縁が深い。同じ牝系出身のMr.プロスペクターとシアトルスルーの相性の良さも効果を上げそうだ。

 シアトルスルーの名前が出たのでボストンハーバー産駒のイクスキューズ。母はG1フラワーボウルHに勝ち、半兄にはG1・4勝のプラグドニクルがいる。祖母は91年のケンタッキー年度代表繁殖牝馬に選ばれた名牝。エーピーインディやサマースコール、レモンドロップキッドといった米国の名馬が続々と現れる当代屈指の名門ミッシーババ系。スピード任せで単調な面のある父だが、母の父からリボー、祖母の父にバックパサーが入ればひと味違う。

 ▲アサクサキングスの母はジェニュインの全妹。皐月賞馬の全妹なので皐月賞でも期待したが、あの内容を見るとマイルチャンピオンシップ勝ち馬の全妹と考えるべきか。

 穴は国産血統としてこのレースで最初の連対を果たしたサクラバクシンオー産駒のシャドウストライプ


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.5.6
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