2005有馬記念


欧州系Mr.プロスペクターの一撃

 ディープインパクトの三冠で上位3着までに入ったのは、皐月賞が2着シックスセンス、3着アドマイヤジャパン、ダービーが2着インティライミ、3着シックスセンス、菊花賞が2着アドマイヤジャパン、3着ローゼンクロイツで、4頭が順繰りに入れ替わっていた。そのうち3頭はサンデーサイレンス産駒で、残る1頭インティライミの父もサンデーサイレンス直仔のスペシャルウィークだった。シックスセンスの香港ヴァーズ2着を見れば、3歳牡馬のレベルに疑問を差し挟む余地はないが、同じ系統の同じような相手で同じような競馬が繰り返されていたのは事実。古馬との初対戦となる今回は血統的なバラエティもこれまでと比較にならないほど増していて、いわば初めて他流試合に挑む天才少年といった構図。その確率は低いとしても、アウトサイダーのカウンターパンチに不覚をとるケースはあり得る。

 そこで、これまでの相手にはなかった血統、一連のG1戦線の外から来た新顔を探すと、グラスボンバーに白羽の矢が立った。父マキアヴェリアンは87年生まれで、ノーザンダンサーの母ナタルマに遡る牝系は昨年の凱旋門賞馬バゴも出るニアルコス家の名門。ミスタープロスペクター直仔でも特に名血といえ、2歳時の欧州クラシフィケーションでは同じ父のジェイドロバリーに5ポイント差をつける125でトップの評価を受けた。しかし、その名血が真価を発揮したのは種牡馬となってからで、自身に似たマイルG1勝ち馬を多数送っただけでなく、ストリートクライ、アルムタワケルといった2頭のドバイワールドC勝ち馬、4000mのカドラン賞に勝ったインヴァマークなどを出しており、その能力の幅の広さと奥の深さにおいてミスタープロスペクター直仔でも1、2を争う存在となっている。いや、正確を期すと1は同じニアルコス家のキングマンボですね。それに次ぐ2なのだが、春に母の父キングマンボのスズカマンボが天皇賞に勝ち、秋にキングマンボ直仔のアルカセットがジャパンCに勝ったところで、最後はマキアヴェリアンにシフトするという流れはありそうだ。この馬の母の父ヌレエフはキングマンボの母の父でもあるので、その流れが途切れることもないだろう。牝系はミドルパークSのザイーテンやチヴァリーパークSのブルーダスターが出る早熟なマイラー牝系で、マキアヴェリアン×ヌレエフ×ハビタットという配合は3歳牝馬のマイルG1コロネーションSに勝ったレベッカシャープと全く同じ。マイラーと見るのが妥当でハビタットが入っていればなおさらだが、ヌレエフの血にもミスタープロスペクターの血にも、マイラーからオールマイティに転じる力が秘められているのがミソ。それらが四半世紀に渡って世界の主流血脈の一角を占めているのは、そういった融通性の高さゆえ。ナタルマ、ネイティヴダンサー、ターントゥの近交で緊密に固められた純度の高い良血に、リボー系ホイストザフラッグが一本入る配合は大レースでこそ一発が期待できる。

 ディープインパクトとして、▲にはタップダンスシチーを。70年代のマロットがイシノヒカル、イシノアラシを出して以来、リボー血脈が今もこのレースに隠然たる影響力を及ぼしてきたことはここでこれまで何度か触れてきた。4度目の挑戦となるこの馬も、勝てないまでも貴重なリボーの直系としての面目を施している。父は比較的早くからそこそこの活躍を続けて5歳でピークに達した晩成型で、代表産駒はこの馬だが、他にもJCダートに来日したタップデイ、あるいは今年の英チャンピオンS(アルカセットが5着)に大穴で勝ったデヴィッドジュニアがいて、ここ一番での大駆けがいかにもリボー系らしい。リボー系は8歳でG1勝ちを果たしたセテワヨなども送っていて、仕上がりに時間がかかる反面、高齢まで活力の衰えない血統でもある。母がケンタッキーダービーを逃げ切った名牝ウイニングカラーズの半姉で、そしてクリスエヴァートやチーフズクラウンの出る牝系、しかも母の父ノーザンダンサーで、これだけの能力を示していれば種牡馬としての価値も高いが、SSキラーとして鳴らした先行力を最後に遺憾なく発揮してほしいものだ。

 デルタブルースは大まかにいうと、父の母がノーザンダンサー系×リボー系、母もまたノーザンダンサー系×リボー系。乱暴にいうとタップダンスシチーにサンデーサイレンスを上乗せしたような構成になる。牝系に目立つ活躍馬はいないものの、5代母オトラまで遡ればその玄孫に名馬ダンシングブレーヴが出ているし、そこにサーアイヴァー、アレッジド、ディキシーランドバンドと一流種牡馬ばかりを配合されてきているので、きっかけさえあれば力を発揮する用意のできている牝系ではあったといえるだろう。母の父のディキシーランドバンドはノーザンダンサー系らしい万能型で、アリバイ〜ハイペリオンの近交も持つので長距離に適性の高い産駒も出していて、その方面の代表馬はアスコットゴールドC勝ちのドラムタップス。母の父として我が国ではこのレースで粘りに粘って2着したアメリカンボスを出した。ディキシーランドバンドと父の持つニジンスキーをくぐったノーザンダンサー3×4は力の競馬での強さを感じさせるし、ダンスインザダーク産駒としても特に成長力に優れた晩成型の配合。昨年以上の結果を期待しておいていい。

 キングマンボはアメリカンボスの父であり、ジャパンCでは産駒のアルカセットが強力な7頭のサンデーサイレンス軍団を抑えた。昨年のダービーでもキングカメハメハが同様にサンデーサイレンス軍団を完封していて、更に遡ればエルコンドルパサーとスペシャルウィークの例もある。最強のSSキラー血脈といえばキングマンボなのかもしれない。敵に回して恐ろしいものは味方にすればいいということで(はないかもしれないが)サンデーサイレンス×キングマンボの配合によって成功したのがスズカマンボ。ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムードと3頭のクラシック馬を送った名牝ダンシングキイが祖母の全姉にあたる名血で、それら3頭はサンデーサイレンスとの配合だから、相性の良さはいうまでもない。これもキートゥザミントからリボーの血が入っていて、天皇賞で示した底力は本物だし、距離的にも3200mよりはこれくらいの方が合っている。秋2戦は勝負になるところまで持ち込めていないが、それでも1秒と負けていない。まだ見限れない。

 リボー血脈でいうと、祖母の父にリボー本人の名があるヘヴンリーロマンスが最も濃い。しかも母の父はサドラーズウェルズで、祖母が愛オークス2着、その産駒に愛セントレジャーのダークローモンドがいて、牝系からはゴールドアンドアイボリーやシルクプリマドンナが出ている。牝馬にしておくのがもったいない、日本で走らせるのがもったいないといえるくらいの、サンデーサイレンス産駒としても特に重厚な欧州型ステイヤーだが、ちゃんと牡馬を斥けて天皇賞を勝つのだから何ももったいないことはなかったのだ。サンデーサイレンス×サドラーズウェルズは最後に残された超大物メーティングで、この配合ではこれが最初のG1勝ち馬となった。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2005.12.25
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