昨年秋以来のエルコンドルパサー産駒の大活躍は下表(1)に見る通り。それまでの不振は何だったのだろう。サラブレッド血統センターの藤井正弘さんは週刊競馬ブック「2003ファーストクロップサイアー名鑑」のエルコンドルパサーの回を「3年後のワンチャンスで総合リーディング奪取、というのが希望的観測だ」と結んだが、予定より1年遅れたとはいえ、それに近いことが起こり得なくもない状況になってきた。私はどう考えていたかというと、エルコンドルパサーは特殊な血脈を集め特殊なデザインを施されたことで既に完成した配合であっただけに、そういう完璧にして濃厚な良血の塊を受け入れるだけの懐の深さとか多様性とかが日本の繁殖牝馬群にあるだろうかという疑いを持っていた。むやみに疑り深いのも恥をかきますね。 |
1 エルコンドルパサーの猛攻 | ||||
日付 | レース名 | 勝ち馬 | 生年月日 | 母の父 |
2004.12.25 | ラジオたんぱ杯2歳S | ヴァーミリアン | 2002.4.10 | サンデーサイレンスUSA |
2005.11.30 | 浦和記念 | ヴァーミリアン | 2002.4.10 | サンデーサイレンスUSA |
2006.3.15 | ダイオライト記念 | ヴァーミリアン | 2002.4.10 | サンデーサイレンスUSA |
2006.10.22 | 菊花賞 | ソングオブウインド | 2003.2.20 | サンデーサイレンスUSA |
2006.11.25 | ジャパンCダート | アロンダイト | 2003.5.4 | Riverman |
2006.12.20 | 名古屋グランプリ | ヴァーミリアン | 2002.4.10 | サンデーサイレンスUSA |
2007.1.28 | 根岸S | ビッググラス | 2001.4.1 | イブンベイGB |
2007.1.31 | 川崎記念 | ヴァーミリアン | 2002.4.10 | サンデーサイレンスUSA |
2007.2.11 | ダイヤモンドS | トウカイトリック | 2002.2.26 | Silver Hawk |
2 過去10年の国際レーティング最高値 〜ワールドサラブレッドレースホースランキング |
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年度 | レーテ ィング | ランキング首位 | レーテ ィング | 日本調教馬首位 |
1997 | 137 | パントレセレブルUSA | 119 | エアグルーヴ(牝) |
1998 | 131 | スキップアウェイ | 126 | エルコンドルパサーUSA |
1999 | 135 | モンジューIRE | 134 | エルコンドルパサーUSA |
2000 | 134 | ドバイミレニアム | 122 | テイエムオペラオー |
2001 | 133 | サキー | 125 | クロフネUSA |
2002 | 128 | ロックオブジブラルタルIRE | 119 | シンボリクリスエスUSA |
2003 | 133 | ホークウィング | 124 | シンボリクリスエスUSA |
2004 | 130 | ゴーストザッパー | 122 | ゼンノロブロイ |
2005 | 130 | ハリケーンラン | 124 | ディープインパクト 120 シーザリオ(牝) |
2006 | 129 | インヴァソール | 127 | ディープインパクト |
※太字は3歳馬、03年までインターナショナルクラシフィケーション、98〜04年JPNクラシフィケーション、97年までJRAクラシフィケーション、97年エアグルーヴはセックスアローワンス4ポイントを加え123相当、05年シーザリオは同じく124相当 |
○シーキングザベストは名門中の名門ラトロワンヌの直系で、なかでも恐らくは最大であろう勢力を誇るビッグハリーの分枝。母は米G3勝ち馬で、祖母は米G2に勝ち、その子孫にケンタッキーダービー馬シーヒーロー、英G1・2勝のモーツァルトをはじめ多数の活躍馬があり、3代母はアーリントンワシントンラッシーSに勝ち、これも子孫には名牝ライトライトをはじめ無数の活躍馬がいる。アメリカンボスが出たのもここ。ラトロワンヌ系のもうひとつの大勢力であるビジネスライクから出た名馬バックパサーを3×5で持つ以外にも、全体をアメリカを代表する名馬名牝の血が隙間なく埋め尽くしている。その血統表の豪華絢爛さは古き良き時代のアメリカの富を凝縮したかのようだ。これだけの良血が重賞レベルまで上昇してくれば、初挑戦のG1も壁とはならない。 ヴァーミリアンの川崎記念勝ちは父系で見ればエルコンドルパサーの驚くべき勢いを示したことになるが、牝系に視点を替えると“スカーレット一族”のこれまた恐るべき勢いがはっきりする。これまでスカーレットリボンやスカーレットブーケがいくら活躍しても大レースでは壁があり、トライアル血統と呼ばれていたのはそう遠い昔ではない。それが、ダイワメジャーが皐月賞を制し、更に昨年秋に天皇賞・秋、マイルチャンピオンシップを連勝すると、年が明けて最初のG1となる川崎記念をヴァーミリアンが勝った。もともとがマジェスティックプリンスやユアホストの出る名門ブドワール系なので、こうなるともう次々に名馬が現れ、伸び悩んでいたものも名馬に脱皮するくらいの勢いを得たと考えていいのではないだろうか。そこでその流れを受けて台頭するのが▲サカラート。母はダイワメジャーと同じサンデーサイレンス×ノーザンテースト。そこにアフリートの配合なら1600mが短過ぎるということはないだろう。1400mからの連闘となるステップも、眠っていたスピードを覚醒させる効果があるかもしれない。 △メイショウトウコンはロベルト系×Mr.プロスペクター系の配合。これはBCディスタフのハリウッドワイルドキャット、オークスのチョウカイキャロル以来定番となったニックスで、昨年も悲運の名馬バーバロから2歳ダート王フリオーソまで多くの活躍馬が現れた。この馬の場合は祖母の父から更にロベルトが重ねられているが、リアルシャダイはインリアリティ血脈を持っている点が重要。これもMr.プロスペクターと組み合わされることで大レース向きの底力を生む。 ブルーコンコルドはアストニシメント系エベレストの分枝にネヴァービート、ヴェンチア、ブライアンズタイム、フサイチコンコルド。日本ダービーや春の天皇賞の勝ち馬といっても通る血統。このようないわばアウトローがチャンスを得られるのもダート競馬の楽しさだろう。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2007.2.18
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