2007ダービー


SSの不在が示す近未来

 サンデーサイレンスのいなくなった日本の競馬はどうなっていくのだろうか。今年ここまでのクラシックの結果は、3レースがそれぞれに今後の可能性を示唆しているようだ。
 桜花賞はサンデーサイレンス3世にあたるダイワスカーレットが制した。父のアグネスタキオンは量的には既にSS後継レースで一歩抜け出していて、初クラシック制覇によってそれに質的な裏付けを与えることになった。ただし、ダイワスカーレットがその後オークスを感冒で取り消しているように、大出力と裏腹のセッティングの難しさもまた浮き彫りにされた。ただ、そういった弱点は世代を重ねて育成・調教のノウハウが蓄積されるにつれて解消していくものだろう。アグネスタキオンの持つ底知れないパワーを実証してみせた価値は大きい。
 皐月賞はブライアンズタイム産駒のヴィクトリーが逃げ切り。これはかつてSSキラーと呼ばれた大種牡馬の5年ぶりのクラシック制覇。ノーリーズン、タニノギムレットが出た世代以来となる。その間はタイムパラドックスからフリオーソまでダートでの活躍で繋いでいたわけだが、18歳時の種付けで皐月賞馬を出したベテランの復活は頼もしい。さすがにリーディング争いまでは望めないだろうが、高齢まで活力の衰えないリボーの血も入っているだけに、あと何年かは大御所として存在感を示すことになりそうだ。
 オークスはレース史上初めて外国産馬が勝った。ローブデコルテは05年のキーンランド9月セールで18万ドルで購買された。セリで取引されたコジーン産駒の1歳馬としては3番目の価格で、お手頃といえばお手頃な値段。かつては、このように18万ドル〜50万ドルあたりの価格帯がコストパフォーマンスが高いとされ、90年代にはグラスワンダー(25万ドル)、クロフネ(43万ドル)などの成功例が続出したが、2000年代に入ると米国市場の立ち直りによって、同じ予算を用意しても、90年代に比べると買える馬の質が相対的に低下してしまった。しかも、高額をはたいたとしても日本に連れて帰ればサンデーサイレンス産駒には敵わない。そういったことが近年のマル外低迷の背景だが、これからSS直仔は順次退場し、SSに匹敵する強力な内国産血統も現れないとなると、これまで国内に向いていた競走馬購入資金が再び外国産馬に向かう可能性も高い。

 さて、日本ダービーである。ここまで「SS後継」「アンチSS」「外国産」と3つのモデルが出現したわけだが、クラシックの最高峰であるからには、その3つとは性格を異にした、よりインパクトの強い日本競馬の近未来図が提示されることになるのではないだろうか。では、第4の啓示は何なのだろう。それさえ分かれば、勝ち馬選びは容易だ。といってもね、私は予言者ではないし、ひょっとすると競馬ブック予想者リストからも名前が漏れているかもしれないので、さっぱり予想がつかない。そこで、どれが勝てばいちばん衝撃的かを考えてみた。最も異質な存在はどれか。となると唯一の牝馬ウオッカですな。NHKマイルCの結果はともかく、今年の3歳牝馬のレベルの高さは桜花賞と皐月賞のオフィシャルレーティングを比較するとよく分かる。ダイワスカーレットが111でヴィクトリーが114。セックスアローワンスの4を加えるとダイワスカーレットが上になる。手前味噌だが、合同フリーハンデの暫定レートもダイワスカーレットが112でヴィクトリー115。こちらはセックスアローワンスが3なので、上位拮抗となる。例年だとこういったことにはまずならないので、流れ次第でダイワスカーレットを負かせる可能性のあるウオッカには、牡馬のトップクラスを破る可能性があるという論理も、少々強引だが、成り立つ。牝馬のダービー制覇は日本では昭和18年にクリフジ、昭和12年にヒサトモの2頭が勝っているだけの極めて希なケース。アメリカでもケンタッキーダービーは1915年リグレット、80年ジェニュインリスク、88年ウィニングカラーズの3頭のみ。イギリスはエリナー(1801年)に始まりブリンクボニー(1857)、ショットオーヴァー(1882)、シニョリネッタ(1908)、タガリー(1912)、フィフィネラ(1916)と発祥地だけあって6例を数えるが、もう90年以上出現していないことになる。しかし、アイルランドでは90年にサルサビル、94年にはバランシーンが勝っていて、熱心な海外競馬ファンには記憶に新しいところだろう。歴史的には非常に難しいが不可能ではないといったところだろうか。ウオッカの父は02年のダービー馬。その父ブライアンズタイムは何を隠そう88年のケンタッキーダービーで牝馬の軍門に下った情けない牡馬の一頭。余談だが、同類としてフォーティナイナー、シーキングザゴールド、プライヴェートタームズといった後の大種牡馬が並んでいるので、この年は史上希に見るフェミニストダービーだったといえるだろう。一方の牝系は名門フロリースカップ系ワカシラオキの分枝で、祖母の全妹が桜花賞に勝ってオークス2着のシスタートウショウ。4代母の孫に菊花賞馬マチカネフクキタルがいて、6代母シラオキが昭和24年のダービー2着馬。その玄孫にダービー馬スペシャルウィークが出た。今回の出走馬の大半が輸入牝馬の仔か孫で、戦前輸入の古い牝系から出ているのは他にセレタ系のローレルゲレイロのみ。昨年のメイショウサムソンはフロリースカップ系のガーネットの分枝出身だから、ポストSSは在来牝系の再評価というテーマも見え隠れする。

 普通に考えればフサイチホウオーが負けようがないところではある。ジャングルポケット産駒の東京替わりは間違いなくプラスだし、サンデーサイレンス×エルグランセニョールという米・欧の3歳チャンピオン同士の配合で、祖母がフランス春の三冠を制した名牝という母の血もクラシック志向が強い。父系がゼダーンで3代母の父がカロと、血統表中にグレイソヴリンの主流が潜むあたりも強靱な末脚を支える要因。ただ、ジャングルポケットとの父仔制覇、サンデーサイレンスが母の父としてダービー初制覇というのは確かに画期的だが、インパクトという点では弱い。グレイソヴリン系によるオークス・ダービー連勝という記録が掛かるが、これも地味だ。

 穴で▲ナムラマース。父のチーフベアハート、母の父フレンチグローリーはともにカナダ2400mのチャンピオン戦、カナディアン国際の勝ち馬。現在は断念BCターフといった立場にあるが、当時は今よりずっとハイレベルだった。いずれもジャパンCに出走歴があり、父はエルコンドルパサーの4着、母の父はベタールースンアップの9着と敗れているので、少し力不足なのは否めないが、ノーザンダンサー4×4、名牝ゴールドディガー4×4を柱にリボー血脈も父母双方が持つという配合はシンメトリックで美しい。ケンタッキーダービー馬スウェールや名種牡馬フォーティナイナーの出る牝系も一流で、ここでも格負けはしない。

 ヒラボクロイヤルはニックスとして定評のあるロベルト×ミスタープロスペクター。特にMr.プロスペクター血脈はエリモエクスパイア、コイウタ、ローブデコルテと血統表に潜んで今季の大レースの波乱の影の立て役者ともなっている。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.5.28
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