2007菊花賞


一子相伝の名演技

 牝馬が64年ぶりに日本ダービーを制した今年、アメリカでも米三冠の最終関門ベルモントSを102年ぶりに牝馬が勝っている。そのラグズトゥリッチズに名をなさしめた今年の米国3歳牡馬世代は弱いのかというとそうでもなくて、ベルモントSで直接アタマ差敗れたカーリンのジョッキークラブゴールドC制覇をはじめ、この秋になってブリーダーズCクラシックの前哨戦となる主要レースで次々と古馬を撃破している。日本の3歳牡馬戦線に目を戻すとどうかというと、どうなんでしょうね。これからおそらくそれなりに強い馬が現れて最終的には帳尻が合うのだろうが、今のところは豪華絢爛というべき強力牝馬軍団の戦績の影でくすぶっている印象が強い。ここは牝馬に敗れたというトラウマに無縁のクラシック不参加組を中心に狙おう。

 ホクトスルタンは春にそこそこの素質を示して北海道で3勝目を挙げ、菊花賞に向けての前哨戦で出走権確保に失敗しながら最終的に出走枠に滑り込んだ。ここまでは、父メジロマックイーンと同じ軌跡をたどってきた。そんなね、絵に描いたようにうまくことが運ぶなら苦労はしないと普通は疑うが、そのメジロマックイーンにしても4年前の半兄メジロデュレンの菊花賞制覇へのステップをモデルにして出来過ぎた話を実現している。2度あることは3度あるかもしれない。メジロマックイーンは菊花賞をきっかけに当時を代表する名馬として下表に示した通りの実績を残して種牡馬となったが、産駒から重賞勝ち馬はこれまでエイダイクインとタイムフェアレディの2頭の牝馬が出たのみで、昨年の4月3日に世を去った。こうなってくると父系の存続という点では絶望的だ。しかし、パーソロン系、さらに遡ってトゥルビヨン系は細々と渋太く父系を繋いでいくことで知られている。実際にメジロティターンは低い受精率に悩んだメジロアサマの78年生まれの産駒たった3頭のうちの1頭で、綱渡りのようにしてお家断絶の危機を乗り越えてきた。このように逆境にあってチャンスを掴み取る力はこの父系固有のものということもできるだろう。一方の牝系は社台グループの根幹ファミリーのひとつであるファンシミン(5代母)に遡る。3代母のダイナフェアリーに代表されるこの牝系は、G2〜3級には強いがG1級では壁があるという評価が固まりつつあったが、それを覆してクラシック勝ちを果たしたのが一昨年の桜花賞馬ラインクラフトであり、また昨年の菊花賞馬ソングオブウインドであった。母の父サンデーサイレンスというのもそれらと同じで、祖母の父リアルシャダイの産駒にはメジロマックイーンの天皇賞3連覇を阻止したライスシャワーを筆頭に大レース向きのステイヤーが多く出た。今回のメンバーで3000mが有利になる唯一の血統といってもいいだろう。


メジロマックイーンの父系
パーソロンIRE PARTHOLON (1960年生、父Milesian)英愛2〜3歳時13戦2勝、
    |    愛ナショナルS、イボアH

  メジロアサマ (1966年生)2〜6歳時48戦17勝、天皇賞・秋、ハリウッドターフ
     |   クラブ賞、アメリカジョッキークラブ賞、アルゼンチンジョッキークラブ賞
    メジロティターン (1978年生)3〜5歳時27戦7勝、天皇賞・秋、日経賞
      メジロマックイーン (1987年生)別掲 21戦12勝


