2006マイルチャンピオンシップ


そして誰もいなくなったのだろうか

 今年のブリーダーズCマイルは人気薄の7歳馬ミエスクスアプルーヴァルが圧勝した。重賞3連勝の後、前走のG1ターフマイルSで4着に敗れていたことから、一線級に入ると格下と見られていたのだろう。10番人気でしかなかった。外をひとまくりしてち切ってしまったその強さには驚いたが、不思議だったのはそれなりの層の厚さを備えていると思われた欧州勢の不振。下に今年の北半球マイルG1勝ち馬を列記してみたが、この路線で2つ勝ったのが4頭(太字)。果敢に“クラシック”に挑んで散った大将格のジョージワシントンはともかく、あとの3頭は“マイル”に出走、8、9、10着に並んで沈んでしまった。欧州勢だけでなく、米国で5月のシューメーカーBCマイルを皮切りにG1、G1、G2、G2と4連勝して1番人気となったアラゴーンも2着を確保するのがやっとというありさま。相次ぐスターの失墜が今年この路線のテーマだったかのようにさえ見える。


2006年 北半球のマイルGT勝ち馬
日付レース名条件勝ち馬性齢
3月4日フランクE.キルローマイル4歳上ミルクイットミック牡5Milkom
3月25日ドバイデューティフリー※4歳上※デビッドジュニア牡4Pleasant Tap
5月6日英2000ギニー3歳牡牝ジョージワシントン牡3デインヒルUSA
5月7日英1000ギニー3歳牝スペシオーサ牝3Danehill Dancer
5月14日プールデッセデプーラン3歳牡オージールールズ牡3デインヒルUSA
5月14日プールデッセデプーリッシュ3歳牝タイブラック牝3Machiavellian
5月20日ロッキンジS4歳上ピアリス牝5Pivotal
5月27日愛2000ギニー3歳牡牝アラーファ牡3Mull of Kintyre
5月28日愛1000ギニー3歳牝ナイタイム牝3Galileo
5月29日シューメーカーBCマイルS3歳上アラゴーン牡4Giant's Causeway
6月4日安田記念3歳上ブリッシュラックUSAセ7ロイヤルアカデミーII USA
6月20日セントジェームズパレスS3歳牡アラーファ牡3Mull of Kintyre
6月20日クイーンアンS4歳上アドヴァロレム牡4Danzig
6月23日コロネーションS3歳牝ナニナ牝3Medicean
7月9日ジャンプラ賞3歳牡牝ストーミーリヴァー牡3Verglas
7月12日ファルマスS3歳上牝ラジーム牝3ディクタットGB
7月30日アスタルテ賞3歳上牝マンデシャ牝3Desert Style
8月2日サセックスS3歳上コートマスターピースGB牡6Polish Precedent
8月13日ジャックルマロワ賞3歳上牡牝リブレティスト牡4Danzig
9月3日ムーランドロンシャン賞3歳上牡牝リブレティスト牡4Danzig
9月9日愛メートロンS3歳上牡牝レッドエヴィー牝3Intikhab
9月17日ウッドバインマイル3歳上ベクルクスセ4Glen Jordan
9月23日クイーンエリザベスU世S3歳上ジョージワシントン牡3デインヒルUSA
9月30日サンチャリオットS3歳上牝スピニングクイーン牝3スピニングワールドUSA
10月7日ターフマイルS3歳上オージールールズ牡3デインヒルUSA
10月14日ヴィットリオディカプア賞3歳上ラモンティ牡4Martino Alonso
11月4日ブリーダーズCマイル3歳上ミエスクスアプルーヴァル牡7Miesque's Son
11月19日マイルチャンピオンシップ3歳上 ?  
11月26日米メートリアークS3歳上牝 ?  
12月10日香港マイル3歳上 ?  
※ドバイデューティフリーは1777m、北半球4歳以上・南半球3歳以上 太字は2勝馬

