2006NHKマイルC


5年を経て再び現れた黒船

 10回が終わってはっきりしてきたのは、このレースを勝つだけでは普通の強い馬という程度でしかないが、他にもG1勝ちがあるようなら名馬・名牝としても特に優れた存在とみなされるということ。ま、当たり前なんですけどね。後者を列記するとシーキングザパール、エルコンドルパサー、イーグルカフェ、クロフネ、キングカメハメハ、ラインクラフトだから、それぞれ新しい時代の名馬像をよく示している。また、シーキングザパールは母としてシーキングザダイヤを産み、エルコンドルパサーはサイアーランキングのベスト10を確保しており、クロフネは昨年の新種牡馬チャンピオンとなった。まだ答を出すには早過ぎるとしても、繁殖馬としての能力検定という意味では旧来のクラシックを超えている可能性もある。

 このレースの創設以来、ずっと上位をマル外が占めたように、90年代は日本の競馬が外国産馬の大波に洗われた時代で、クロフネはマル外としては最後の勝ち馬。当時、日本の生産界にとって脅威であった輸入競走馬の流入は、優れたものが種牡馬となることでポストSS時代の重要な戦力へと変化した。特にクロフネは芝でフサイチリシャール、ダートでフラムドパシオンと両部門で実質的な2歳チャンピオンを出す驚異的な成功を収めている。フラムドパシオンのUAEダービーでの健闘は、実現しなかったクロフネの海外遠征にどれだけの可能性が秘められていたかを想像する材料にもなった。一方、芝2歳チャンピオンのフサイチリシャールは、3歳になってから未勝利だが、それも力任せの競馬をするクロフネ産駒らしさを忠実に受け継いでいるせいといえなくもない。そういった日本的な瞬発力や器用さに欠けているのが悪いことかというと一概にそうもいえなくて、シーキングザパールやエルコンドルパサーが後に欧州でG1勝ちを果たし、イーグルカフェとクロフネはダートでG1に勝っていることを見ると、力の競馬でトップまで行ける能力を持つものの方が東京1600mには合っていると考えられる。下の表は3歳クラシックの父子制覇の例を示したもので、近年ではトウショウボーイ、シンボリルドルフ、ダンスインザダークといったところは早い時期に達成してしまっている。今回それが成れば父から5年という最速記録となる。このレースを誰もクラシックといわないという問題はあるが、それがかえってアウトサイダー・クロフネらしくていい。母のフサイチエアデールはシンザン記念など1400〜2000mの重賞で4勝を挙げた名牝で、サンデーサイレンス産駒らしい切れ味が印象に残るが、オークスでは0秒3差5着、エリザベス女王杯でも僅差の2着が2度あって、距離に融通が利いたし、瞬発力だけに頼るモロさとも無縁だった。クロフネとの配合では、デピュティミニスター、サンデーサイレンス、ミスタープロスペクターというふうに大まかに分解して再構成すると、フジキセキ×デピュティミニスター×ミスタープロスペクターのカネヒキリとそっくりになるので、ここを勝つようなら、秋にはもうひとつの「父子制覇」も達成できるかもしれない。

3歳クラシックの父子制覇
レース年度年度間隔
ダービーカブトヤマ1933マツミドリ194714年
菊花賞セントライト1941セントオー195211年
ダービーミナミホマレ1942ゴールデンウエーブ195412年
菊花賞トサミドリ1949キタノオー19567年
ダービーミナミホマレ1942ダイゴホマレ195816年
菊花賞トサミドリ1949キタノオーザ196011年
菊花賞トサミドリ1949ヒロキミ196213年
菊花賞シンザン1964ミナガワマンナ198117年
皐月賞トウショウボーイ1976ミスターシービー19837年
皐月賞シンザン1964ミホシンザン198521年
菊花賞シンザン1964ミホシンザン198521年
皐月賞ハイセイコー1973ハクタイセイ199017年
皐月賞シンボリルドルフ1984トウカイテイオー19917年
ダービーシンボリルドルフ1984トウカイテイオー19917年
菊花賞ダンスインザダーク1996ザッツザプレンティ20037年
菊花賞ダンスインザダーク1996デルタブルース20048年

 故障で休んでいたためこのレースには出ていないが、エルコンドルパサー、クロフネと並ぶマル外の大物といえばグラスワンダー。同期のスペシャルウィーク、エルコンドルパサーに種牡馬としては置かれ気味の追走といったところだが、もともとロベルト系には年によって豊作と不作の波が大きい面があるので、それを考えれば上々の成績だ。マイネルスケルツィは5代母が名牝スペシャル、4代母がヌレエフの半姉で、3代母がサドラーズウェルズの半妹という名門牝系から出ている。そこにニジンスキー、シャーリーハイツ、マキアヴェリアンという欧州系の一流種牡馬ばかりを配合されてきて、グラスワンダーとの組み合わせでは、大レース向きの定番ともいえるロベルト×ミスタープロスペクターの組み合わせに加え、ヘイルトゥリーズン、レイズアネイティヴ、ノーザンダンサーの近代的な近交が加わる。リボーやミルリーフの血も入っていて、むしろダービー向きといえる配合だが、東京1600mなら不足はなく、上昇中は止まるまで乗るべしというのがロベルト系狙いの鉄則。

 クロフネが勝ったときにこの欄の本命が何だったかを思い出すとネイティヴハートだった。力任せの競馬にほころびが生じるとすれば、そこを突くのがグレイソヴリン系の切れ味という見立て。ネイティヴハートはコジーンの孫だが、▲アポロノサトリはコジーン直仔。コジーンはブリーダーズCマイルの勝ち馬で、産駒にはBCターフのティッカネン、BCクラシックのアルファベットスープと2頭のブリーダーズC勝ち馬を送っている。パラダイスクリークを差し切ったティッカネン、シガーを抑えたアルファベットスープと、ともに大本命馬を一撃で仕留めた大駆けはコジーンの真骨頂ともいえるだろう。近走は小回りの中山で常識的な競馬をしようとしたのが裏目に出ているようで、広いコースで大外一気という大雑把な競馬の方がグレイソヴリン系の持ち味が生きる。

 マル外が主力だったころから内国産馬主導へと時代が移っても、高い確率で上位を占めているのがミスタープロスペクター直系。過去10年で5勝したのを含め、3着以内には11頭が食い込んでいる。それだけ毎年有力馬を送り込んでいるわけだが、今年直系は1頭のみ。モエレフィールドの父はフォーティナイナー直仔のフィールドアスカ。ダートの条件戦4勝のみだが、勝つときはいつもぶっち切りだった。能力は戦績が示す以上のものがあったのだろうし、この父系はB級競走馬がA級種牡馬に化ける例が多い。母の父がダンシングブレーヴ、牝系が秋の天皇賞で大穴を開けたレッツゴーターキンと同じなら、大駆けの要素満載。

 ゴウゴウキリシマは祖母がマルゼンスキーの半妹。父はダンシングブレーヴ×グッバイヘイローという世界的規模の夢の配合。フサイチリシャールの約37分の1の価格とは思えないほどの隠れた良血だ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.5.7
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