メジロマックイーン全成績
牡 芦毛 1987.4.3生 生産者 吉田堅氏(浦河)  馬主 メジロ商事(株) 栗東・池江泰郎厩舎 2006.4.3没
年月日開催馬場レース名着順人気頭数枠順騎手斤量距離タイム通過順上がり1着馬(2着馬)馬体重
90.02.031阪3新 馬12106村本55ダ17001.47.72-2-1-1S37.00.3ハギノレジェンド492
02.252阪2ゆきやなぎ50021136村本55芝20002.04.64-7-1-1H38.50.2シンボリデーバ486
05.122京7あやめ賞50031153村本55芝22002.17.51-2-2-3M37.80.4ホウユウロイヤル484
09.022函2渡島特別50021108内田浩55ダ17001.46.62-1-1-1M38.90.0マンジュデンカブト496
09.162函6木古内特別5001184内田浩55ダ17001.47.31-1-1-1M37.60.1リキサンロイヤル498
09.232函8大沼S900111412内田浩54芝20002.04.53-4-2-2M38.10.3トウショウアイ498
10.133京3嵐山S15002195内田浩55芝30003.06.65-5-5-5S36.50.2ミスターアダムス480
11.044京2菊花賞14172内田浩57芝30003.06.28-5-1-1M35.40.2ホワイトストーン484
91.03.101名6阪神大賞典1194武豊58芝30003.07.35-4-1-1S35.40.2ゴーサイン488
04.284京4天皇賞(春)111815武豊58芝32003.18.86-5-4-3S36.00.4ミスターアダムス482
06.095京8宝塚記念211010武豊56芝22002.13.84-5-4-4S36.10.2メジロライアン484
10.066京2京都大賞典1174武豊59芝24002.26.54-3-1-1S35.50.6メイショウビトリア486
10.274東8天皇賞(秋)1811813武豊58芝20002.02.93-3-2-2M37.41降プレクラスニー498
11.245東8ジャパンC G141155武豊57芝24002.25.33-6-5-4S35.00.6ゴールデンフェザント498
12.225中8有馬記念21151武豊57芝25002.30.88-8-8-4M35.50.2ダイユウサク492
92.03.151阪6阪神大賞典1164武豊59芝30003.13.53-3-3-1S36.70.8カミノクレッセ492
04.263京2天皇賞(春)12145武豊58芝32003.20.06-3-1-1S36.30.4カミノクレッセ490
93.04.042阪4大阪杯111613武豊59芝20002.03.32-3-2-1M37.10.8ナイスネイチャ504
04.253京2天皇賞(春)211514武豊58芝32003.17.53-4-2-1M36.80.4ライスシャワー500
06.133阪8宝塚記念11116武豊56芝22002.17.73-3-4-2M38.00.3イクノディクタス494
10.105京2京都大賞典11101武豊59芝24002.22.75-5-4-1H35.70.6レガシーワールド496

 マンハッタンスカイの父マンハッタンカフェは01年の菊花賞馬。これも弥生賞4着から北海道の長距離戦で頭角を現し、セントライト記念での力試しを経て本番を制した。同じ年に種牡馬となったタニノギムレットやジャングルポケットに比べると出遅れた印象は否めないが、ステイヤーだけにこれもある程度は予想されたことで、2世代目からはさっそく札幌2歳S勝ちのオリエンタルロックを送り出して資質の確かさは示している。母の父はケンタッキーダービー馬。ヒズマジェスティを経てリボーに遡る。同じリボー系の半兄プレザントタップはタップダンスシチーの父として日本にもなじみの米国ステイヤー血統。父の母の父ローソサイアティがアレッジド直仔なので、リボー血脈が都合2本入っており、大駆けの期待がかかる。

 ▲ローズプレステージはおなじみ“バラ一族”で、3親等以内の近親の重賞コレクションが14にものぼる名門。母は秋華賞3着、オークス4着、姉ローズバドはオークス、秋華賞、エリザベス女王杯で2着し、半兄ローゼンクロイツは菊花賞3着とクラシックになるとどういうわけかあと一歩が詰め切れない“無冠の名門”だが、ファンシミン系にせよ、ダイワメジャーとダイワスカーレットを擁する“スカーレット一族”にせよ、ひとつ勝つまではそのように呼ばれていた。父は96年の菊花賞馬で、産駒は03年ザッツザプレンティ、04年デルタブルースとこのレースを連覇。秋華賞2着のレインダンスもこの父の産駒で、大レースで示す底力はSS直仔でも随一といっていい。シャーリーハイツは欧州の一流ステイヤー血統でブルードメアサイアーとして特に優秀だし、ニジンスキーとリファールを経由したノーザンダンサー4×4の近交を持つ点はザッツザプレンティと共通する。

 ヒラボクロイヤルはロベルト系×ミスタープロスペクター系。このパターンはブライアンズタイム産駒のオークス馬チョウカイキャロルや、そのひとつ年長でブリーダーズCディスタフに勝ったハリウッドワイルドキャット(クリスエス×Mr.プロスペクター牝馬)によって頭角を現し、今やすっかり大レースの定番ともいえる配合になった。大まかにいえば、ロベルトのスタミナと底力、Mr.プロスペクターのスピードとパワーをバランス良く備え、ナシュアのインブリードが生じることによって柔軟性や距離克服能力が増すと類型化することができる。3代母の孫に04年の2着馬ホオキパウェーブがいる牝系で、ノーザンダンサー直仔の祖母はアラバマSに勝った名牝。そこにMr.プロスペクターがかかった80年代最高級血統ともいえる母の潜在的パワーは侮れない。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.10.21
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