2003秋華賞


不器用な豪脚の思い出

 牝馬限定の大レースは概して着差が開きにくい。着差がつねにそのまま能力差に換算できるとは限らないが、強い馬と弱い馬、クラシック馬と条件戦を勝ち切れないような馬が1秒と開かずに入線するケースが少なくない。そのへんが俗にいう“紛れ”であり、たとえばもっとも紛れの少ないジャパンCや日本ダービーだと、勝ち馬からしんがりまで気持ち良いくらいスッキリと能力差に応じて大きな差がつく。分かりやすい例が98年のエアグルーヴで、エリザベス女王杯で3着に敗れたときが1着メジロドーベル、そこから1 1/4馬身差でランフォザドリーム、さらに3/4馬身でエアグルーヴ、4着のナギサでも勝ち馬から0秒5の差に過ぎなかった。しかし、その後エアグルーヴはご存じの通りジャパンC2着。エリザベス女王杯でエアグルーヴの前後にいた牝馬がジャパンCに出ていたとして、同じように前後にいられたかというと、それはおそらく無理だったろう。同じような例はヒシアマゾンやファビラスラフインのケースにも見い出せる。彼女らの能力の最大値を考えれば、同じ勝つのでもこのレースではもっとち切って勝っていて不思議なかった。もちろんデキや展開といったデリケートな要素を無視しての仮定だが、牝馬限定戦特有の着差の圧縮された決着という形があるようで、強い馬が70〜80%の力で走ったり、そうでもない馬が100%の力を出したり、結果として上下差のない着差にひしめく場合が多いようだ。それがちょっとした拍子で狂ってしまうと、エリザベス女王杯時代から少なくない大波乱に繋がるのではないか。

 そういうわけで、今回も少し無理のある穴狙いになった。ヤマニンスフィアーは昨年のオークス馬スマイルトゥモローを出したホワイトマズル産駒。ホワイトマズルはL.ガウチ氏の勝負服でオーナーの地元イタリアダービーを勝ったあと、吉田照哉氏に買われ“キングジョージ”でオペラハウスの2着し、秋には凱旋門賞でも2着。翌年は武豊騎手が手綱をとった“キングジョージ”でキングズシアターの2着となり、主戦ジョン・リードで秋初戦のドーヴィル大賞典を勝ち、凱旋門賞では再び武豊を鞍上に据え、大外からよく追い込んだが勝ったカーネギーから約1馬身の6着に終わった。敗れたとはいえ、その凱旋門賞がホワイトマズルの本質をよく表していたと思う。その日ロンシャンの武騎手は早いレースから外を回る競馬が多く、これはホワイトマズルのための予行演習だった(推測)。加速減速を器用にできないホワイトマズルは、大外に持ち出してアクセルベタ踏みで追い込むのがその大排気量エンジンの持ち味を最大限に生かす方法だという日本の天才の考えだったと思う。結果としてちょっと届かなかったが……。産駒も短距離か長距離かダートか、いずれにしても一流に育つものは力任せのひと太刀で決着を付けるのを得意とする。このレースではホワイトマズルの父ダンシングブレーヴの産駒としてテイエムオーシャンが勝ち、エリモシックとキョウエイマーチが2着。リファール系ということではモガミ産駒がエリザベス女王杯時代のメジロラモーヌと大波乱のブゼンキャンドルの例がある。いずれも前で押し切るか、後方から追い込むかの力任せの大振りを成功させた。牝系は素質はG1級だったヤマニングローバルや名障害馬ヤマニンアピールが出るロウワーライツ系で、そこにサンデーサイレンスが入り、G1でも格が見劣ることはない。サーゲイロード〜ターントゥの軽いインブリードを持つあたりも大レース向き。サンデーサイレンスの秋華賞初勝利は母の父としてだったという結果があるかもしれない。

 レンドフェリーチェの父コジーンは軽い切れ味が持ち味。グレイソヴリン系らしい日本の競馬への適性は“軽い”と表現するのが適当だが、自身ブリーダーズCマイルに勝ち、産駒のティッカネンもブリーダーズCターフに勝っているのだから、その切れ味は国際レベル。また、アルファベットスープは、陰りの見えた当時とはいえ王者シガーを下してブリーダーズCクラシックに勝っている。底力でも国際G1級だ。ティッカネンはパラダイスクリーク、アルファベットスープがシガーというそれぞれ大本命を負かして、ブリーダーズCのタイトルを得ているあたりにも、グレイソヴリン系らしい大物喰いの面目躍如たるものがある。レンドフェリーチェは体形的には母系のロベルトが出ているが、ロベルト系もまた大物喰いは伝統的に得意であり、母の父ボブバックもトータルの実績としては準A級ながら、4歳時のプリンスオブウェールズSでは同世代のクラシック馬、ペブルスとコマンチランをあと1Fで外から豪快に差し切り、単勝34倍の大穴をあけた。曾祖母の半兄に英セントレジャーのライトキャヴァルリー、半姉に英1000ギニーのフェアリーフットステップス、5代母の産駒に英ダービー、2000ギニーのロイヤルパレスが出るジム・ジョエル氏の格調高い英国牝系を米国血脈で近代化した配合にはG1級の底力が感じられるし、うまく力をためて最後に切れ味を爆発させるようなレースができる(?)ようなら大勢逆転まであり得る。

 ベストアルバムはメジロライアン産駒の久々の大物。この世代からはダートで活躍するタマモリッチ、セントライト記念2着のニシノシンフォニーも出ていて、なかなかの豊作だ。父の産駒では初年度世代のメジロドーベルがこのレースに勝っていて、母系にニジンスキーが入るのはドーベルと同期の天皇賞馬メジロブライトに似る。世代の水準が高ければ、個々のピークも高くなるということもいえるかもしれない。牝系はエルグランセニョールやザール、最近でも米国芝でドノンが活躍するベストインショー系で、これはいつなんどき大物が現れても驚けない名門。イトコには菊花賞2着のトーホウシデンがいる。そういったこともあって母自身もつねに重賞で人気を集める存在で、実際、勝つまではいかなかったが、素質としては間違いなく重賞級のものがあった。血統表の大部分を占めるステイヤーの血が、秋を迎えてうまく噛み合うとするならば、今回は最大のチャンス。

 オースミハルカは春はチューリップ賞でスティルインラブ、夏にはクイーンSでファインモーションを負かした。と思っていると先週は同じフサイチコンコルド産駒のバランスオブゲームが圧倒的人気のファインモーションを負かした(というのかどうかは微妙だが)。大本命ダンスインザダークを差し切ってダービーに勝った父らしさというのは、こういう形で伝わっているのだ。母がリンドシェーバー×プロントで、これがどうもG1レベルでの底力がなさそうにも感じられるのだが、リンドシェーバーは特に牝馬で優れた働きをする面があるし、アリダー系全般にブルードメアサイアーとして、より優れた活躍を示すものが多い。プロントもオークス馬ノアノハコブネの母の父として名を残した。名門フロリースカップ系の代表としても頑張ってほしいものだ。

 どうも何となくまたサンデーサイレンスを敵に回してしまった。今年はずっとこの調子で苦汁を舐めさせられている。常識的にはスティルインラブが変わってくるだろうし、チューニーの大駆けも怖い。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.10.19
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