サイレントウィットネスが昨年のスプリンターズSを勝ってからというもの日本の短中距離界は香港馬にやられっぱなしで、この春も安田記念ではブリッシュラックに楽勝されてしまった。昨年暮れの香港マイルではハットトリックが逆に遠征して勝っているので「ぱなし」はいい過ぎかもしれないが、香港スプリントで何年経っても手も足も出ない事実を見ると、スプリントとマイルを合わせたこの領域での判定負けを受け入れざるを得ない。
どうしてこうなったのだろう。ひとつは輸入競走馬の減少。97年タイキシャトル、98年マイネルラヴ、99年ブラックホークとこのレースを3連勝しただけでなく、質量の両面で短距離路線全体のレベルを底上げしていたこの勢力は90年代に比べて明らかに衰えている。もうひとつは名スプリンターにして名種牡馬のニホンピロウイナーやサクラバクシンオーの後釜となるべき存在をいまだ見ないこと。
下表は高松宮記念が1200mとなった96年以降のこのレースと高松宮記念の勝ち馬のうち種牡馬となったものの一覧(産駒が競走年齢を迎えたもの)。シンコウキングはオセアニアでの成功によってニュージーランドに根を下ろした。アイルランドで種牡馬となったシンコウフォレストは今年重賞3勝のモスヴェールをはじめとして大成功を収めている。これらはもともと欧州血統で、しかもあまり日本でパッとしない父系なので、適所を得て良かったと考えられる。タイキシャトルは2頭のG1勝ち馬を出したし、マイネルラヴは初年度産駒から3頭の重賞勝ち馬が出た。ブラックホークも能力を試すには十分な機会を得ている。キングヘイローは余技でスプリントのタイトルを得たようなもので、オークス馬を送ったりするのが本来の姿かもしれない。対して、あとの3頭、マサラッキの開店休業状態、ダイタクヤマトの種付頭数減少(02年33頭→03年18頭→04年6頭→05年2頭)、トロットスターの韓国輸出(これは韓国のテスコボーイとなる可能性がないわけではない)は仕方がないことではあるが、仕方ないではすませない問題も含まれている。キングヘイローは別にして、成功の道を歩んでいるものはどれも輸入競走馬で、厳しい状況にあるのはどれも内国産馬。ニホンピロウイナーやサクラバクシンオーの後釜がいないということは国産スプリンターの再生産システムが事実上途絶えつつあるということを意味する。テイクオーバーターゲットが英国制圧の途上でレザークの反攻に遭ったり、日本馬が香港で手も足も出なかったりするのは、レベルの違いや個々の能力差が土台にあるにせよ、スプリンターの特殊性であるその強い土着性とかホーム有利の傾向が支配する面も大きい。それだけに、日本で戦う限りは負けないという力は内国産血統にこそあるのではないだろうか。
| ポスト・サクラバクシンオー種牡馬 |
| 種牡馬 | 年 | 勝鞍 | 主な産駒 |
| シンコウキング | 97 | 高 | ランブルローズ(WRCニュージーランドオークスG1)、マダムシンコウ(タラナキCG3) |
| タイキシャトル | 97 | ス | メイショウボーラー(フェブラリーS)、ウインクリューガー(NHKマイルC)、ゴールデンキャスト(セントウルS)、ディープサマー(クリスタルC)、テイエムチュラサン(アイビスSD)、ウイングレット(中山牝馬S) |
| シンコウフォレスト | 98 | 高 | モスヴェール(グロシェーヌ賞G2)、クローストゥユー(シャンペンSG2)、シンコウズベスト(プフェルデヴェッテン賞G3)、エレクトリックビート(ロットトロフィーG3)、プレストシンコウ(リゾランジ賞G3)、ガムナッツ(BTCグローヴクラシックG3) |
| マイネルラヴ | 98 | ス | マイネルハーティー(ニュージーランドT)、コスモフォーチュン(北九州記念)、コスモヴァレンチ(小倉2歳S) |
| マサラッキ | 99 | 高 | 02年より供用。03年産駒2頭 |
| ブラックホーク | 99 | ス | 02年より供用。03年産駒81頭(日)、73頭(豪) |
| キングヘイロー | 00 | 高 | カワカミプリンセス(優駿牝馬)、ゴウゴウキリシマ(シンザン記念) |
| ダイタクヤマト | 00 | ス | 02年より供用。03年産駒21頭 |
| トロットスター | 01 | 高ス | 03年より供用。04年産駒5頭(韓国へ輸出) |
| ※産駒が競走年齢に達したもののみ。年は優勝年度、スはスプリンターズS、高は高松宮記念 |
そこで◎としてブルーショットガンに登場していただく。確か高松宮記念のときも本命にしたが、当時はイットーに遡る牝系が高松宮杯に縁が深いという駄洒落に走って失敗した。そこで、今回は父がこの舞台で連覇をしているという、より単純明快な理由付け。今までの実績からすると今まで見せたことがないようなパフォーマンスを求められるが、そういった部分は母の父スーパークリークの底力に期待できるのではないか。高松宮記念勝ちのショウナンカンプの母の父がラッキーソヴリン(その父ニジンスキー)だったようにサクラバクシンオーと相性の良いニジンスキー系。名馬でありながら種牡馬として成功せず、母の父に回って大物を出すという例は古今東西枚挙に暇がない。父の持つノーザンテースト、スーパークリークの持つインターメゾの血はどちらもハイペリオンの影響が強く、高齢まで活力を保ち続ける原動力となる。
サクラバクシンオー産駒の○シーイズトウショウは在来の名門牝系にリュティエとテスコボーイの組み合わせ。これはダイタクヤマトを思わせるし、父がノーザンテースト血脈を持ち、母にもハイペリオン血脈が豊富なのでタフさも備えている。成績を見る限り3戦全敗の中山に問題があるようだが、過去3回は全て休み明けで、内2回は大きく馬体を減らしていた。もう1回は1分9秒台で決着した不良馬場。坂だけが敗因とはいえない部分がある。
▲テイクオーバーターゲットは大まかにいうとミスタープロスペクター×ノーザンダンサー×ボールドルーラーの米国型スピード血統で、父は2歳時にG1レーシングポストトロフィーをぶっち切ったことで130のレーティングを得た。これは2歳馬としてはアラジと並ぶ最高の数値で、3歳になってからもレーティング負けせず仏ダービーに勝った。その父ダミスターの産駒にはトロットスターがいて、このレースとの縁は少なからずある。米国血統で豪州に生まれて英国遠征でも結果を出し、日本での前哨戦でも崩れなかった。力ずくで何でも解決してしまうところがミスタープロスペクター系らしく、競馬風土に根差したスプリンターの繊細さをお構いなしに踏みにじってしまうとすればこういう馬。
ドリームパスポートが神戸新聞杯でメイショウサムソンを撃破。春に4週連続重賞勝ちを達成したフジキセキが秋のキャンペーンに入ったようだ。その産駒△ビーナスラインは母が桜花賞トライアル2着で、祖母が桜花賞2着のホクトビーナス。曾祖母の産駒ホクトヘリオスは中山記念など5つの重賞勝ちがあるが、むしろ朝日杯から始まったG1常時善戦の印象が強い。父の勢いを借りてG1の壁を越えたいところだが、むしろ3連単の穴に狙いたい。
チアフルスマイルは母がミスタープロスペクター×ウイニングカラーズという夢の配合で、そこにこのレースでも2勝を挙げるサンデーサイレンスを配した。大勢逆転があって驚けないG1仕様の超良血。