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2001年に初供用、昨年産駒がデビューした新種牡馬はチャンピオンのフレンチデピュティを筆頭に2歳戦で総じて好調で、週刊競馬ブック5月9日発売号の「ファーストクロップサイアー名鑑」にある通り、“サンデーサイレンス初年度世代”以来のビッグウェーブとなった。欧米でもフサイチペガサス、ジャイアンツコーズウェイ、モンジューといった大物が初年度産駒をデビューさせ、今年のクラシックに有力馬を送り出している。フサイチペガサスはバンディーニがケンタッキーダービーの重要な前哨戦・G1ブルーグラスSに勝ったほか、近いうちにもっと大きなレースに勝てそうなくらいの戦力があり、ジャイアンツコーズウェイもフットステップスインザサンドが英2000ギニーを、シャマーダルが仏2000ギニーを制して早くも大きな期待に見合う成果を挙げた。モンジューはというと、種牡馬入り当初の種付け料は3万ギニー(当時約440万円)に設定されていた。ジャイアンツコーズウェイの10万ギニーとは大きな開きがある。これはもはやファッショナブルとはいえない中長距離の強豪で、しかも活躍馬が多いぶん後継種牡馬もダブつき気味のサドラーズウェルズ直仔という点が、その高い能力に逆プロモーションとなったといわざるを得ない。しかし、欧州競馬のプレシーズンマッチともいえるUAEダービーを楽勝したステージライト、仏ダービー前哨戦を圧勝したハリケーンラン、そして先日のG2ダンテSを制して3戦無敗で英ダービーに臨むモティヴェーターと、今年の初めからここに至るまで立て続けにA級馬が現れている。ダービー・シーズンが終わったころには種付け料で3倍強の差がついたジャイアンツコーズウェイに並び掛けている可能性もないとはいえない。それはまた斜陽のサドラーズウェルズ系の復活の糸口ともなるだろう。昨年まで13年連続、14回の英・愛リーディングサイアーの座を占めたサドラーズウェルズのどこが斜陽やねんと異論もおありでしょうが、それだけ独占が続くこと自体が欧州競馬の地盤沈下を示すものであり、近年のようにストームキャットの子でBCクラシックを狙うか、デインヒル系でBCマイルを狙うか、そのどちらかが欧州発の世界チャンピオンへの道になってくると、サドラーズウェルズ系の中長距離馬は流れに取り残されてしまうことになる。それでも、モンジューが今の勢いを保って快進撃を続けるようなら、時代の流れをある程度は引き戻し、サドラーズウェルズ王国の復興につながるかもしれない。 斜陽の2400m路線がまだ活力を保っているのは実は日本だろう。仏ダービーなどは、ケンタッキーダービーほどの人気も英国ダービーほどの伝統もないので、意外に簡単に2100mに距離を短縮してしまったが、日本では2400mのダービーディスタンスは最高峰であり聖域であって、そのような議論が起こる余地さえ今のところない。SS亡き後の最高の種牡馬の座もステイヤー・ダンスインザダークでほぼ安泰だ。相対的に見てステイヤー天国といえる日本でも、しかし、サドラーズウェルズ系だけは苦戦を続け、初期の大物オールドヴィックから今年2歳デビューのアントレプレナーまで、輸入された直仔のほとんどが欧州に返されてしまっている。これは一般的にいわれるように日本の競馬に合わない部分もあるのだろうが、シングスピールがジャパンCに勝ち、テイエムオペラオーがあれだけ強かったことを考えると、本質的に向いていないとはいえない。大雑把にいうと、重厚で仕上げが難しい、器用さと軽快さに欠ける、多頭数が苦手、……といった部分がネックになって、一線級に抜け出して才能を発揮するまでの段階で脱落していくものが多いということだろう。そんな中でオペラハウスは日本でG1勝ち馬を出した貴重なサドラーズウェルズ直仔。テイエムオペラオーだけでなく、ニホンピロジュピタも南部杯に勝っていて、その他G2、G3級も出すのでいわゆる一発屋でもない。◎エリモファイナルは早い時期に素質を示しながら、その後もたもたしているのがいかにもステイヤーらしい。母は京都金杯でダイタクリーヴァの2着、アグネスデジタルには先着している活躍馬。その父ドクターデヴィアスは英ダービー馬で、昨年のオークス馬ダイワエルシエーロの母の父でもある。こういった欧州2400m型の血が真価を発揮するとすれば、このレースだろう。祖母の父にアーテイアスが入る点も注目しておくべきで、サドラーズウェルズ×アーテイアス牝馬の組み合わせで、英1000ギニー、英オークス、愛ダービーに勝ち、今もサドラーズウェルズ最強の牝駒とされるサルサビルが出た。 母の父としてのサドラーズウェルズは、こと日本では直系以上に優秀で、ジャパンCのエルコンドルパサー、ダービー馬フサイチコンコルドを出している。サドラーズウェルズの娘の子である○シーザリオは父がSS系でも最長距離部門担当といえるスペシャルウィーク。母はサドラーズウェルズ×ハビタットで、バラシアやキングオブキングスが成功するマイラーとしての定番配合で、自身は愛仏で4勝とそこそこの活躍のあと米国に渡って芝11FのG3に勝った。スペシャルウィークとの組み合わせではノーザンダンサーの3×5のほか、ヘイルトゥリーズン〜ターントゥの軽い近交が生じるので、近年の大レース向きのアイテムには事欠かないし、牝系の深いところもスタミナ豊富な血で固められている。それにしても、初年度産駒は競走馬として仕上がるまでがひと苦労だったスペシャルウィーク産駒が、2年目は牡牝揃っての快進撃。フジキセキにもダンスインザダークにもそういうスロースターターの面はあったが、SS最強クラスの後継種牡馬には、個性が強いぶんだけ試行錯誤の余地を見ておく必要があるということかもしれない。 ▲にはコスモマーベラス。フジキセキ産駒は98年のデビュー以来先週までJRAの芝で256勝を挙げているが、2200m以上の勝ち鞍はたったの9しかない。しかし、隠れていた長距離血統が台頭するかと思えば、こういう一見いかにも短距離風の血統の大駆けがあるのもオークスの隠れた特徴。フジキセキの平均的産駒像がマイラーとしても、その母の父にルファビュルーが入っている以上、ステイヤー系に転ぶ可能性はつねにあるわけだし、この馬の場合は母の父がニジンスキー、曾祖母の父も米国血脈としては最長距離血統といえるステージドアジョニーとスタミナの裏付けとなる要素はいくつも見つけられる。 サンデーサイレンス産駒は当然どれも軽視不可だが、中でも桜花賞最短距離と思われながら出走もかなわなかった△ディアデラノビアの反撃が怖い。母はセレクシオン賞(亜オークス)を9馬身差で圧勝し、1カ月後のナシオナル大賞(亜ダービー)も制して98/99年度のアルゼンチン牝馬チャンピオンに輝いている。その後は米国移籍を経てドバイに転戦し、シーマクラシックも走ったがいいところなく終わって波乱の競走生活を切り上げた。そういう上と下の振れ幅の大きさというのは娘にも伝わっているようだ。考えてみればサンデーサイレンスも波乱に満ちた一生だったわけだし……。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2005.5.22
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