2005フェブラリーS


父祖に背を向け道を拓く

 今年2月3日に1983年の米2歳チャンピオン・デヴィルズバッグが世を去った。合掌しつつ、まずはその生涯成績をご覧いただきたい。

[1]83年8月20日 サラトガ 未勝利戦 6F(良)

1.10 3/5 7 1/2馬身(チャイムズキーパー)
[1]8月28日 ベルモント アローワンス 6F(不)
1.10 3/5 5 1/4馬身(エクシットファイヴ)
[1]9月28日 ベルモント カウディンSG2 7F(良)
1.21 2/5 3馬身(ドクターカーター)
[1]10月15日 ベルモント シャンペンSG1 1M(良)
1.34 1/5 6馬身(ドクターカーター)
[1]10月29日 ローレル ローレルフューチュリティG1 8.5F(良)
1.42 1/5 5 1/4馬身(ヘイルボールドキング)
[1]84年2月20日 ハイアリア フラミンゴプレップ 7F(良)
1.21 3/5 7馬身(フレンドリーボブ)
[4]3月3日 ハイアリア フラミンゴSG1 9F(良)
タイムフォーアチェンジ(7 1/4馬身)
[1]4月19日 キーンランド アローワンス 7F(稍)
1.23 3/5 15馬身(ソーヴァーグ)
[1]4月28日 チャーチル ダービートライアル 1M(良)
1.35 3/5 2 1/4馬身(ビロキシインディアン)

 2歳時の5連勝で2着につけた着差の合計が27馬身というのも豪快だが、カウディンSとシャンペンSはステークスレコード、ローレルフューチュリティはトラックレコードで、特にシャンペンSではその後無敗の三冠馬となったシアトルスルーのレコードを破っている。生産者がカナダの天才E.P.テイラー、調教師もニューヨークの鬼才ウッディ・スティーヴンスという背景もあってそのカリスマ性はいやが上にも高まり、同年暮れには3600万ドルという高額のシンジケートが組まれた。年度代表馬の座こそ逃したものの、順当に2歳チャンピオンに選ばれてもいる。しかし、3歳の春に神話はあっさり崩れてしまう。競馬に関わって少なからぬ時間を過ごしていれば誰にも分かるように、希望と失望の簡単にひっくり返るのがこのゲームの本質なので、よくある話といえばそれまでなのだが、ここでデヴィルズバッグの祖父ヘイルトゥリーズンを思い出すこともできる。こちらは1960年の2歳チャンピオンで、2歳1月にデビューして、その年の9月に故障引退するまで18戦9勝。たくさん負けたが、勝つときは5馬身、10馬身とち切って勝った。と、いったん遡ったところで今度は時間を下って、3歳のデヴィルズバッグが復活の(と思われた)アローワンスを勝ち、実際には競馬場でのキャリアを終えようとしていた84年4月19日から13年たったその日に東京競馬場でデビューしたのがタイキシャトルだった。その後の活躍はくどくどと述べないが、デヴィルズバッグが2歳時に吐き出した力を、大事に3歳以降に回せばどうなるかというひとつの解答だったようではある。

 そしてもう1世代下ったメイショウボーラーは、その力を再び2歳から惜しげもなく出してみたらどうかということで、それも途中までは成功していたのだが、朝日杯では前半から気前良くスピードを発揮し過ぎて2歳王者の栄誉を逃してしまうことになる。3歳を迎えてただの馬になりつつあった時点では祖父の軌跡をなぞるようにも見えたが、そこからがこの父系の渋太いところだ。タイキシャトルが父デヴィルズバッグとは対照的に遅く才能を開花させたように、ダートから芝に転じた父タイキシャトルと逆のルートを辿ることで活路を見いだしつつある。考えてみればヘイルトゥリーズン系はニッチ産業というべきか、ノーザンダンサーやミスタープロスペクターの隙間に地歩を占めることで発展してきた。ときどき世界チャンピオンを出したり、サイアーランキングのトップに立ったりもするが、決して世界の主流血脈になることはない。サンデーサイレンスやブライアンズタイムが日本で王国を築いているのも、競馬地図の上ではこの地がまだ辺境だからだろう。父系というのはある程度似た資質を継続していくことでつながっていくのが常識とは思うが、その常識の流れの外に生きる場を探すのがヘイルトゥリーズン系の才覚といえるのかもしれない。父が「短距離馬」として初めて年度代表馬の座に就いたように、この馬もクラシック路線からダートへ都落ちしたと見せかけて華々しい反撃に出るのだろう。その手始めとして今回、圧倒的な勢力を誇るミスタープロスペクター軍団を向こうに回して啖呵を切って見せるわけですな。ちなみに今日2月20日は20年前に祖父が3歳緒戦を圧勝した日。それがどうしたといわれてもどうもしないが。

 メイショウボーラーは顔がデヴィルズバッグで体は軽いストームキャットといった印象だが、シーキングザダイヤもストームキャット直仔にありがちな上体の重厚さを感じさせないのがいい。こちらも母の歩んだ道に敢然とソッポを向いたようなこれまでの成績だが、ソッポを向きつつ自分の道をしっかり見つけているあたりが頼もしい。ストームキャット×ミスタープロスペクター系の米国流定番に、セクレタリアト、シアトルスルーという米三冠馬が脇を固めた力強い配合で、前でスムーズに運んだ利はあったとはいえ、JCダート勝ち馬を差し返しにかかった前走のパフォーマンスはG1級。母が東京芝1600mで勝ったのならダート1600mで勝ってやろう、フランスでG1勝ったのならドバイかアメリカで勝ってやろうというくらいの骨のある良血だ。2頭の三冠馬を含めてボールドルーラーが3本入るので、距離が短くなるのも歓迎だろう。

 ▲ユートピアは2歳、3歳、4歳と毎年G1に勝って、しかも1600mがベストで2000mでも我慢がきくという、種牡馬として理想的な成績を残している。ただ、なまじどんな条件でもそれなりに好走するのでダート1600mでの強さがピンボケになってしまっている面もある。そのように強いがしかしどこかピントが甘いのは日本でのフォーティナイナー産駒に共通なようで、ビワシンセイキもついにG1を取らないままに終わったし、クーリンガーは実力の割に存在感が薄いし、マイネルセレクトもドバイで日本馬最高の成績を残してもG1に勝ってもなかなかスター扱いされない。逆にいうと、実力の割に馬券的妙味は大きい。

 ユートピアのようなミスタープロスペクター系×ノーザンダンサー系の配合は今回の最大勢力でもあるわけだが、トップオブワールドは母の父がトップサイダー系アサティス。アサティスの直仔にはウイングアロー、トップサイダー系ということではデュラブ産駒のシンコウウインディやトーシンブリザードが出ていて、このレースには縁が深い。父は逃げまくって第1回のジャパンダートダービーを押し切ってしまったオリオンザサンクスが代表産駒だが、ネヴァーベンドのインブリードによるスピードが持ち味だからベストはこの距離。牝系はフロリースカップ系でも特にコンスタントに活躍馬を出すサンキストの分枝。北九州記念2着の母の成績にも現れるように、この名門は堅実な反面、ここ一番で勝ち切れないのが弱みだが、エンプレス杯であっといわせたプルザトリガーもこのファミリー。勢いのある今ならひょっとして……。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2005.2.20
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