2006天皇賞・春


SSの超長距離戦略

 ディープインパクト以前の5頭の三冠馬のうち、翌年の春の天皇賞を制したのはシンボリルドルフ一頭に過ぎない。そもそも出走してきたのがルドルフだけなので、三冠は達成するのも大変なら、その後は更に大変だということが分かる。

 85年のシンボリルドルフ以来の偉業に挑むディープインパクトは、その母ウインドインハーヘアがドイツ2400mのG1勝ち馬。2歳夏にデビューして2戦、3歳時は春から秋まで戦って英オークス2着のほか2勝、4歳時は春に種付けされて受胎したまま8月の独G1アラルポカルに勝った。その10日後には地元英国のヨークシャーオークスで3着となり、それを最後に引退している。この成績からは、高い能力を長く維持することができ、順応性にも優れていたことが分かる。走る馬の常として、ディープインパクトもここに至るまでには外野からは窺い知ることのできないピンチも恐らくあっただろうと思うが、それを乗り越えてきた芯の強さは、この母の頑強さによるところが大きいのだろう。3代母は英1000ギニーと仏オークスに勝った名牝で、そこに配合されたのも英国の代表的ステイヤー血統バステッド。最も鋭い脚を使える馬がスタミナ面でも不安がないのだから、死角は見つからない。

 欧州血統には欧州血統をということで相手をひねると、一発があるならサドラーズウェルズ血脈だろう。母の父サドラーズウェルズのG1勝ち馬を表に示したが、世界最初のG1勝ちとなったフサイチコンコルドのダービーは大本命ダンスインザダークを破ってのものだし、エルコンドルパサーは同世代のスペシャルウィークを抑えてジャパンCに勝ち、ヘヴンリーロマンスは1番人気のゼンノロブロイをアタマ差抑えて天皇賞(秋)で金星を挙げ、シーザリオはオークスでエアメサイアを差し切った。また、10年来のサンデーサイレンス時代に大きなブランクを作ったテイエムオペラオーもサドラーズウェルズ直仔オペラハウスの産駒だった。こうして見ると最強のSSキラー血脈はサドラーズウェルズということができる。ヘヴンリーロマンスはSS産駒なのでSSキラーというのは変だが、それはおくとして、実際、長くサンデーサイレンス×サドラーズウェルズの配合に大物が出なかったのだから、互いの良さを殺してしまう面があったのは確かだろう。しかし、昨年春にシーザリオ、秋にはヘヴンリーロマンスが出ているように、この2大血脈の反目は急速に解消へと向かっている。サンデーサイレンス×サドラーズウェルズのストラタジェムは、母が仏G1サンタラリ賞勝ち馬。祖母の産駒には仏の菊花賞に相当したG1ロイヤルオーク賞に勝ったマージーがいて、これはシリウスシンボリが海外重賞勝ちか!? というあのとき、86年のG3フォワ賞をかすめ取ったあの馬でもある。それはともかく、欧州型のスタミナはたっぷりと蓄積されている母で、その血が持ち味を生かせるとすればこの距離だろう。

 アイポッパーはヒシミラクルとナリタトップロードを出したサッカーボーイの産駒。母はサンデーサイレンス×ニジンスキーで、これは菊花賞馬ダンスインザダークと同じパターン。ダンスインザダークが既に2頭の菊花賞馬を出しているように、子孫にも安定した形で長距離適性を伝える配合といえるだろう。母の父としてのサンデーサイレンスはノーザンテーストの跡を継いでリーディングのトップに立つことが確実で、ラインクラフト以降本格化してきたG1戦線での勢いは上の世代にも広がっていくのではないか。

 マッキーマックスの配合はアイポッパーの父母を上下入れ替えた形になる。パーツの3/4は同じだ。これに似た形ではサッカーボーイの全妹にサンデーサイレンスが配合されたステイゴールドもいる。牝系は一昨年大波乱を呼んだイングランディーレと同じ。ダンスインザダークの産駒には急速にトップレベルに至ると燃え尽き症候群に陥るケースも少なくなく、菊花賞5着と素質を示しながら初めての重賞が今春のダイヤモンドSという晩熟のプロセスは、むしろ大舞台に臨むに当たっては好結果を呼ぶ可能性もある。

 エルコンドルパサーにはなかなか芝のステイヤーが出なかったが、トウカイトリックは距離が延びるにつれて良さが現れてきた。自身が緻密で完璧な配合であったがゆえに、逆に種牡馬としては配合の難しさがつきまとうエルコンドルパサーだが、この馬の場合はミスタープロスペクター×ロベルトという成功例の多い定番配合を取ったことが良かったようだ。この配合は、血統表の3代目にミスタープロスペクター、ヌレエフ、シルヴァーホークと並ぶ昨年の米2冠馬アフリートアレックスに通じる要素も多い。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.4.30
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