2006有馬記念


Deep in a Dream

 サンデーサイレンス時代も末期になってからこんなのを出してきてどうするかといわれる恐れもあるが、サンデーサイレンス産駒のG1およびJRAG1勝ち馬のデビューから引退までの馬体重の推移を表にしてみた。中央の項目は概ね一番強い競馬をしたときと考えていただきたい。それがデビュー時の体重以下であったものの数字を太字にしてある。過半数の22頭が該当する。増えていたとしても小幅で、10Kgを超える増加があったものはフジキセキなど5頭に過ぎない。SS以前の時代には、成長度と馬体重は緩やかな比例関係にあるというのが常識だったのではないだろうか。例えばテンポイントは456Kgでデビューし、旧5歳春の天皇賞に勝ったときが470Kg、暮れに有馬記念を制したときは498Kgにまでなっていた。また、ナリタブライアンは456Kgでデビューして、ダービーが468Kg、菊花賞が470Kgで、その2年後に阪神大賞典でマヤノトップガンを下したときは最高体重の486Kgに達している。そういった常識を覆してみせたのはサンデーサイレンス産駒で、調教師としてG1馬を複数送り出すようなSSマイスターたちは早い時期にそれに気付いてSS産駒の仕上げのノウハウを確立していたのだろう。大雑把にいってしまえば、馬体の完成が早い時期に訪れ、そこから鍛えて絞り込んでいけるというのがSS最大の特長だった。

サンデーサイレンスA級産駒の馬体重推移
馬名生年初出走体重キャリアハイ体重引退レース体重
ジェニュイン199294.10.1548496.11.17マイルChp.49297.11.16マイルChp.H490
タヤスツヨシ199294.8.747695.5.28ダービー46895.11.5菊花賞E474
ダンスパートナー199295.1.2943296.11.10エリザベス女王杯43897.12.21有馬記念M438
フジキセキ199294.8.2047294.12.11朝日杯3歳S49295.3.5弥生賞@508
マーベラスサンデー199295.2.447497.7.6宝塚記念49097.12.21有馬記念A494
イシノサンデー199395.9.246096.4.14皐月賞46498.6.14安田記念E476
ダンスインザダーク199395.12.349896.11.3菊花賞50496.11.3菊花賞@504
バブルガムフェロー199395.10.747496.10.27天皇賞秋48697.11.23ジャパンCB490
アドマイヤマックス199401.10.1345405.3.27高松宮記念46405.12.11香港スプリントJ492
サイレンススズカ199497.2.143698.7.12宝塚記念44698.11.1天皇賞秋止450
ステイゴールド199496.12.143299.10.31天皇賞秋A42001.12.16香港ヴァーズ@429
スペシャルウィーク199597.11.2946499.11.28ジャパンC46899.12.26ジャパンCA464
アドマイヤベガ199698.11.745699.6.6ダービー45499.11.7菊花賞E458
スティンガー199698.11.845298.12.6阪神3歳牝馬S44402.3.24高松宮記念B474
トゥザヴィクトリー199698.12.1349401.11.11エリザベス女王杯49602.2.17フェブラリーSC494
アグネスフライト199700.2.647200.5.28東京優駿45203.3.23阪神大賞典L460
エアシャカール199799.10.3149800.10.22菊花賞49402.12.22有馬記念H510
チアズグレイス199799.6.1249800.4.9桜花賞49000.10.15秋華賞C502
アグネスタキオン199800.12.250001.4.15皐月賞49201.4.15皐月賞@492
ビリーヴ199800.11.1145403.3.30高松宮記念47203.10.5スプリンターズSA476
マンハッタンカフェ199801.1.2949801.12.23有馬記念50402.10.6凱旋門賞L
メジロベイリー199800.9.248000.12.10朝日杯3歳S48602.3.9大阪城SC500
ゴールドアリュール199901.11.1150802.9.23ダービーGP49103.6.25帝王賞J510
デュランダル199901.12.845204.11.21マイルChp.45205.11.20マイルChp.G460
アドマイヤグルーヴ200002.11.1046604.11.14エリザベス女王杯46405.12.18阪神牝馬S@478
オレハマッテルゼ200003.5.2548806.3.26高松宮記念470   
スティルインラブ200002.11.3045203.5.25オークス44205.10.16府中牝馬SP456
ゼンノロブロイ200003.2.950404.11.28ジャパンC50205.12.25有馬記念G520
ネオユニヴァース200002.11.949403.6.1ダービー48604.5.2天皇賞春I500
ピースオブワールド200002.10.549802.12.1阪神JF49204.3.13中山牝馬SK490
ヘヴンリーロマンス200002.11.3050005.10.30天皇賞秋51005.12.25有馬記念E508
スズカマンボ200103.8.1748605.5.1天皇賞春48406.4.2大阪杯B490
ダイワエルシエーロ200103.12.2843204.5.23オークス43005.7.10マーメイドS@442
ダイワメジャー200103.12.2854606.11.19マイルChp.526   
ダンスインザムード200103.12.2045206.5.14ヴィクトリアM470   
ハーツクライ200104.1.549205.12.25有馬記念49806.11.26ジャパンCI500
ハットトリック200104.5.849605.12.11香港マイル494   
エアメサイア200204.11.2147605.10.16秋華賞468   
ショウナンパントル200204.7.2443604.12.5阪神JF446   
ディープインパクト200204.12.0945206.11.26ジャパンC43606.12.24有馬記念
フサイチパンドラ200305.11.1249406.11.12エリザベス女王杯502   


