2004ジャパンC/JCダート


世界のTokyoで求められるもの

〈JCダート〉

 今年で5回目を迎えてもなお世界で最も不思議なレースとしての地位を保っているのがJCダートなのではないだろうか。リドパレスあたりのいわゆる本場の強豪が簡単に負けるのはジャパンCも同じだが、米国の格下馬が健闘したり、ダート未開地の欧州からは負けても負けても積極的に遠征してくる。地元日本の馬もおおむね能力通りに順当に収まっているように見えてクロフネが勝った01年以外は微妙に荒れている。これは重賞としては東京で唯一の2100mという距離、ダートのクラシックディスタンスである2000mに余分の100mが影響を及ぼしている可能性もあって、レコード(東京)が毎年更新される勝ち時計やペースの一貫性のなさから見ても、遠征する方も手探り、迎え撃つ方も手探りという状況が浮かび上がる。そこで、未知の部分を秘めた伏兵、東京ダート2100mという特異な舞台にピタッとはまる存在が、過去の成績による序列を覆す可能性を秘めている。

 世界血統7不思議のひとつにデインヒル産駒米国ダート重賞未勝利というのがある。残り6つは省略するが、これまで欧米豪日そして香港、南アフリカと世界中で157頭(米ジョッキークラブ社、11月17日現在のデータによる)の重賞勝ち馬を出す世界一の大種牡馬に、米国ダートではG3の勝ち馬さえいない。オープンのトパーズSなど6勝を挙げたタマモルビーキングがダートでは世界的な稼ぎ頭ということになっている(同データ)ほどだ。デインヒル産駒に芝向きが多いのは事実で、デインヒルの一流馬をあえてわざわざ米国に持っていってダートを走らせないという背景が最大の理由だが、米国で走った全弟のイーグルアイドもダートではさっぱりだった。もともとが米国血統でこのクラスの種牡馬なら変わり種の1頭や2頭は出ておかしくないのに、それすらないのは不思議としかいいようがない。しかし、逆に考えると、米国ダートに向かない血統だからこそ、日本のダートに合う可能性がある。00年3着のロードスターリング、昨年の勝ち馬フリートストリートダンサーなど、米国馬ながら米国ダートでは十分に開花しなかった素質が生きてくる場合があるのがこのレースだからだ。ヴォルテクスはこの夏の英国アスコット、騎手対抗戦のシャーガーCマイルで武豊騎手が乗って2着しているので熱心な武豊ファンには名の知れた存在。その芝での最良のパフォーマンスは準オープン級といえる程度だが、ダート(オールウェザートラック)では11戦9勝の高い勝率を誇る。しかも、リングフィールドのポリトラック、ウォルバーハンプトンのファイバーサンド、イエゲルスロ(スウェーデン)のウッドチップ、テビー(同)のダートと馬場の素材を問わない順応性の高さも今回のような手探り競馬では強みとなりそうだ。最長勝ち距離が8.5Fで10Fのウィンターダービーで惨敗している点は距離の壁を示しているのかもしれないが、全姉デーンフェアは2400mのG3ミネルヴ賞勝ち馬で、ジェネラス産駒の半姉エルーダイトは2400mの準重賞に勝ち、3100mのG1ロイヤルオーク賞で2着している。母がヴェイグリーノーブル牝馬ならデインヒルのステイヤー産駒の配合パターンともいえる。

 トータルインパクトは一線級で2、3着の多い成績が昨年のフリートストリートダンサーに通じる。父ステューカの最大のタイトルがザウィキドノースの降着で得たG1サンタアニタH繰り上がりVだったように、地味〜な印象がついて回るが、華やか成績の招待馬がコロッと負けるこのレースの傾向を考えれば、逆にいいのかもしれない。

 日本馬では▲ユートピアローエングリンナイキアディライトの意外な行った行ったに期待。

〈ジャパンC〉

 小粒といわれながら今年のブリーダーズCターフと比較すればよほど層の厚いメンバーになった。しかし、世界の最強馬と日本の最強馬の対決という理想からは遠い。今年はこの路線が特に不作ということもあったにせよ、もう今どき芝2400m戦でのリクルートは大金で釣ってどうこうなるというものではなくなってきている。かつて国際レースの代名詞だったワシントンDCインターナショナルがブリーダーズCに追われるように衰退消滅し、そのブリーダーズCも20回を過ぎて当初の新鮮味が薄れ……、そういう流れを考えると、イベント性の強い国際レースの生き残りは大変だ。過去幾多の名勝負を生んだ“キングジョージ”も今では上半期の英国ローカルチャンピオン戦になっているし、凱旋門賞が何とか高い格を保持しているのも日本人の幻想とフランスの政治力によるところが大きいと思える。対外的に日本の看板レースである以上、そう節操なく条件を変えるわけにもいかないだろうが、近年の外国馬の最高のパフォーマンスといえるファルブラヴの勝利が中山2200mだったことは、距離短縮も含めた方針変更を促しているのではないかとも思える。

 中山2200mと東京2400mとの違いは、後者がよりステイヤーとしての資質を問われるということ。一見頼りなげな今回の日本チームでも、この点に関しては層が厚い。2400m以上の日本のG1勝ち馬は2頭だが、年長の方はまだ本調子になさそうなので、若いデルタブルース。父がダンスインザダークで祖母の父がアレッジドだけに、菊花賞でも気にはなっていて、繰り返しレースビデオを見た結果、こりゃ瞬発力不足やねと誤った結論に至った。やりつけんことをするとろくなことがない。力で押し切った菊花賞の内容をそのままここに移すと、依然として瞬発力不足の懸念はついて回るが、条件勝ちから一気にG1制覇を果たした成長力、上昇度を加えれば、今年の最強クラスが相手でも何とかなるのではないか。父からキートゥザミント、母からホイストザフラッグというリボー系大種牡馬の血を2本受けた底力は、こういう局面でこそ真価を発揮するとも思える。

 コスモバルクは父が愛ダービー馬で、その父シアトリカルは芝2400mの大種牡馬。このレースでもヒシアマゾンが2着しているように、シアトリカルの一流馬は欧州でも米国でも日本でも同じように活躍し、活躍地域の広さという点では芝2400mの第一人者であるサドラーズウェルズを超える。母にナスルーラのラインブリードが施されていて、気が先走るのはナスルーラの血が強いせいだろうが、それでバタッとこないのはナスルーラの影でハイペリオン血脈が仕事をしていることを示している。だとすると、まだ成長する余地は残されていると考えていい。

 ▲ナリタセンチュリーもトニービン、ノーザンテースト、ヴェイグリーノーブルと隠れたハイペリオン血脈が騒ぎ始めるころで、外を回った組が全滅した天皇賞で、ただ一頭大外から差を詰めてたのは成長の証。トニービン×ノーザンテーストの配合は97年、98年とこのレースが最もハイレベルだった時期に2年連続2着した名牝エアグルーヴと同じ。

 ウォーサンはひと昔前のステイヤー血統だが、勝てば98年の兄ルソー(当時本命に抜擢し、しんがり負け)の汚名をすすぐことになる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.11.28
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