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ジャパンCは意外な馬が勝つ場合でも着順はある程度能力順に整然と並ぶのに対して、有馬記念は勝つ馬は順当だとしても2着より下では小さな番狂わせが頻発しているように思える。これはこのレースでは同世代内、異世代間、さらにはカテゴリー間(さすがに最近はダイタクヘリオスのような愛すべき闖入者も見ないが)の争いが複雑に絡み合っていて、しかもコーナーを6回通過するコース形態のせいで広大な東京2400mとは違った種類の消耗戦となるためだろう。過去10年でシンボリクリスエス(連覇)、グラスワンダー(連覇)、ブライアンズタイム産駒(3勝)とロベルト直系の孫が7勝を挙げ、レインボークエスト産駒のサクラローレルとオペラハウス産駒のテイエムオペラオー、そして唯一のサンデーサイレンス産駒マンハッタンカフェが残りを分けた。マンハッタンカフェは母の父が完全な欧州型ステイヤーのローソサイエティだから、サンデーサイレンスと同じヘイルトゥリーズン系でSSキラーの異名を持つ(?)ロベルト系か、欧州風ステイヤー、あるいはサンデーサイレンス産駒なら影響力の強いステイヤー血脈でスタミナの補強がされたものでないと勝つのは難しいことが分かる。奇特で賢明な小欄の愛読者におかれましては、またゼンノロブロイに無駄な抵抗をしようとしていると察せられたかと思うが、その通りなので先に進みます。 「中山グランプリ」として行われた1956年の第1回以来、複数の勝ち馬を送った種牡馬はトサミドリ(ガーネット、ホマレボシ)、ヒンドスタン(リュウフォーレル、ヤマトキョウダイ、シンザン)、マロット(イシノヒカル、イシノアラシ)、ノーザンテースト(アンバーシャダイ、ダイナガリバー)、ブライアンズタイム(ナリタブライアン、マヤノトップガン、シルクジャスティス)の5頭。各時代のリーディングサイアー級が並ぶ中にあって異彩を放つのがマロット。このリボーの初期の産駒であるナポリ市大賞典勝ち馬によって「大レースに強いリボー系」という認識が初めて日本にもたらされたといえるが、近年でも波乱の立て役者となった(02年の)タップダンスシチーは直系子孫だし、アメリカンボスやグラスワンダー、マンハッタンカフェらの母系に潜んで隠然たる影響力を及ぼしている。これらの例が示す通り、代を経て薄まったリボーの血が活力を得る鍵となっているのがノーザンダンサー血脈で、気まぐれな天才リボーに頑健な体育会系ノーザンダンサーはよく合う(マンハッタンカフェはノーザンダンサーなしの例外)。ダンスインザダークは母の父がノーザンダンサー直仔ニジンスキーで祖母の父がリボー系キートゥザミントなので、すでにその産駒は有資格馬となる。中でも◎デルタブルースは母がディキシーランドバンド×アレッジドだから、父母ともにノーザンダンサー+リボーの組み合わせ。ノーザンダンサー直仔のディキシーランドバンドは母にハイペリオンが強いだけに日本のノーザンテースト、欧州のビーマイゲストに似た面があって、ダートの短距離馬から芝の長距離馬まで出す万能型で母の父としても良く、アメリカンボスの母の父でもある。アメリカンボスも父母ともにノーザンダンサー+リボーを持っていたので、どっしりした土台に最先端の流行血脈を載せたという配合様式にも共通点がある。いくらアメリカンボスに似ていても波乱の2着止まりだが、ダンスインザダークは父のサンデーサイレンスよりも産駒の本格化が遅いぶん、父の仔が息切れしてくる時期に大きく伸びる面があって、決定的ともいえるジャパンCでの差も埋められる可能性が高い。 近年このレースにおける支配力でリボーの一発力(?)を遙かに凌ぐのがロベルトだが、今回ロベルト血脈を持つ唯一の存在が○シルクフェイマス。祖母の父として入っているだけに直系子孫に比べるとインパクトの弱さは否めないが、97年ロベルト系に負けて大魚を逸した父マーベラスサンデーには適した血脈だろう。ヘイルトゥリーズン4×4×5、ノーザンダンサー4×4という整合性の高い父母相似配合でもある。3代目に現れるノーザンダンサー直仔、ヴァイスリーガルとニジンスキーはともにカナダの巨匠E.P.テイラーが送った傑作で、それをこの馬にまとめたのがかつてカナダに学んだ早田光一郎氏。ナリタブライアンを送り、シルクジャスティスとマーベラスサンデーで1、2着を占めた名門早田牧場の名声を偲ぶにはふさわしい配合といえるかもしれない。 ▲ヒシミラクルは来春の天皇賞での奇跡的復活という当初の努力目標を上回るペースで復調しているように見える。それぞれ大きな驚きをもって迎えられたG1勝ちの陰に隠れて忘れられがちだが、昨年の京都大賞典は自ら早目に動いて逃げるタップダンスシチーと一騎打ちを演じての2着。あれは驚異の穴馬から堂々たるチャンピオンへの変貌を告げる転機となったレースで、そのまま順調に運んでいればG1勝ちに驚いていたこと自体が驚かれるような高みに至った可能性もないとはいえない。これは(今にして思えば)未開発の部分を残して種牡馬となった父の能力、母の父に回った際のシャーリーハイツ系の恐るべき底力(例えばダルシャーン)による部分と、そして、アンジュガブリエル(G1サンクルー大賞典連覇)に似たシャーリーハイツ+ボールドラッド(愛)+グレイソヴリンといった母のナスルーラ血脈の組み合わせの妙が大きいと思えるが、それら欧州血脈をまとめる要となっているのが、去る11日に大往生を遂げた偉大なノーザンテーストの存在だろう。 話は戻るが△コスモバルクは父の愛ダービー馬ザグレブがノーザンダンサー+リボーのパターンに収まる。旺盛な競走意欲は母に濃いナスルーラから、頑健さは父系のノーザンダンサーと母がナスルーラの裏で豊富に持つハイペリオン血脈から……と色いろこじつけることはできても、現実のコスモバルクの前にはどれも白々しい。昨年の2歳夏からずっと臨戦態勢にあって、しかも丸1年間求められ続けた後のないギリギリの勝負を、手抜きすることなく戦い続けたのはそれだけで驚異的だ。 リボーにノーザンダンサーといえば、最も純度が高いのはタップダンスシチー。父は米国のリボー直系の柱というべきラインで、母の父はそれこそ混じり気のない生のノーザンダンサー。牝系も米国屈指の名門で、ケンタッキーダービー勝ちの名牝ウィニングカラーズや名馬チーフズクラウンが出る。しかし、レース2日前の到着となった凱旋門賞遠征はそう簡単に拭えないダメージを残すものと思う。しかも、帰ってから帰国検疫1週間、着地検疫が3週間ある。オープン馬だから調教はやれば動くし、実際追い切りを重ねるにつれて良くなってはきたが、全体の雰囲気はピーク時には及ばない。 ここ10年、朝日杯の勝ち馬が出てきたケースは3回あって3回とも勝った。種明かしをするとナリタブライアンとグラスワンダー(2回)なので、な〜んだとなるが、2歳のうちに今の季節の中山で激しい肉弾戦を勝ち抜いてきた実績は本質的なもので、長じてもなお信頼に足るということはいえるかもしれない。どの馬かは成績を調べてみて下さい。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.12.26
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