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同じ年に牝馬が宝塚記念と秋の天皇賞を勝ったのは今年が初めて。これまで宝塚記念に勝った牝馬は66年のエイトクラウンだけなので、調べるぶんには極めて簡単な“史上初”記録だったが、実現は今後も容易でないと考えられる。秋の天皇賞にしても2000mになってからの21年間でエアグルーヴが唯一の勝ち馬だったのだから、それぞれ20年に1頭クラスの名牝が同時に現れる必要がある(ことになるのかな?)。これには昨年からの牝馬重賞の拡充という施策が間接的に効いている面もあるのだろうが、実際にはゼンノロブロイ、タップダンスシチーを脅かすような新しい戦力の補充が牡馬一線級になかったという事情が直接的な原因ではある。ただ、クラシックでも主役を張っていたスイープトウショウだけでなく、その下のクラスから突如ヘヴンリーロマンスが躍進しているように、古馬対3歳という分け方をすると、古馬の全体的な層の厚さはこれまでにないものなのだろう。 一方、3歳牝馬は早くからハイレベルといわれているが、ローズS、秋華賞と続く世代限定戦では春の力関係を突き崩す新勢力の出現がなかった。それはそれで上が強いからなのだろうが、強い世代というのは強い馬を後から現れた更に強い馬が超えていって頂点が更新され、同時に勢力も広がっていくもので、本当はもう少し時間がたってからでないと判断を誤る可能性もある。2歳戦当時からずっとラインクラフトが君臨して(ちょっと負けることはあるが)いる世代を無条件にもてはやすのも危険ではないかと思う。NHKマイルC勝ちも、A級の牝馬がB級の牡馬よりも強いということが示されただけとも考えられる。誤解のないようにいっておくと、これはあくまで世代論であって個々の馬の強弱云々ではない。ということで、あらかじめエアメサイアにアッサリ勝たれた場合の言い訳としておきたい。 ここ2年続けて、このレースの1、2着は00年生まれの現5歳世代が占めてきた。この世代で古馬G1勝ちを果たしたのはしばらくゼンノロブロイ、アドマイヤグルーヴ、ユートピアだけで、そう強い世代ともいえなかったのだが、ここにきて天皇賞のヘヴンリーロマンス、JBCスプリントのブルーコンコルドが出現した。まあまあの水準には達したといえよう。そこでこの世代の未開発な領域をほじくってみることにする。で、手応えがあったのが◎ベストアルバム。父メジロライアンは娘のメジロドーベルがこのレース2連覇を果たしている。メジロブライトと牡牝揃ってG1馬を送った初年度産駒の後は忘れられない程度にポツリポツリと重賞勝ち馬を送るのみだが、このレベルの種牡馬はマーケットがサンデーサイレンス直仔のお手頃種牡馬に食われることを考えると、昨年でもスキップジャックを送っていて善戦健闘の部類。母は93年の世代限定戦だったエリザベス女王杯で5着だが、上位3頭はホクトベガ、ノースフライト、ベガという後から考えればこれぞ強い世代。続く阪神牝馬特別もノースフライトの2着だった。祖母の孫には菊花賞2着のトーホウシデンがいて、曾祖母の子孫にはリダウツチョイス、ユーマティラといった豪州で種牡馬としても成功している名馬が名を連ねる。エルグランセニョールに代表される80年代、ザールやスピニングワールドを送った90年代に比べると、最近はやや元気がないベストインショウ系だが、名門の名門たるゆえんはきっかけさえ与えられればたちまち復興するということ。母の父はアドマイヤグルーヴと同じだし、母系にニジンスキーを持つ配合はメジロブライトのほか、大阪杯のトーホウドリームや京王杯2歳Sのスキップジャックにも共通するこの父の成功パターン。京都2200mは父が唯一のG1勝ちを果たした舞台でもある。 ○スイープトウショウは天皇賞が改めてその強さを示す内容。デビュー以来、展開に左右される面があるにせよ、何度も好走が続かないのはミスタープロスペクター系らしさの一面であるし、凡走を続けないのはそういった旧来のミスタープロスペクター像から一歩踏み出した存在であることを示す。何だかんだで2歳から4年連続してG1勝ちを収めたユートピアは父系祖父フォーティナイナーの仔で、種牡馬の父としてのミスタープロスペクターの凄さは、さまざまな面でミスタープロスペクターを超える部分を備えた後継者を送り出したことだ。日本でその“超ミスタープロスペクター”血脈の伝道者となるのは今のところキングマンボ系とこのフォーティナイナー系だろう。母の父のダンシングブレーヴは97年にダンスパートナーを差し切ったエリモシック、2冠牝馬テイエムオーシャンを出していて、テイエムオーシャンはこの01年のこのレースでもタイム差僅か0秒1の5着だった。それらが母系からナスルーラを導入していたのと同様に、こちらも祖母の父トウショウボーイからナスルーラを取り入れてダンシングブレーヴの血を日本向けにチューニングしてあることも成功の理由のひとつといえるだろう。 春の天皇賞のスズカマンボ、秋の天皇賞3着のダンスインザムードは“弱いSS4歳世代”と揶揄されることへの反発だったとすると、▲レクレドールにもそろそろ一発がないだろうか。夏には後の天皇賞馬を封じているのである。全兄ステイゴールドは日本の大レースでは善戦というのか脱線というのか、ついにその全能力を示さなかった疑いが残るが、ドバイシーマクラシックや香港ヴァーズで見せた飛ぶような末脚が本当の姿。それもその母がサッカーボーイの全妹ということなら納得もいく。種牡馬としてのサッカーボーイが晩成型の仔を出し、ステイゴールドが晩成かどうかはともかく6歳で初めて重賞に勝ったことを考えると、3歳の昨年より上のパフォーマンスを期待してもいい。 △ヤマニンアラバスタは父も母の父もフォルティノ直系のG1勝ち馬。同じグレイソヴリン系でもゼダーンから発したトニービンが次々とG1勝ち馬を送ったのと対照的に、この系統は他にビワハヤヒデやアドマイヤコジーンくらいしかG1勝ちまでいったものがなく、活躍している割にあと一歩を詰め切れない。そのあと一歩の部分を父と母の父が力を合わせたら何とかならないかという明快なテーマを持つ配合。ミスタープロスペクターはおろかノーザンダンサーもヘイルトゥリーズンもない流行血脈皆無の潔さで、これによってナスルーラ〜グレイソヴリン〜フォルティノの切れ味がむしろ純粋に発揮されるのではないか。その異質さが武器になるというわけだ。 同じ勝負服で注意しておきたいのがヤマニンシュクル。祖母は米G1・2勝の名牝ティファニーラス。丸1年ぶりの有馬記念を制した父の再現があっても驚けない。 サミットヴィルはスピードのない逃げ馬というか、切れる脚が使えないのをカバーするための逃げ。ただしグランドロッジ×シャーリーハイツ(その父ミルリーフ)の配合は、英・愛ダービーから凱旋門賞までノンストップで駆け抜けた名馬シンダーを思わせるアガ・ハーン風。破れかぶれの大逃げでも打てば豊富なスタミナと国際レーティング111の力が生きてきそうだが、異国でそんな無茶もしないでしょうね。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2005.11.13
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