2004フェブラリーS


柳の下のゴールドラッシュ

 ケンタッキーダービーの第1回前売りが今週初めに締め切られた。まだ2月だが、向こうではそういうのをやっているのである。2.8倍の1番人気はリストにない「その他の馬」で、12倍の2番人気がユーロシルヴァー(父アンブライドルズソング)、13倍の3番人気にバードストーン(父グラインドストーン)とアンブライドルドの孫が続き、その後に15倍でBCジュヴェナイルのアクションディスデイ、重賞3連勝中のリードザフットノーツ、そして、2歳時3戦無敗のライオンハートと3頭が並んでいる。ライオンハートは現3歳が2世代目の新鋭種牡馬テールオブザキャットの産駒で、現役時のテールオブザキャットは、まあそんなに大した成績の馬でもないのに当時はその動静が逐一報じられた。一流の牝系で3歳夏にG2キングズビショップS(現G1)勝ちで示したスピードに強いインパクトがあったようで、要するにストームキャット後継候補の本命としての期待をドカッとその背に乗っけて走っていたわけですな。アメリカでも、種牡馬になってほしい馬がその期待に添うだけの優れた成績を残すケースはそう多くないが、テールオブザキャットは何とかその期待が失望とならない程度の競走成績を収めて種牡馬となり、2世代目にダービー候補の一角を占める産駒を送り出した。これでまあ安泰だ。日本に売られることもない。もっとも、日本にも買うだけのお金がない(だろう)。

 これの前に種牡馬としての期待を後追いするように走った名馬というとフォーティナイナーだろう。名門クレイボーンファームのオーナーブリーディングホース。管理するのは歴史的名伯楽ウッディ・スティーヴンス。7月のデビュー勝ちの後、3戦目のG2サンフォードSからG1フューチュリティS、G1シャンペンS、G2ブリーダーズフューチュリティと4連勝で2歳戦を締めくくるとブリーダーズCに出ることなく2歳チャンピオンに選ばれた。ミスタープロスペクター直仔でもあり、ファン以上に切実な生産界の期待を背負ってクラシックを戦うことになったわけだ。しかし三冠路線では、前哨戦ではいいところを見せるのに、G1フロリダダービーではブライアンズタイムに差し切られ、ケンタッキーダービーでは牝馬ウィニングカラーズに逃げ切られてそれぞれ2着、続くプリークネスSでは14 1/4馬身差の大敗を喫してしまう。ひと息入れて出直した夏には一般戦を7 1/4馬身ち切って勝つと、G1ハスケル招待H、そしてG1トラヴァーズSとどちらもシーキングザゴールドをハナ差抑えて大きな期待をつなぎ止めたのだった。トラヴァーズSはケンタッキーダービーに匹敵する重要な3歳戦で、ダービーが熱狂の中を慌ただしく走るのに比べると落ち着いて本当の強さを試すレースといえ、三冠で失敗したヒーローが名誉回復を果たすためのセーフティネットのような役割もある。かくして大種牡馬へのパスポートを手に入れたフォーティナイナーだったが、エンドスウィープやトワイニングを出した程度では期待の大きさに釣り合わなかったのだろう、日本に買われたのは周知の通り。しかし、ちょっとズレて期待に応える現役時からの癖は抜けず、日本で供用が開始された96年のクラシックシーズンにエディターズノート(ベルモントS)が現れたのを皮切りに、コロナドズクエスト(トラヴァーズS)やエクトンパーク(スーパーダービー)といった大物の出現が相次ぐのである。結果論ではアメリカの生産者に辛抱が足りなかったといえるし、辛抱し続けて不良資産と化すよりは価値のあるうちに売った方が賢明だともいえるが、そういうアテにし辛さというのはフォーティナイナーとは切っても切れないもののようだ。日本でも期待に応えだしたのはごく最近で、ビワシンセイキがG1級に上がり、ユートピアがG1を制してからのこと。ユートピアも期待を集めるとコケ、コケては立ち直って大きな成果を上げるといった点では父の歩んだ道を、日本とアメリカの違いの範囲内で正確にたどっているといえる。ファミリーを遡ればタップダンスシチーと同じアメリカの名門トゥーボブ系で、半兄アロハドリームは中京記念、函館記念に勝ち、半姉メイプルシロップはローズS2着。それら上との底力の違いは、素直に父のフォーティナイナーによってもたらされたものと考えられる。ちなみに、今年のダート重賞でのフォーティナイナー産駒の成績を列記すると……

 ガーネットSG3
  (1) マイネルセレクト
  (3) シャドウスケイプ
 TCK女王盃G3 出走なし
 平安SG3
  (2) クーリンガー
  (3) ビワシンセイキ
  (15) タガノフォーティ
 根岸SG3
  (1) シャドウスケイプ
 川崎記念G1 出走なし
 佐賀記念G3
  (1) クーリンガー
  (9) タガノフォーティ

 見よ、この好成績。復調に手間取るタガノフォーティを別にすると、出走機会の全てで馬券に絡んでいる。これだけの高率で好走していながらサンデーサイレンスのように話題にもならないのはいかにもフォーティナイナーらしいが、そのぶん馬券的な妙味がある。そうそう柳の下にどじょうが何匹もおるかいなという考え方もあるが、どじょうなんかいるときはうじゃうじゃいるものだ。前走の内容なら昨秋の不振からは完全に立ち直ったと見て良く、得意の左回りマイル戦なら

 同じフォーティナイナー産駒のシャドウスケイプ。こちらはユートピアと同じフォーティナイナー×ノーザンテーストに、母の父としてサンデーサイレンスが挟まった形。「あの脚長の体形やろ、俺の経験からするとサンデーの繁殖(牝馬)には往生するぞ」といい残してアメリカに旅立った知人がいて、時期的にまだ結論を出すのは早過ぎるにしても、サンデーサイレンス以上かそれに匹敵するクラスの種牡馬が日本にはいない以上、その予見が当たっていそうなことは想像がつく。アメリカならシアトルスルーの一流牝馬にはダンチヒをつけ、ダンチヒの一流牝馬にはミスタープロスペクターをつけ、ミスタープロスペクターの一流牝馬にはストームキャットをつけ……という拡大再生産が可能だが、日本じゃサンデーサイレンスに匹敵する格を備えたのはフォーティナイナーだけ。この配合でG1級が出るようなら将来への希望が生まれる。

 サイレントディールはトゥザヴィクトリー、ビーポジティブの全弟で、サンデーサイレンス×ヌレイエフの配合は昨年の勝ち馬ゴールドアリュールと同じ。この血統は早くに素質を示しながら、それに見合ったタイトルを得るまでに結構グズグズする場合が多い。鮮やかな武蔵野Sから一気に頂点に上り詰めることができなかったのはちょうどそういう停滞の時期に当たっていたのかも。名手ペリエなら前回のような失敗を2度は繰り返さないだろう。

 イーグルカフェはJCダートに勝ったのが遠い昔のようだが、JCダートもNHKマイルC勝ちが遠い昔に思えるころだった。近走でも着順ほど大きく負けているわけではないし、97年生まれの最強マル外世代。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.2.22
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