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92年生まれのサンデーサイレンス初年度産駒からは5頭のG1ウィナーが出ている。その中ではマーベラスサンデーの宝塚記念制覇が最も遅かった。フジキセキ(朝日杯)をはじめ、ジェニュイン(皐月賞、マイルチャンピオンシップ)、ダンスパートナー(オークス、エリザベス女王杯)、タヤスツヨシ(ダービー)と、どれもが3歳春までに能力全開域に達していたのとは対照的だ。もっとも、3歳2月のデビューから新馬、特別を連勝した後、丸1年を骨折で棒に振っているので、普通にクラシックを戦っていればどれか勝っていた可能性はある。それはともかく、4歳で復帰してからの快進撃は記憶に新しいところ(でもないか)で、条件戦連勝から重賞4連勝、その勢いに乗って挑んだG1戦線では壁にぶつかるが、5歳夏の宝塚記念ではバブルガムフェロー以下をきっちりと差し切り、生涯唯一のG1を手にした。この戦績から窺えることは、それまでの3歳春へと一直線に成長するサンデーサイレンス産駒とは色合いの違う古馬になってからの成長力と、連戦に耐える頑丈さ、相手強化に屈しない順応性、そして、ここ一番でのサンデーサイレンス産駒らしい極限の決め手。これらはいずれも種牡馬として重要なことで、ひとつ欠けていた仕上がりの早さも初年度産駒のラヴァリーフリッグが東京2歳優駿牝馬に勝つことで証明されたし、ラヴァリーフリッグはまた、牝馬限定のマリーンC勝ちのほか牡馬混合戦でも健闘して、父の奥深い成長力も同時に示してみせた。 そこに現れたのが◎シルクフェイマスで、8カ月にわたっての5連勝はいかにもこの父の仔らしい。父の蹄跡に忠実なら、ここは3着が濃厚という見方もできるが、骨太で一種の重さのあった父が距離の限界を内在させていたのは確かだろうし、そのあたり、この馬の場合は軽く柔軟な方向にシフトしている印象がある。カーリアン産駒の母は400K前後の小柄な馬で短距離戦の2着が1度あった程度だが、その半妹ビワグッドラックはアジュディケーティング産駒ながらローズSでファレノプシスをクビ差まで苦しめる2着があり、ヴェイグリーノーブル産駒の曾祖母はミュージドラSに勝ち、英オークスで3着。ミュージドラSは近年では名牝イズリントンあたりが勝っている英オークスの主要なプレップレース。母系のかなり深いところとはいえ、近代的スタミナの固まりといえるヴェイグリーノーブルが入り、その資質が実際に発揮されている点は長距離の大レースでは軽視すべからざるポイント。そこからロベルト、カーリアン、そしてサンデーサイレンス系とくぐることで近年のG1では不可欠ともいえるヘイルトゥリーズンのインブリードが4×4×5で生じることになる。母の父カーリアンのG1ウィナーには英セントレジャーのムタファーウエクがいて、これがシルヴァーホーク×カーリアンの配合でヘイルトゥリーズンの近交馬。母がプリンスキロのインブリードを持っている点も共通する。母系にロベルト、父系がサンデーサイレンスの組み合わせは昨年の三冠牝馬スティルインラブに通じる部分もある。ここまでのパフォーマンスの比較では4歳勢に対して分が悪いのは確かだが、それを逆転できるだけの伸びしろは秘めていると思う。ちなみに4代母のクイルの孫にはマルゼンスキーがいて、これはライスシャワー、メジロブライト、スペシャルウィークの母の父として、春の天皇賞に隠然たる支配力を持つ血統。 サンデーサイレンス直仔の長距離担当後継馬といえば、マーベラスサンデーよりひとつ年下のダンスインザダークが先に実績を作った。○ザッツザプレンティがその“実績”というわけ。さまざまなニックスや成功配合をパズルのように取り込んでいるこの血統は、父のようにも、叔父バブルガムフェローのようにも、あるいはSS×ミスワキのサイレンススズカのようにも、成長の方向としてはさまざまな可能性があるということはこれまでに何度も繰り返したが、やはりニジンスキーの発展型という2歳時の印象が合っていたようで、それだけに底力の要求される大レースでこそ良さが生きるという面もあるだろう。ニジンスキーに関連して都合の良いニックスを抜き出すなら、母の父ミスワキの存在が大きい。ニジンスキー×ミスタープロスペクターはもともと相性の良い組み合わせだし、ミスワキの母ホープスプリングズイターナルはバックパサー×プリンスキロの配合だから、そこにニジンスキー血脈が加わるとそのままマルゼンスキーの再現(正確には8分の7だが)ということにもなる。このレースにおけるマルゼンスキーの影響力の大きさという点でいえば、むしろ本命馬よりこちらのほうにマルゼンスキーらしさを認めることもできる。 ▲ネオユニヴァースの昨秋の不振は、サンデーサイレンスの一流馬にありがちというか、スペシャルウィークあたりの3歳秋に似た落ち込みの時期だったと解釈できる。受け入れられる限界を超えた要求にも、なまじ水準以上の気力と体力を備えているだけに破綻をきたすこともなく持ちこたえていたという状態。一流のスポーツ選手と同じで、それを乗り切ると、もう一段階強くなるわけですな。もともとが重過ぎるくらい重い欧州系のステイヤー牝系だし、母の父のクリスもマイラーとはいっても日本的なマイラーとは一線を画す欧州的な重いタイプで、母系に入るとステイヤー的な働きを示す場合が多い。皐月賞に勝ったのはサンデーサイレンスの仕上がりの早さがあればこそという考え方もできて、古馬となったこれから、本来の強さを示していく可能性が高い。 △チャクラの父は菊花賞馬でこのレースの勝ち馬でもある。母のきょうだいにはドイツの名馬プラティニ、7歳の今も世界巡業を続けて今年3月のドバイデューティフリーで3つ目のG1を制したパオリニがいる。曾祖母の孫に独セントレジャーのピノ、5代母の孫にも牝馬ながら独セントレジャーに勝ったプレイリーネバがいて、厳格に淘汰選別されるドイツ牝系だからそのようになるのが当然といえる面があるとはいえ、牝系のスタミナ埋蔵量(?)では有力どころに遜色ない。カーリアン牝馬にロベルト系の父という配合は前出の英セントレジャー馬ムタファーウエクと同じ。父に比べると母系にハイペリオンが薄いのが気になるが、そのあたりは母がノーザンダンサーを3×4で持つ点と、自身が4×4で持つレッドゴッドからミーナウ〜ファラモンドのラインを強化していることで補いがつくだろう。まだこれから成長する余地を大きく残しているし、スタミナを要求される展開になれば、有力馬の間隙を突いて台頭してきそうだ。 ファストタテヤマは祖母がアンバーシャダイの全妹で、母の父が一発のあるターゴワイス、そして父が菊花賞馬で菊花賞馬の父。長丁場でつねに穴の期待がかかるのは当然ともいえる。実際、菊花賞2着で穴を開けた実績もあるだけに、いつ来るかいつ来るかと思わされるのだが、こういうタイプは期待している間は来ないという面もある。しかも、昨年の水準なら展開次第でどうにかなる部分もあっただろうが、今年は明らかにメンバーが違う(と気のないふりをしてみる)。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.5.2
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