2007天皇賞・春


兄とは違う種類の奇跡

 2冠馬クラブで最も数が多いのは下表1に示した通り皐月賞とダービーに勝った春の2冠馬。しかし、春の天皇賞に限ると、最大派閥であるにもかかわらず、この組だけがまだ1頭も勝ち馬を出していない。3歳戦で燃え尽きるものが多いのも事実だが、ボストニアンとメイズイの2着が最良の成績。春にダービーを勝てるくらいなら秋に菊花賞を勝ったり翌年春に天皇賞を勝ったりするのはそれほど難しくないとも思えるのだが、実際には距離の差以上に大きな困難が伴うようだ。今回メイショウサムソンがこのジンクスに挑む。ここで思い出しておきたいのが、同じ父の産駒テイエムオペラオー。その後の強さからは信じ難いことだが、オペラオーも何だかんだで3歳秋は未勝利に終わっている。楽な相手で勝ち癖をつけるために挑んだステイヤーズSでさえ単勝1.1倍の人気を裏切って2着に敗れた。この血統には、不振というわけではないが勝ち切れない時期を通過した後に大成するという面があるようだ。成長の過程とレース体系とが微妙に齟齬をきたすのが3歳秋ということではないだろうか。その時期を過ぎたテイエムオペラオーの活躍は周知の通り。メイショウサムソンは4代母ガーネットが1959年秋の天皇賞馬。そして、父が“キングジョージ”、母の父が凱旋門賞勝ち馬なのでスタミナに不足はなく、同じ父の偉大な先輩の蹄跡をたどることも可能だろう。ただ、繰り返しになるが、皐月賞とダービーに勝っていながら菊花賞や春の天皇賞には勝てないケースがこれだけ多いと、東京2400mと京都3200mでは、求められる資質に大きな違いがあると考えておかなければならない。そのぶん

表1)  2冠馬(と三冠馬)の天皇賞(春)成績
年度馬名勝ち鞍天皇賞(春)
1941セントライト三冠 
1943クリフジダ菊 
1949トサミドリ皐菊'51(2)
1950クモノハナ皐ダ 
1951トキノミノル皐ダ 
1952クリノハナ皐ダ 
1953ボストニアン皐ダ'54(2)
1954ダイナナホウシュウ皐菊※1
1960コダマ皐ダ'61消
1963メイズイ皐ダ'64(2)
1964シンザン三冠※2
1970タニノムーティエ皐ダ 
1971ヒカルイマイ皐ダ 
1973タケホープダ菊'74(1)
1974キタノカチドキ皐菊'75(2)
1975カブラヤオー皐ダ 
1981カツトップエース皐ダ 
1983ミスターシービー三冠'85(5)
1984シンボリルドルフ三冠'85(1)
1985ミホシンザン皐菊'87(1)
1987サクラスターオー皐菊 
1991トウカイテイオー皐ダ'92(5)
1992ミホノブルボン皐ダ 
1994ナリタブライアン三冠'96(2)
1997サニーブライアン皐ダ 
1998セイウンスカイ皐菊'99(3)
2000エアシャカール皐菊'01(8)
2003ネオユニヴァース皐ダ'04(10)
※1:'55秋(1) ※2:'65秋(1) ミスターシービーは'84秋(1)


