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ダービー馬と皐月賞馬がどちらも出てこないのは97年(サニーブライアン)以来で、その前が91年(トウカイテイオー)、90年(皐月賞・ハクタイセイ、ダービー・アイネスフウジン)となるが、それぞれ故障・休養や引退などの事情があった。あえてここを避けるという流れは95年の皐月賞馬ジェニュインが先鞭をつけ、その年の秋の天皇賞で古馬に挑んで2着だった。前哨戦の神戸新聞杯圧勝で世代No.1の力を示して天皇賞に向かったシンボリクリスエスもその流れに沿っての成功例だといえるだろう。より可能性の高い方、よりその馬に合ったレースをめざすのはいいことだと思う。ただ、その底流に将来種牡馬になったときの評価を見越しての動機付けがあると、今この目の前の競馬が空洞化していく可能性をはらんでしまうことも考えておかなければならない。 生産のための競馬か、競馬のための生産か、この命題はときどき卵が先か鶏が先かと同じように議論されるが、これは明らかに競馬のための生産が正しい。正しいといい切ってしまっていいのかどうか一概にいえない部分もあるが、目の前の競馬を勝ち抜いてチャンピオンとなった結果、種牡馬として迎えられるというのがあるべき姿だろうと思う。そのサイクルが妙なことになった例が今の欧州の競馬ではないか。70年代後半のロバート・サングスター&ヴィンセント・オブライエンの台頭と80年代のノーザンダンサー・ブーム、そしてその流れをそのままを引き継いだクールモア・グループ&エイダン・オブライエンの現在までの大成功は、競馬場を種牡馬製造の場に完全に変えてしまった。彼らは彼らの目的達成のためにルールに沿って最大限の努力を払っているのだから何ら責められるべきではないが、極端な話、7頭立ての5頭がオブライエン厩舎で、1〜4着までオブライエン厩舎の親子丼(というのか)だったという競馬が面白いか? G1を何連勝かして、さあスター誕生だと思ったらさっさと種牡馬になっちゃったという競馬でいいのか? そういう話なのである。それに対立するひとつの答が今年4月のサガロSG3のレース中に心不全で世を去ったイギリスの名ステイヤー・パーシャンパンチの存在で、私らのように外からG1レースの上っ面を追いかけているものにはよく分からなかったのだが、かの地で当代随一の人気者は彼だったということなんですね、どうも。パーシャンパンチはパーシャンハイツの仔の93年生まれ、通算成績は63戦20勝、重賞はグッドウッドCG22回など長距離戦ばかり13勝しているがG1ではアスコットゴールドC2着2回、カドラン賞2着とどうしても勝てなかった。それでも、01年と03年の2回、カルティエ賞の最優秀ステイヤーのタイトルを得ている。全欧を対象にしているといってもイギリス中心のカルティエ賞は大衆迎合型の傾向が強い年度代表馬表彰でもあり、それだけ根強い人気を誇っていたということが窺い知れるが、勇猛果敢なレースぶり、負けても必ず立ち直って巻き返すタフネス、そして足掛け9年にわたって、勝てはしなかったがG1に挑み続けて長く活躍したのがその理由だったのだろう。 この例で見て取れるのは、馬の価値やレースの価値が生産者、オーナー、厩舎人、ファンのそれぞれの立場によってバラバラだといういびつさだ。オーストラリアの競馬もひところは2歳戦が種牡馬選定レースで、古馬G1はセン馬が争うという2極化があったが、デインヒルの仔が2歳戦から古馬のチャンピオン戦まで強いおかげで、チャンピオンとして活躍した馬がそのまま優れた種牡馬になるという流れに変わっているし、旧時代の遺物となりかけていた長距離ハンデ戦メルボルンCも近年ではヨーロッパからも強豪が挑戦する大イベントになった。日本競馬のユニークな点としてレースの格とファンの興味が比例して整合しているのは世界に誇るべきことだと思うが、その中でなぜか小さなほころびとしてあるのがこの菊花賞と春の天皇賞の2つの超長距離戦。マンハッタンカフェやヒシミラクルというチャンピオンを送り出している以上、これら2つのレースにはまだ体力がある。しかし、最強戦であるべきなのに最強馬が避ける、あるいは避けざるを得ないのは問題だと思う。JRAのG1としてもっとも微妙な位置に立たされている菊花賞の場合、距離短縮とか、古馬への開放とか、あるいは3歳限定3000mを維持するために体系的にいじっていくという方法もある。でも、こういうのに熱心なのはファンばかりなんですな。競馬の根幹をなす2つのレースがこれからどうなっていくか、どうしていくかは、少なくとも競馬でおまんま食わせてもらっている人間が当事者として真剣に向き合うべきで、何でもJRAに決めさせて、決まってから文句をいうとか、3000mなんて時代遅れでしょという冷笑的な態度をとってすますべきではないことだと思う。ひとつの策として皐月賞馬が菊花賞に勝てばいくら、ダービー馬が勝てばいくらというボーナスを設定する手もある。原資は下級戦の賞金をちょこっとずつ削って充ててもいいし、そこまでたくさん削れなければある程度の額で受けてくれる保険会社を探せばいい。事実アメリカの競馬は強い馬を集めるためにそういう努力は惜しまない。 ここまでの流れでいくと、どうも今回は血統予想というよりモチベーション予想になってしまうが、◎はコスモバルク。オーナー兼実質的調教師の岡田繁幸氏がどうしても勝ちたいのは第一にダービーだとしても、ここまで来たらバルクで冠のひとつはと考えるのは当然だし、ここを勝っておけば今後はほぼフリーパスでJRAのG1に出られる。「古馬とやるよりはこちらの方が……」とこちらに矛先を向けたのとはおのずから熱意が違う(ジャパンCの外国馬予想みたいですね)。父は愛ダービー馬で、母はテスコボーイの2×4でプリンスリーギフトの3×4×5。血統表の様式でいうと上が重い。でも、父にしてもその母の父は非力なウォローで上が重いパターン。母はハイペリオン血脈も豊富に持っているし、4代母の父にガーサント、父の祖母の父にジムフレンチと底力を伝える血も入っている。何とかならないかなと思う。 ○ホオキパウェーブはカーネギー産駒にありがちなちんちくりんなところがなくて、ようやくこの父のサドラーズウェルズらしいスタミナが持ち味となる産駒が出てきたといえる。ガリレオなどに見るように、母系にMr.プロスペクターが入っても距離対応の足かせとならない場合は多いし、祖母の父サーゲイロードはこの父系に決め手を付与する定番ともいえる配合。 ▲シルクディレクターは父が菊花賞馬で、近親にはメジロライアン。祖母の父フィディオンは菊花賞馬メジロデュレンの父。ササフラスやシャンタンの出るフランスの名ステイヤー牝系で、大穴ならこれ。 △オペラシチーは母系から入るナスルーラがスピード面の補強をするこの父の産駒の成功パターン。特に母の父がネヴァーベンド系なのでサドラーズウェルズとの相性もいい。 コスモバルクのペースで流れるとすると、スロー志向のSS産駒は出番がないと思うが、どうでしょう。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.10.24
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