2006ダービー


ロベルトの逆襲

 サンデーサイレンス生誕20年となる今年、ラストクロップがダービーを迎える。95年に登場した初年度産駒タヤスツヨシは1番人気に応えて勝ち、以降、昨年のディープインパクトまでで6勝。今回勝つとトゥルヌソルを抜いて単独でダービー最多勝種牡馬となる。そして、これまで1番人気に推されたサンデーサイレンス産駒は4勝2着2回と連を外れたことがない(表参照)。1番人気が予想されるフサイチジャンクはデビュー以来順調に勝ち星を重ね、前走で初めて3着に敗れたわけだが、これもダービーへの一種の授業料として折り込みずみだっただろう。オーストラリアで走った母はG3に勝った後、G1AJCオークスで2着したステイヤーで、その父ベロットはミスタープロスペクター直仔ながら英ダービー3着、祖母の父イエーツはニジンスキー直仔で、4代母の子孫にはメルボルンC勝ち馬サブゼロを初め多くの活躍馬が出ており、2400mがプラスとなるのは間違いない。かなり離れてはいるが、牝系は先日のプリークネスSを圧勝したバーナーディニと同じ4号マグノリア系で、これも実にタイムリー。周知の通り03年セレクトセールの最高価格3億3000万円、いわば生まれて間もない時期から敷かれてあったダービーへの軌道をひたすら邁進し、目的地に今まさに到達しようという状況だ。ただ、ドラマとしては起承転結の“転”がないのがどんなものだろうか。ダービーがテレビのおもちゃにされるのも個人的には遺憾なのでだ。

 サンデーサイレンスが支配したここまでの期間、最もよく抵抗したのがブライアンズタイム産駒。97年にはサニーブライアンが勝って2着シルクジャスティス、4着にもエリモダンディーが入って掲示板の6割を占め、02年はブライアンズタイム産駒タニノギムレットが勝ってクリスエス産駒のシンボリクリスエスが続き、ロベルト系のワンツーとなった。今回はブライアンズタイム産駒がいないが、サクラメガワンダーがロベルト直系。今年はここまでドバイワールドCをレッドランサム産駒のエレクトロキューショニストが、ケンタッキーダービーをダイナフォーマー産駒のバルバロが制していて、日本以外でロベルト直系がこれだけ派手な活躍を見せるのは珍しいこと。先週のフランス3歳牝馬のG1、サンタラリ賞もシルヴァーホーク産駒ジェルマンスが勝った。これまで日本でもリアルシャダイやブライアンズタイムには突然まとめて活躍馬が出る傾向があったが、そういった流れでいうと今のロベルト系の勢いは無視できない。母は天皇賞sのサクラチトセオー、エリザベス女王杯のサクラキャンドルらの妹で、5代母の半兄ブラックターキンは英セントレジャーの勝ち馬。フサイチジャンクがバーナーディニなら、こちらはケンタッキーダービー馬ファーディナンドと同じファミリー。

 オペラハウス産駒といえばテイエムオペラオーだが、その最強馬も3歳時、99年のダービーではアドマイヤベガの末脚に屈した。後にはジャパンCにも勝つので東京の2400mがダメということはないが、3歳の今の時期はまだ完成途上だったのだろうし、東京の長い直線で伸び比べスピード比べになると分が悪かったとも想像できる。偉大な先輩同様に皐月賞を制した▲メイショウサムソンは母の父が輪をかけて重厚なダンシングブレーヴ。同じようなことが起こる可能性は十分にある。もっとも、欧州系ノーザンダンサー3×3のフサイチコンコルドがサンデーサイレンスの切れ味の代表のようなダンスインザダークをあっさり差し切ったケースもあるので、極端に上がりが速くならなければ対応してしまうかもしれない。

 NHKマイルC→ダービーの連勝を成功させたキングカメハメハはそれまでに長い距離での活躍があったが、ロジックには1800mまでしか経験がない。しかもクラシック戦線に比べると弱いメンバーで、最高に立ち回っての辛勝だった。しかし、レースの機微も何も無視してフサイチリシャールを基準にすると、メイショウサムソンはフサイチリシャールに0秒6、ロジックは0秒8の差をつけて勝っている。距離経験に関しても、こういったことは地域によってはよくあることで、ニジンスキーにしてもダービーを走る前はマイルまでの経験しかなかった。父のアグネスタキオンはデビューしてその能力を示すまではダービー馬の全弟と呼ばれたわけだし、祖母の父は三冠馬シンザンであり、問題があるとすれば母の父サクラユタカオーだが、これもその父テスコボーイの代用と考えればいい。テスコボーイは母の父としてバンブーアトラスとアイネスフウジン、2頭のダービー馬を送った。不思議なことに、このように事実だけを積み上げると勝って不思議がない。大穴ならこれ。

 ヴィクトリーランの父ヴィクトリースピーチは米三冠路線では善戦の域を出ず、夏から本格化してドワイヤーS、スワップスSと連勝した。母の父タマモクロスが連勝を始めたのは、これもクラシックには間に合わない時期で、祖母の父アンバーシャダイもダービーには出た(9着)が、重賞に勝つのは翌年の秋も深まってからだった。これだけ晩成の血を集めれば勝ち星を重ねるのに手間取ったのも仕方ないが、同時に、それら3頭にはひとつきっかけを得ると大きく飛躍するという共通項がある。前走を軽くは扱えない。

 ジャリスコライトは、ラナウェイブライドの3×4、父母ともにノーザンダンサー、リボーの血を持つシンメトリックな配合。半兄アグネスデジタルは早熟でしかも古馬になって変身を遂げたが、ファンタスティックライトからブラッシンググルームに至るこの父系にもそういった可能性が秘められている。これからが本当の強さを示す時期。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.5.29
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