2004秋華賞


パーソロン由来の天才肌

 凱旋門賞のタップダンスシチーは残り500mまで十分に手応えがあるようだったが、後続が仕掛けるのとほぼ同時に余力をなくして馬群に沈んだ。こういうシーンはひと昔前のジャパンCでよく目にしたもので、ベルメッツとかドクターデヴィアスとか、実績上位体調不備の典型的な負け方といえるかもしれない。現実に勝ったものがいない以上日本馬の凱旋門賞制覇は夢には違いないのだが、タップダンスシチーの実力からすればもはや夢物語でなく、特に今年のメンバーを考えれば実現の射程圏内に入っていると考えられた。なのに、佐々木調教師が再三「奇跡が起きないか」といっていたのはそれだけ体調面で絶望的な状況に置かれていたからだろう。栗東を出て飛行機に乗るまで12時間、成田を発って飛行機でパリまで14時間、そしてその約50時間後に競馬というのはさすがに厳しかった。ま、それは別にして、こういうときに思うのは、海外遠征に合わせてJRAが獣医を派遣できないのかということ。行っても現地で医療行為ができるかどうかは知らないが、手は出せなくても口を出すことはできるだろうし、体温の変化やら血液の組成やら、遠距離輸送に伴う体調面のデータを得ることはできる。近年は海外遠征も多く、個々のケースでそれぞれの関係者がいろいろな知識と情報を持ち帰ることになるが、しかし、ひとりの調教師がそう毎年海外遠征を行うわけでもないので、そのノウハウが他に生かされることは少ない。しかし、JRAで海外遠征の現場における多様なデータを一元的に蓄積管理していけば、誰もがケースに応じてそれを有効利用することができる。しかも、日本馬の遠征だけでなく、逆に海外から日本に来た馬のケアにも生かすことができる。日本は検疫が長いのがネックだが、その間(馬が)快適に過ごすことができるということになれば、昨年あたりから目立ち始めたピンポイント遠征のリピーターも増えることになるだろう。

 さて一方、遠征としては成功したダンスインザムードのアメリカンオークス。このレースは高額賞金を用意したハリウッドパーク競馬場の熱心なプロモーション(栗東トレセンにも同競馬場から勧誘に来ていたくらい)もあって今年からG1に昇格したが、あえて日本のレースにたとえるなら関東オークスをグレードアップした程度と考えるのが適当だろう。ただ、上位を争ったのはやはり強い馬で、特に勝ったティッカーテープはその後G1のデルマーオークスで2着、G3に勝って、この週末に3歳芝女王決定戦であるG1クイーンエリザベス2世チャレンジCに挑む。そんな強豪よりも内容では強い競馬をしていたのだから、結果は2着でもえらいものだ。オークスの敗因として思いつくところを挙げれば、攻めが軽かったかもしれない、距離が長かったかもしれない(それはない?)、左回りのせいかもしれない(アメリカでは走ったが)となるが、今回はそれらの点に関しては全てクリアしているし、桜花賞でのパフォーマンスはこの世代で抜きん出たもので、秋になったからといってその序列が大きく変わるとも思えない。しかし、強かった桜花賞でも、負けて強しのアメリカンオークスでも、ギュンと伸びる瞬発力があまり感じられなかった。全姉ダンスパートナーや全兄ダンスインザダークのような瞬間的な加速力には欠けるのではないかと……。あくまで個人的印象ですけどね。このように、強烈な瞬発力を感じさせないままいつの間にか後続を大きく離しているというのはMr.プロスペクター系に多いが、このレースの性格からすると、ゴール前2Fとか1Fとか、もっと短い区間で爆発的な脚を使えるものに逆転される可能性はある。

 トウカイテイオー産駒は一昨年の秋にトウカイポイントがマイルチャンピオンシップを、昨年暮れにヤマニンシュクルが阪神ジュベナイルフィリーズをそれぞれ強烈な末脚で差し切った。これによって強いのか弱いのか掴みどころのなかったトウカイテイオー産駒に、少なくともG1レベルに達したものは他を圧する決め手を備えているという色づけがされた。その切れ味はトウカイテイオーやシンボリルドルフというより、パーソロンまで遡ったかと思えるような性格のものだが、天才肌としかいいようのないこの父系の特性は一貫しているようだ。ヤマニンシュクルの祖母のティファニーラスはデビューから無敗で突っ走り、G1ケンタッキーオークスを含めて8連勝を達成した名牝。繁殖牝馬として230万ドルの高額で土井睦秋氏に購買されたのが90年11月のことで、サンデーサイレンスの導入とも重なるこの時期が、今思えば日本競馬の国際競馬への参入の本格的なスタート地点だったのかもしれない。そのときお腹に入っていたニジンスキーの娘がこの母で、期待されながら不出走に終わったが、名牝の血はこのように1代スキップして実ることが多い。これは、曾祖母サリースタークが不出走、4代母サリーシップがケンタッキーオークスの勝ち馬というこの牝系自身が実証している。曾祖母の父グロースタークからリボー血脈が入っているので、大レースでこそ真価を発揮するタイプでもある。

 ▲レクレドールの上昇ぶりというのはこの秋最大の急角度を示していて、その驚異的な適応力はサンデーサイレンスならではのものであり、その神秘的な成長力はステイゴールドの半妹ならでは。競走生活の晩年に明らかになる高い能力を屈折させていた兄と違って、こちらはデビューからここまで素直に成長してきた。母はサッカーボーイの全妹なので、サンデーサイレンスとの相乗効果で卓越した切れ味とトップスピードの持続力を得ている。父の産駒としても3頭しかいない国際G1勝ち馬のうちの1頭の全妹ならば、牝馬限定単世代G1なら勢いに任せて突き抜けるだけの底力を期待できる。

 ヤマニンアラバスタは秋になって切れ味に磨きがかかっているし、馬込みの中で我慢できるようになった。父はイギリスでの3歳春、フランスでの3歳夏〜秋、アメリカへ渡っての4歳、そして不振を経て5歳晩秋にジャパンC制覇と、浮き沈みを繰り返しながら強くなっていったし、母の父は3歳秋からサクセスストーリーをスタートさせた。グレイソヴリンの晩成型らしい大物に育つ可能性は父母両方から受けている。意外に良さが表現されないグレイソヴリンの近交馬が多い中、いかにもグレイソヴリンらしい切れ味を備えているのは貴重。

 アズマサンダースはサンデーサイレンス×シンボリルドルフ。この配合では同世代の牡馬キョウワスプレンダが、限界を示したように見えてダービーで4着に巻き返した。名門コランディア系の日本的なステイヤーで、どうしても突き抜けられなかった春のもどかしさを払拭するだけの底力は備わっているだろう。

 スイープトウショウのオークス2着にはびっくり。短距離血統エンドスウィープのイメージを覆してみせた。本質は短距離血統だとしても、決めつけるのはいけませんね。長距離血統のスプリンターとか短距離血統のステイヤーとか、そういった存在は珍しくない。ただ、それらはある程度までは活躍できても突き破れない壁があるケースが多いのも事実で、2000mのG1は何とも微妙。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.10.17
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