2004オークス


灰色の金雉はいつ羽ばたくか

 6月4日に行われる本家オークスでは今のところサンデーサイレンス産駒のサンドロップが1番人気になっている。5月19日現在、大手ブックメーカー各社の前売りオッズは、ウィリアムヒルとラドブロークスが4.0倍でコーラルが3.5倍。2番人気にはやや離れて同じゴドルフィン所属で前哨戦を鮮やかに逃げ切ったデインヒル産駒パンクティリアスが各社7.0倍で並んでいる。いよいよ日本産馬の英国クラシック制覇が現実味を帯びてきたかと思う反面、2歳時にG1フィリーズマイル2着で今年初戦のG1英1000ギニーが2着と好走はしながら重賞未勝利の1勝馬を本命に祭り上げるのも、ちょっと危なっかしい気がする。

 ともあれ、日英オークス同年制覇という、サンデーサイレンスにとって恐らく今年が空前絶後最大のチャンスとなるであろう歴史的快挙の前半部分は、よほどのことがない限り大丈夫だろう。いうまでもなく、ダンスインザムードがいるから。母のダンシングキイはアメリカに3頭の産駒を残した後、89年のキーンランド11月セールで購買され、日本に渡って持ち込みのラップスターを産み、91年生まれのトニービン産駒の一流馬エアダブリンを皮切りに、以降サンデーサイレンスとの配合でダンスパートナー、ダンスインザダークというクラシック馬を連続して送り出した。もともとが名種牡馬フォーミダブルや全欧チャンピオンスプリンター・アジダル、“ワンダーホース”アラジといった名馬を輩出する名門牝系だが、レイズアネイティヴ、キートゥザミント、ニジンスキーというアメリカ血脈最良のスピードとスタミナと底力を高い次元で釣り合わせていたのがダンシングキイの配合の妙で、これは個性的な大種牡馬たちの、それぞれの“旬”ともいえる時期に種付けされていた効果も大きかったと思う。そこへサンデーサイレンスが配合されると、サンデーサイレンスの持たないノーザンダンサー、リボー、レイズアネイティヴの血を補うと同時に、サンデーサイレンスとの組み合わせで爆発的な力を発揮するブルーラークスパーからドミノに遡る血脈が生きてくることにもなった。机上の理論というか血統表を見る限りでは、ケンタッキーダービーとかブリーダーズCクラシックを走らせたいような配合と考えられるが、実際に姉がオークス馬、兄が菊花賞馬であれば、この妹がオークスに臨むに当たって何の心配があろうかといったところ。むしろ、不安があるとすれば桜花賞であって、それを(恐らく)桜花賞史上最強といえる内容ですで制したのだから死角を探す方が無理だ。

 でも、どうしてダンスインザダークの後に不肖の全弟全妹が続いたのだろうかという疑問があって、それについては答が出そうにないのであきらめるとしても、そうこういっている間にも歳月は流れた。世紀をまたいでダンスインザムードが生まれたのは母が18歳のとき。まあ、これは問題にならないような問題であって、高齢馬の仔は活力に欠けるというのもあくまで俗説なので、よそではいわないでほしいと思うものだが、せっかく見つけたので書いておく。オークス馬の母の最高齢記録(出産時)は1950年の勝ち馬コマミノルの母16歳。当時は秋施行だったので、春に移った52年以降では、62年のオーハヤブサ(母15歳)が最高で、母14歳にスターロッチ、ジュピック、スティルインラブと並ぶ。桜花賞を入れても94年のオグリローマン(母17歳)が最高だった。ダンシングキイ=ダンスインザムード母仔はすでにそれを更新していて、しかも並みの名牝を遙かに超える名牝にとってそんなデータは障害とはなり得ないと考えるのが常識的だが、サラブレッドが最も成長する時期に争う春のクラシック、中でも特に苛酷なオークスだからこそ、そういったことが影響しなくもないかとは考えられる。その一点を頼りに。でも、実は牡馬ならトサミドリ(49年の皐月賞、菊花賞)は名牝フリッパンシー22歳の産駒で、88年の仏ダービー馬アワーズアフターの母25歳という例もある。気にしなければ気にしないですむ程度のことです。

 さて、逆転となると、同じサンデーサイレンスの産駒では難しい。東京でのSSキラー・トニービンももういない。しかし、グレイソヴリン系ということではゴールデンフェザント産駒のヤマニンアラバスタがいる。ゴールデンフェザントはフランスで3歳トップクラスのすぐ下の位置を占め、アメリカに渡るとアーリントンミリオンに勝ち、その栄光も忘れられたころにジャパンCであっという間に抜け出してみせた。カロの仔だが、見た目やレース振りはむしろ、より天才肌を強めた同系のゼダーン風といえ、最大瞬間風速では当時の日本最強馬メジロマックイーンが手も足も出ないほどだった。種牡馬としては初年度産駒から青葉賞のトキオエクセレントを出したが、サンデーサイレンスと同い年という点は最大の不幸で、後が続かず2002年からは輸出先の中国で供用されている。母は主に長距離の条件戦で活躍し、函館記念でも2着がある。その父タマモクロスからシービークロス、フォルティノと遡ってフォルティノ3×4となるが、カロとシービークロスはかなり似たタイプのフォルティノ系だけに、あまり成功していないグレイソヴリン系のインブリードとはまた違った結果が期待できる。牝系は曾祖母の産駒にデイリー杯のヤマニンファルコンとシンザン記念のヤマニンアーデンが出る程度で、クラシック級となると11代母(!)のジャネットが実に1878年のオークス、セントレジャー勝ち馬。ほとんど実質的な意味はなさそうだが、そのジャネットは19世紀中葉のリーディングサイアー・タッチストーンの3×4を持ち、フォルティノがその父グレイソヴリンのスピードに加えてクラシック級のスタミナと底力を備えることができたのもタッチストーン〜ハンプトンの血の効果だったとすると、いかにも遠いが何かしらの影響があると考えることはできるだろう。ウメノファイバー的な一発を期待するとすればこれ。。ザグレブとかゴールデンフェザントとか、いなくなった種牡馬の仔ばかり走るのも困ったもんだが……。

 アズマサンダースはサンドロップに似て、1勝のままここまで来てしまった。母はチューリップ賞3着や中山記念2着もあるが、その父シンボリルドルフの我慢を嫌う面が影響したためか主に短距離の差し馬として活躍した。しかし、短距離で活躍したマルゼンスキー牝馬が母としては長距離の大物を出すケースがあるように、こういうタイプは母の父としての方が本来の能力が伝わりやすい。4代母コランディアの産駒には春の天皇賞馬ベルワイドがいて、もともとが2400mの名門牝系レスペランス〜ザリバ系。秋になればより強くなる可能性が高いが、現時点でも距離延長を味方に逆転可能。

 ギミーシェルターはSS×ロベルトの配合だった昨年のスティルインラブと共通する配合で、忘れたころのリアルシャダイの怖さはイングランディーレによって再確認させられた。まだ忘れるほど天皇賞から日がたっていない点が微妙だが、用心に越したことはない。祖母はオークス馬。母は荒れ馬場の福島記念で後方から2着に突っ込んだ。道悪が残ればより不気味。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.5.23
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