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史上初めて春のクラシック完全制覇を達成したサンデーサイレンスにとって、残されたJRAのG1はNHKマイルCと秋華賞とジャパンCダート、そしてこの安田記念のわずかに4つ。秋華賞とジャパンCダートは早ければこの秋、もしダメでもデビューしていない3世代が恐らく何とかするだろう。難関はNHKマイルCで、今年も出走馬がなかったように、デビューする前からひとまずダービーが最大目標となる、そのクラシック志向が自身の大記録のネックとなっているのは皮肉なことではある。安田記念には初年度産駒が4歳を迎えた96年に2頭が出走し、97年2頭、98年3頭、99年1頭、00年4頭、01年2頭、02年2頭と、毎年平均2頭ずつ出走してきた。中にはスティンガーのように1番人気になったものもいたが、ジェニュインの2着が最良の成績で、他のG1に比べるとその存在感は薄い。しかし、今年は7頭の登録があって、6頭が出走。あの世から安田記念奪取の指令があったわけでもなかろうが、態勢としてはそんな感じだ。今ごろサンデーサイレンスの勢いに乗るといっても乗り遅れのような気がしないでもないけれど……。 ◎はサンデーサイレンスに初めてのスプリントG1をもたらしたビリーヴ。母の半姉レディーズシークレットは82年生まれで45戦25勝、11のG1を制した86年の米古牝馬チャンピオン。負けたレースも多いが、牡馬相手のホイットニーHにも勝っているあたりが“鉄の女”と呼ばれたゆえん。ビリーヴの母グレートクリスティーヌはそんな半姉の絶頂時である86年にダンチヒが種付けされ87年に生まれた。競走成績は2、3歳時に9戦して芝で1勝と至って平凡だが、歴史的名馬・名牝のごく近い親族というのは得てしてそういうもので、時間と世代を少しおいて熱が冷めた(?)ころ、突如第一線に復帰してくるケースが少なくない。レディーズシークレット自身が地味な牝系に忽然と現れた名牝であったように、ポツリ、ポツリと大物を出すファミリーなのかもしれない。母の2頭の祖父ノーザンダンサーとアイスカペードは、ニアークティック×ネイティヴダンサーという同じパターンの配合で、ノーザンダンサーの疑似2×2といえる。しかもこの母は、ペティションやオリンピア、ファイティングフォックスなど周辺部の血脈までインブリードで持っていて、スピードはあるものの散漫になりがちなダンチヒの血をしっかりと構築し直している。ダンチヒ直仔というよりダンチヒそのものに近い血統だったことが、ビリーヴの快足の理由のひとつとはいえるだろう。また、ヘイロー×ロベルトのスティルインラブでもそうだが、こういう“濃い”タイプは歯車がうまく噛み合えば繁殖として絶大なパワーを発揮する。きょうだいがどれも平凡だったことを考えると、マームードやハイペリオンの良さがジワッと生きるサンデーサイレンスとの配合が数少ない“正解”だったのだろう。これまで1600mでは善戦止まりだが、馬のタイプはとてもガチガチのスプリンターとは思えないし、オリエンタルエクスプレス、グラスワンダー、フェアリーキングプローン、ブレイクタイムと、このレースで実績を残してきたダンチヒ血脈の後押しも期待できる。香港で崩れて、そこから高松宮記念勝ちまで立ち直ってきた芯の強さはサンデーサイレンス産駒ならではのもので、立ち直るとひと回り能力の幅を広げるしたたかさもサンデーサイレンス産駒の一流馬に共通して見いだせる。 ○ミレニアムバイオは去年のこのレースでは本命にして内で詰まってガッカリだったが、G1でも力量的に遜色ないことは示した。同じサンデーサイレンス×ダンチヒの配合で、こちらは母が名牝ペブルス(英1000ギニー、エクリプスS、チャンピオンS、BCターフなどG1に4勝)の半妹ということで、欧風の色合いが強い味付け。祖母はコノート×クレペロという重厚なステイヤー血脈で構成されていて、400Kそこそこの小柄な馬体で牡馬を蹴散らしたペブルスの強靱さもそこに由来する。立ち直りの早いサンデーサイレンス産駒だけに、ひと叩きされて一気にG1というステップも障害とはならないだろう。 ▲アグネスデジタルも同様の臨戦過程。見た感じはまだ重いし、クラフティプロスペクターの仔なら、もうピークは過ぎている可能性もなくはない。NHKマイルCでは活躍するミスタープロスペクター系が、同じコースなのに、このレースでは案外という結果も出ている。ただ、これまでの“早熟・快足・G3”というクラフティプロスペクターの規格をいい意味で大きく外れた存在だし、ミスタープロスペクターの淡泊さを感じさせないのも事実。ドバイでボロボロになった後、すぐに香港で復活した芯の強さも忘れてはならない。そのあたりは血統表の下半分を占めるセクレタリアト、アレッジド、ワイルドリスクというステイヤー血脈によるものだろう。そして、これも母の父経由でダンチヒの血を受けている点は見逃せないところ。 約1年にわたって東京開催がなかった鬱憤を、5月に入って猛烈な勢いで晴らしているのがトニービン産駒。その象徴的な存在が前走で1年ぶりに勝った△テレグノシスだろう。トニービンの東京での強さはいまさら説明不要だが、このレースでも94年にノースフライトが強力外国馬を一蹴し、翌年はサクラチトセオーがハナ差2着に入っている。トニービン×ノーザンテーストの配合はサクラチトセオー以外にもエアグルーヴがいて、切れ味とそれを下支えする忍耐力を備えていることが分かる。スパッと伸びて、もうひと踏ん張りが利くんですな。名門ラフショッド〜ギャンベッタ系で、セクレタリアトも入っているだけに1600m専門とも思えず、ここを勝てば秋の天皇賞の有力候補にも浮上する。 ブライアンズタイム産駒はときにサンデーサイレンスさえ凌ぐ大パワーを誇るエンジンを積んでいるせいか、それが暖まるまでに時間がかかる。そして、暖まった状態になってからは少々の無理も気にせず強大な力を発揮する。あのナリタブライアンですら取りこぼしが少なくなかったのは、そういう特性のせいだろう。生ぬるい暖機運転ではダメなので、ダンツフレームは新潟でグワッとひと吹かししてきた。ベストは3200より短く、1600よりも長い距離だろうし、Aコースというのもどうもピンと来ないが、消耗戦になれば底力で追い込んできそう。 ローエングリンの父はジャパンCで社台の名牝ファビラスラフインを押さえてG1勝ち。母はヴェルメーユ賞勝ち馬で、そのレースでは社台の名牝ダンスパートナーが内に閉じこめられて6着に終わった。それぞれ微妙に服色は違うが、その息子が社台の勝負服で走るのも面白いところ。レースぶりからは、まだG1では全幅の信頼を置けないように思うし、キスミーテンダーを物差しにすると、テレグノシスの方が大分強いという計算も成り立つ。 大穴ならミデオンビット。アリダー牝馬にアジュディケーティングの配合はいかにもダート向きだが、ダンチヒ、アリダー、バックパサーと分解してみると、ブリーダーズCマイルのルアーや、大種牡馬デインヒルを彷彿とさせるのが不思議。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.6.6
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