2004エリザベス女王杯


立つ秋風にも心揺るがず

 ブリーダーズカップが終わるとアメリカは繁殖牝馬セールの季節になる。11月7日に終わったファシグティプトンセールでは、今年の2冠馬スマーティジョーンズの母アイルゲットアロングが500万ドルの高値で取り引きされた。お腹に入っているのがスマーティジョーンズの全きょうだいなので、まあそれくらいはいくわなというところだが、続いて8日から始まったキーンランド11月セールでは、480万ドルのサンタカタリナ(G2ハリウッドBCオークス勝ち、エーピーインディを受胎)を筆頭に200万ドルを超える高額の繁殖牝馬が13頭も出現した(セリ3日目終了時点)。昨年のこのセールではBCジュヴェナイルフィリーズの勝ち馬キャッシュランがストームキャットを受胎して710万ドルで落札され、それが繁殖牝馬の米国セリ史上のレコードになっているが、今年は売却総額、平均価格がともに昨年を上回る勢い。昨年来のアメリカの血統マーケットのこの活況はいったいどこまで続くのだろうと思わされる。
 ヨーロッパでは今年から7つの古牝馬の重賞が欧州パターンレース委員会によって新規にG1に認定された。91年のヨークシャーオークスの古馬開放までは皆無(!)だった古牝馬のG1が、これで今年は一気に10にまで増え、有力牝馬の現役続行と新たなスターの創出に効果を上げた。ま、タイトル乱発でチャンピオンの価値が下がるという面なきにしもあらずだが、そういった負の側面は後から修正可能なことだ。
 ひるがえってこの国の牝馬の置かれた状況を見るとお寒い限り。そういわざるを得ない。今年からカブトヤマ記念が福島牝馬Sに置き換えられ、愛知杯が牝馬限定になったことで上半期の牝馬重賞は確かに充実したが、それぞれ低額の賞金別定とハンデ。恩恵を受けたのはG3クラスで、G1級は牡馬に混じって戦うか、蒸し暑い7月のマーメイドSまで待つしかないという旧態依然の状況。スティルインラブやアドマイヤグルーヴ(勝ったけど)といった名牝の苦闘は、そのトラップに足を取られた典型的な例だ。そこで思うのだが、現在2キロに固定されているセックスアローワンス、負担重量の牝馬減量を0.5キロ広げてみてはどうだろう。馬齢戦で牡馬57キロなら牝馬54.5キロにするのである。これをジャパンCに当てはめればファビラスラフインはシングスピールに競り勝ち、エアグルーヴもピルサドスキーを押さえたかもしれない。条件級でも、牡馬に揉まれ走る気をなくしてしまう前に勝ち上がって素質を伸ばすケースが増えるだろう。欧米で一般的な3ポンド=1.5キロ差より今でも大きい差を拡大するのには異論も出ようが、牝馬の保護はいわゆる反競馬的な弱者救済とは意味が違う。内国産馬中心の競馬を維持するのなら、今のような牝馬冷遇の構造では立ち行かなくなるときがきっと来る。

 さて、華やかだった昨年からは一転、今年ここまで苦労の続いた2頭の名牝だが、アドマイヤグルーヴは天皇賞で牡馬一線級相手にひと仕事して力を絞った後の中1週となると辛いものがある。そこでスティルインラブの完全復活のチャンス。父サンデーサイレンス、母の父ロベルトともに3歳が最盛期であり、3×3の強いインブリードとなるヘイルトゥリーズンが2歳戦で突っ走って完結したことから考えると、三冠を達成した昨年がピークだったと考えることはできる。でも、サンデーサイレンスはカリフォルニアンS、ロベルトはコロネーションCと、それぞれ古馬になってからもひとつはG1に勝ってから引退しており、成長力を示したとはいわないまでも、そうやすやすとは燃え尽きないぞという芯の強さは示していた。祖母のスレマイフもフランスからアメリカに渡って4歳で初重賞勝ちを果たしており、ノーザンダンサー×クレームデラクレームというハイペリオンの近交を生じる配合からも遅咲きといえる面はある。でも、そんなことより、鬱屈したサンデーサイレンス産駒の反発の凄まじさというのを、この秋の天皇賞の1〜3着独占(ちなみに当欄すべて無印)に見て、素直に脱帽すべしと考えた。春の不振で逆にエネルギーを蓄えたとするなら、前走できっかけを掴んで、ここで一気に能力全開の可能性が高い。

 もう1頭の脱帽対象がスイープトウショウ。話せば長いことながら、「競馬四季報」で春先に「クラシック候補血統大解剖」という名前の割にこぢんまりした企画をやっていて、そこでスイープトウショウは、その父エンドスウィープが某クオーターホースの名種牡馬そっくりの血統だということを発見してしまったんですな。その発見が我ながらあまりに見事だったので短距離の瞬発力勝負型と決めつけてしまって、ここまでそれに縛られた。オークス2着とか、考えを変えるチャンスはあったんですけどね。今でも未練たらしく桜花賞が一番似合うとは思っているが、牝馬限定戦ならこの距離でも一撃で勝負を決められそう。

 ダンシングブレーヴつながりというわけでもないが、エリモピクシーが▲。全姉エリモシックは97年のこのレースで追い込んで抜け出したダンスパートナーを更に後ろから追い込んで交わしている。あのレースは日本における最もダンシングブレーヴらしいパフォーマンスだった。スルーオゴールドが出る名門バイユー系に、バックパサー、ヴェイグリーノーブル、テスコボーイといった大レース向きの血脈が配された母は忘れな草賞勝ちの名牝。見た目は姉エリモシックの方が母に似ていて、そのぶん才気にも富んでいたようだが、妹はよりステイヤー風にじっくりと力を付けてきた。テイエムオーシャンやキョウエイマーチと同じく母系のナスルーラで父の独特の重さを消す配合で、トムフールの5×5も大レース向きの隠し味となっている。3歳限定戦時代から分かりやすい良血の強いレースでもあり、そんな舞台設定と自身の地力強化のタイミングがうまく合致したのが今回。

 は遅れてきたSS3歳世代代表のレクレドール。全兄ステイゴールドが初重賞までに38戦、初G1までに更に12戦を要したのとは対照的に、ほとんど最短距離で重賞勝ちを果たした。やればできるんやんかというより、これは能ある兄があまりに長く爪を隠していたに過ぎない。母はサッカーボーイの全妹で、サッカーボーイは軽快で豪快な切れ味の裏にスタミナを潜在させていたことが産駒や娘の子によって明らかになっており、サンデーサイレンスとの配合によってその瞬発力が増幅されることはステイゴールドがドバイシーマクラシックや香港ヴァーズで示した。外回りでもあり、スイープトウショウの向こうを張るくらい追い出しを遅らせれば逆転があるかも。

 ヤマニンアラバスタはゴールデンフェザント×タマモクロスによるフォルティノ3×4。父自身が長い不振のあと突如ジャパンCで復活したように、上下の振幅の激しいグレイソヴリンらしさを受けているとすると、コースが外回りに替わり、仕上げ過程も変えてきた今回は一変する可能性もあるだろう。

 フランスのウォートルベリーはその地味な印象よりも強い馬で、3走前のG2ジャンロマネ賞で負かした相手にコーリストの名がある。コーリストは今年G1に昇格した古牝馬戦プリティポリーSの勝ち馬。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.11.14
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