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英国のアシュダウンエクスプレスの父系はアシュカラニからソヴィエトスターを経てヌレイエフに遡るノーザンダンサー系。母の父インディアンリッジはキングズスタンドS勝ちのスプリンターでアホヌーラの直仔。香港のケープオブグッドホープは父がスプリント〜マイルで活躍したインチナーで、これもアホヌーラ直仔。母の父のクランタイムはミュージックボーイからシングシングを経てテューダーミンストレルに至る伝統的スプリンター血統。で、英国のフェアジャグは父がそのシングシング系ソング直仔のB級スプリンター・フェイラス、母の父が名マイラー・ローモンド。これはノーザンダンサー直仔。アイルランド生まれの英国馬2頭と、英国生まれの香港馬1頭の計3頭は、大雑把にいうとアホヌーラ、シングシング、ノーザンダンサーの血の順列組み合わせで、それぞれちょっとずつ似ていてちょっとずつ違うという三角関係(?)を構成している。現在のように地域間の血統の交流が進み、種牡馬のシャトル供用がそれを加速するような時代には、世界中どこでも似たような血統が活躍しているものだが、ことスプリンターの領域だけは、地域性の強い細々とした快足血統が時にノーザンダンサー系など主流血脈の力を借りつつ生き残っていて、これは意外に世界のどこへ行っても変わらない。ダンチヒ×ミスタープロスペクターのデイジュールとか、キーンランド105万ドルのアグネスワールドのようなエイリアン的な強さを備えた超高級血統のパワーとスピードに蹂躙されることもしばしばあるにせよ、スプリント戦線は土着細々系血統が渋太く生き延びていくための受け皿として機能しており、そこでチャンスを掴んで後々大きな展開を示す場合も多い。ニホンピロウイナーやサクラバクシンオーの成功、今年の2歳新種牡馬の上位をマイネルラヴ、アグネスワールド、キングヘイローといったスプリントG1ウイナーが占めているといったローカルな現象に止まらず、ミスタープロスペクターやデインヒルが種牡馬になったのもスプリント戦線あればこそとさえいえるだろう。 リーディングサイアーの座に就くこと4度、かつて隆盛を誇ったテスコボーイが、父系としてもはや“細々系”となってしまったことは、残念だが認めざるを得ない。サクラユタカオーを経てサクラバクシンオーに続くラインは残された一縷の望みで、逆にいうと細い一本だからこそ渋太く残っていく生命力も備わっていると考えられる。タイキシャトルでさえできなかったスプリンターズS連覇をやってのけたサクラバクシンオー(グレード制以前にはサクライワイやメイワキミコが達成)は、すでに産駒ショウナンカンプが高松宮記念に勝って後継種牡馬となっていて、もう1代は確実に望みは繋がることになった。◎シーイズトウショウは4歳を迎えて牝馬ながら父以上にスプリンターらしい体つきになってきたように見える。ニホンピロウイナーでもサクラバクシンオーでもそうだが、大物スプリンターには意外に晩熟なものも多く、ブリーダーズCスプリントでもときどきかなりお年を召したせん馬が勝ったりしている。スピードと力だけで勝てる場合もあるが、ぎりぎりのレベルになるとそれに加えて経験や成長力が要求されるということもあるだろう。シーイズトウショウに期待される成長力は、父自身の資質、サクラユタカオー×アンバーシャダイの全妹という血統的背景だけでなく、古くからの名門フロリースカップ系の主流ワカシラオキという牝系(伯母に桜花賞馬シスタートウショウ)、さらに母のテューダーペリオッドやチャイナロック、ユアホストというハイペリオン系の血の集積にも裏付けられている。母はダンディルート2×3という特異なインブリードが目をひくが、テスコボーイ血脈とダンディルートの組み合わせでは4年前のこのレースで驚異の快走を見せたダイタクヤマト(父ダイタクヘリオスがダンディルートの孫で母の父がテスコボーイ)がいて、このレースを勝つ条件が怖いくらい揃ったと思うのは私だけでしょうか。 ウォーニング産駒には生涯に一度、一大ピークを迎えてG1制覇という傾向がある。欧州時代を踏まえてのことだし、例外も少なくなく、いっても誰にも賛同を得られない心細いものだが、これに従うとサニングデールよりも○カルストンライトオを狙うべしとなる。祖母オオシマスズランは名牝だがクラシックに縁がなく、牝系全体としても上質だが長打力に欠ける嫌いがあって、そういった面はこの馬の最後の坂で踏ん張りが利かないこれまでの成績に反映されている。ただ、4代母の父がリンボー、そして父系がインリアリティという、マンノウォー直系の血が入っている点には注意しておきたい。今から思うとあれがブームと呼べたのだろうかと疑問がなくもない「シービスケット」の、その父系祖父はマンノウォーであり、当時の正統派ヒーローでありながら映画では敵役として描かれた名馬ウォーアドミラルの父がマンノウォーだった。話がそれたが、マンノウォー血脈をネイティヴダンサーの近交でまとめた配合からは、いまだ表面に出ない力強さが感じ取れるのも確か。 これら日本的なスプリンターを委細構わず力任せにねじ伏せてしまうとすれば▲キーンランドスワンではないか。父はミスタープロスペクター系にしては一瞬の切れ味に優れ、英G1サセックスSをコースレコードで制した。産駒にはジャイアンツコーズウェイのG1連勝を5でストップしたオブザーヴァトリー、米の名牝サイトシークがいて、オブザーヴァトリーはこの馬と同じくロベルト牝馬との配合。ミスタープロスペクターとロベルトの配合はナシュアの近交を生じるため相性が良く、日本でもミスタープロスペクター牝馬にロベルト系種牡馬という逆のパターンでオークス馬チョウカイキャロルが出た。母の半弟には米G3勝ちのジギーズアクトがいて、祖母は米G1サンタバーバラH勝ちの名牝。今年の米3歳戦線助演男優賞が確定的になっているザクリフズエッジもこのファミリーで、世界のどこでG1に勝ってもなるほどなと思える血統。ちなみに父はセリ場では案外人気がなくて、00年キーンランド9月セールで30万ドルで購買されたこの馬が、同期ではトップ価格だった。 デュランダルはエンジンがかかるのに時間がかかる英国型スプリンターといえる面があって、勝つにしても極限の脚を使ってギリギリ間に合うというタイプ。久々の今回は割り引いた方がいいかもしれない。その代わりにといっては何だが、似た血統の△タマモホットプレイを穴狙い。サンデーサイレンス×ノーザンテーストがポンポンG1を勝つようになり、ダンスインザダーク産駒がマイルG1勝ちを果たすなど、SSを巡るジンクスが次々に崩壊しているだけに、フジキセキの牡馬に大物が現れてもいいころだろう。母はノーザンテースト×ディクタスというサッカーボーイの逆の配合で、曾祖母のロイヤルサッシュはサッカーボーイの祖母。レクレドールがローズSに勝って、サッカーボーイ血統とサンデーサイレンス血統の融合がまた脚光を浴びるこの秋、まだ底を見せていないスプリント戦なら、一気呵成に頂点を極めて不思議ない。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.10.3
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