 過去10年で1〜3番人気馬が1〜3着を占めたケースは5回。昨年は1、2番人気がそのまま1、2着した。人気馬がしっかりしていれば荒れることはないが、今回のように人気馬が今イチ頼りないと派手に荒れる。3200mという特殊な距離なので、思いもよらないことが起きやすい。そこで、下表2に沿って過去10年の穴馬(4番人気以下)の傾向で今回適用可能なものを探すと、サンデーサイレンス直仔(ステイゴールド、ゼンノロブロイ、スズカマンボ)、古い牝系(ヒシミラクル、サンライズジェガー、イングランディーレ)の2つが浮上する。その両方にバッチリ当てはまるのがトウカイエリート。半兄トウカイテイオーとは実に12歳違い(人間ならひと回り!)であり、兄が3歳春から活躍したのに対してこちらは7歳だから時間的な隔たりは更に大きくなる。それだけ間隔が開いて兄弟で好成績を挙げた例があるのだろうか。常識的には難しいと思うが、一応調べてみた。すると意外にいるもんですね。年の離れたきょうだいによるG1(級)勝ちは、北半球に限ると母アンキャンベルのデザートワイン(80年生、ハリウッドゴールドカップH)とメニフィー(96、ハスケル招待H)の16歳差が恐らく最大。あと、母キラルーのファピアノ(77、メトロポリタンH)とトレンシャル(92、ジャンプラ賞)の15歳差、母コラルダンスのナスルエルアラブ(85、オークトゥリー招待S)とブラックミナルーシュ(98、愛2000ギニー)、あるいは母ブラウンベリーのアヴァター(72、ベルモントS)とアワーズアフター(85、仏ダービー)の13歳差までがレアな記録。日本では母ダンシングキイのダンスパートナー(92、優駿牝馬)とダンスインザムード(01、桜花賞)の9歳差が最大と思われる。こういったトリビアが予想の決め手になるわけではないが、12歳差の兄弟G1制覇があり得ないことではないっちゅうことですな。

表2)  天皇賞(春)過去10年 連対馬の牝系輸入世代
年度着順馬名人気輸入世代輸入牝馬(生年)
1997マヤノトップガン2アルプミープリーズUSA(1981)
サクラローレル1ローラローラFR(1985)
1998メジロブライト28代母ソネラUSA(1919)
ステイゴールド103代母ロイヤルサッシュGB(1966)
1999スペシャルウィーク19代母フロリースカップGB(1904)
メジロブライト38代母ソネラUSA(1919)
2000テイエムオペラオー1ワンスウェドUSA(1984)
ラスカルスズカ3ワキアUSA(1987)
2001テイエムオペラオー1ワンスウェドUSA(1984)
メイショウドトウIRE3自身(プリンセスリーマUSA)(1984)
2002マンハッタンカフェ2サトルチェンジIRE(1988)
ジャングルポケット3ダンスチャーマーUSA(1990)
2003ヒシミラクル710代母ヘレンサーフGB(1903)
サンライズジェガー85代母ロイヤルアグリーメントGB(1960)
2004イングランディーレ109代母クヰックランチUSA(1922)
ゼンノロブロイ4ローミンレーチェルUSA(1990)
2005スズカマンボ13スプリングマンボGB(1995)
ビッグゴールド14ビューティフルゴールドUSA(1986)
2006ディープインパクト1ウインドインハーヘアIRE(1991)
リンカーン2祖母バレークイーンIRE(1988)


 ▲アイポッパーは菊花賞馬ナリタトップロード、03年のこのレースの勝ち馬ヒシミラクルを出したサッカーボーイの産駒。母の父としてのサンデーサイレンスは、昨年の菊花賞馬ソングオブウインド、現役日本最強馬アドマイヤムーンを出していて、今年あたりはブルードメアサイアーとしてもチャンピオンの座に就きそうだ。祖母の父ニジンスキーからもスタミナの補強を受けているし、高齢まで活力が衰えないのは父の持つノーザンテースト血脈の特性。

 デルタブルースは祖母の父にアレッジドが潜む。条件勝ちの直後に菊花賞を制したり、オーストラリアに渡ってメルボルンCに勝ったり、驚くべき底力はそこに由来する。スタミナに任せて押し切る可能性がある反面、切れ味に欠けるので、あまりに強気の競馬をすると切れ味のある何かに差される恐れがある。

 一昨年はスズカマンボの母の父がキングマンボ、2着ビッグゴールドの母の父がMr.プロスペクターだった。Mr.プロスペクター系の超長距離への勢力拡大は着々と進んでいる。トウカイトリック、トウショウナイト、エリモエクスパイアらのMr.プロスペクター直系にも要注意。特にトウショウナイトは祖母ノーザネットが米G1トップフライトH勝ち馬で、3代母サウスオーシャンがカナディアンオークスに勝ち、近親にも多数の名馬がいるカナダの名門から出た。リボー系の母の父も大舞台での大駆けを期待させる。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.4.29
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