 誰もいなくなったマイル路線で、最後に伏兵が台頭した流れは日本にも当てはまるのではないだろうか。芝1600mの重賞に2勝しているのはステキシンスケクンと、ヴィクトリアマイルとキャッシュコールマイルという日米の新設重賞を勝ったダンスインザムードの2頭だけ。あとは全て勝ち馬が替わった。春の安田記念で香港のブリッシュラックに完封されている旧勢力にそれほどの信頼は置けず、新勢力の逆転があり得る状況と考えて良さそうだ。何はともあれフサイチパンドラによって“晩年の不作”の汚名を返上したサンデーサイレンス最終世代がきっかけを掴んだと見てマルカシェンク。これ以前のサンデーサイレンス産駒で、秋華賞を含む3歳クラシック全敗の不名誉な記録を作ったのは94年生まれと99年生まれの2クロップだが、最終的には前者からサイレンススズカとステイゴールド、後者からはゴールドアリュール、デュランダル、アドマイヤマックスらが出ていて、別の分野でクラシック全敗の埋め合わせをした。ラストクロップとなる現3歳からも、まだこれから大物が出てくると考えるのが自然だ。このレースでは初年度産駒ジェニュインの勝った後に長いブランクがあったが、03年のデュランダル以降は3連覇。ここ2年は2着もサンデーサイレンス産駒が占めた。未勝利の安田記念とは対照的な得意レースといっていい。母のシェンクは伊1000ギニー馬で、連勝の余勢を駆って挑んだ仏1000ギニーでも2髞n身差の4着に入っている。その父ザフォニックは93年生まれの英2000ギニー馬で、種牡馬として同期キングマンボほどの大成功はしていないが、97年の欧州2歳チャンピオン・ザールをはじめ、ゴーンウエスト系らしく散発的に個性的な大物を出した。うまく歯車が噛み合えば、爆発的な力を期待できる。祖母の父バックファインダーはバックパサー直仔。母系にミスタープロスペクターとバックパサーを抱えるパターンはサイレンススズカやゼンノロブロイといった比較的晩成だったサンデーサイレンス産駒の大物に通じる。

 ダイワメジャーはデュランダル、アドマイヤマックスらと同じサンデーサイレンス×ノーザンテースト。このバリエーションにはエアメサイアなども出現していて必ずしも短距離向きと決めつけられないが、ダイワメジャーの場合は祖母の父が強力なスプリント血統クリムゾンサタン。1600mで2000m以上のパフォーマンスがあっても驚けない。ただ、母の父のノーザンテーストには、長期的には能力を高水準で維持できる反面、ここ一番で頑張り過ぎるために短い期間での連戦連勝というケースは意外に少ない。何かに付け入る隙を与えるとすればそのあたり。

 ▲ステキシンスケクンはダンチヒ×Mr.プロスペクター。再び表に目を移すと、ダンチヒ直系は直仔が3勝、孫世代でデインヒル産駒が4勝、マルオブキンタイア産駒2勝、ポリッシュプレセデント産駒1勝、曾孫世代でデインヒルダンサー産駒、デザートスタイル産駒が各1勝の計12勝を挙げている。そのほかコロネーションSのナニナはデインヒルの娘の産駒なので、この分野の勢力はダンチヒ血脈が半分近くを占めていることが分かる。ミドルパークSに勝ったリシウスの出る牝系を見てもG1勝ち即種牡馬という血統。

 ロベルト系は不思議な父系で、ブライアンズタイム系がそうであるように、活気のある時は広範囲にわたって大活躍し、そうでないときは静まり返ってしまう。今年はエレクトロキューショニストとブラスハットがドバイワールドCでワンツーを決めると、ケンタッキーダービーをバーバロが制し、英国スプリントではレザーク、米国牝馬ではパインアイランドとロベルト系の活躍馬が続出した。しかし、年も後半に入るとドバイ2着のブラスハットは薬物で失格、バーバロは大怪我を負い、エレクトロキューショニストは急死、レザークは日本で凡走し、パインアイランドはBCディスタフで予後不良と誰もいなくなってしまった。そんな逆境でグラスワンダー直仔マイネルスケルツィがどこまで頑張れるかとなると厳しいとは思うが、曾祖母がサドラーズウェルズの半妹でヌレエフの姪という良血。ロベルト系×Mr.プロスペクター系の大レース向きの配合にも捨てがたい魅力がある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.11.19
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