 ディープインパクトの母の父アルザオの父リファールは、種牡馬としての有能さとともに小柄なことでも有名だった。恐らくディープインパクトの特徴の多くの部分、特に軽快なバネはリファールに由来するものと考えられる。ディープインパクトは前回がデビュー以来の最低体重である436Kg。サンデーサイレンスの特性を生かして無駄を削ぎ落としていくとリファールが姿を現したということになるのかもしれない。この中間の調整過程を見ていると、それより更に絞り込まれてくることが予想される。その結果として今までで最高の驚異的パフォーマンスを見ることができるのなら、もう引退を惜しむ必要はない。

 相手探し。その筆頭にスウィフトカレント。サンデーサイレンス産駒の勝ち馬はマンハッタンカフェ、ゼンノロブロイ、ハーツクライと近い年の3頭しかいないが、昨年は1〜3着を独占してみせ、残り少ないチャンスに猛攻をかけているような印象もある。母は安田記念のアサクサデンエンを生んだ名牝。現役時には12FのG3ジョンポーターSと、2700mのG2ポモーヌ賞に勝ち、G1ではヨークシャーオークス2着と愛セントレジャー3着のあるステイヤー。特にポモーヌ賞の歴代勝ち馬には繁殖牝馬として成功するものが多く、20世紀最後の名馬ドバイミレニアムの母コロラドダンサー、BCターフ勝ち馬フレイズの母ザラタイア、ワンダーホース・アラジの祖母ファビュルージェーンらの名前を挙げることができる。母の父はミスタープロスペクター系としてはあらゆる場面に対応できる柔軟性を備えたマキアヴェリアンで、祖母の父にはディープインパクトがバステッドを持つ代わりにその息子バスティノが入った。母が欧州型のスタミナ豊富な血統ということではマンハッタンカフェやハーツクライに通じ、母の父がミスタープロスペクターという点ではゼンノロブロイと同じ。

 ダイワメジャーは宝塚記念でディープインパクトから1秒1も離された。この秋の活躍でその差をいくらかは縮められたとはいえ、埋めるところまではいっていないだろう。サンデーサイレンス×ノーザンテーストの配合はデュランダルやアドマイヤマックスと同じで、秋華賞馬エアメサイアもいるとはいえ、実績が短い距離にあるのは確か。しかも祖母の父はアメリカのかなり頑固なスプリント血脈クリムゾンサタン。ただ、“スカーレット一族”の近親ヴァーミリアン(母がSS×ノーザンテースト×クリムゾンサタンという同じ配合)は長距離をよくこなし、20日にも2500mの名古屋GPを圧勝している。勢いのある血脈というのは少しずつ既成の枠をはみ出して勢力を伸ばしていくものなので、ここはむしろ血統からくる距離の壁を崩す可能性の方に期待しておきたい。

 ここ10年で印象に残る大穴といえばアメリカンボス、タップダンスシチーの2頭。ともに力任せに押すアメリカン・ステイヤーだった。トウショウナイトはアメリカンボスの父キングマンボと同じく父系がミスタープロスペクターで、特にウッドマンの系統は当たれば場外ホームランが飛び出す(三振もあるが)。その母フォールアスペンは前出ドバイミレニアムをはじめ多くの名馬の祖となった名牝。母はタップダンスシチー同様にリボー系とノーザンダンサーのミックス。祖母は米G1トップフライトHに勝ち、3代母の産駒に大種牡馬ストームバード、曾孫に仏2000ギニーのグリーンチューンがいる名門。リボー系の母の父はトラヴァーズSの勝ち馬。パーツはそれぞれ名牝と名馬ばかりで、超高級食材を惜しげもなくちゃんこ鍋にしたような趣。そういった豪快さが、ディープ引退戦の予定調和を悪気なく崩してしまうような気もする。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.12.24
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