2003皐月賞


SSの牙城を突き崩すリボーの一撃

 サンデーサイレンスが凄いということを今さらわざわざいう必要もないのだが、世を去ってから後の勢いというのはまさに手が付けられない。前年および前々年同時期との比較では……


出走
頭数
勝馬
頭数
勝鞍 収得賞金
(千円)
0117946571,244,809
0220647541,460,641
0322269811,873,483

 と、例年でも異常と思えるハイペースなのに、今年はそれを遙かに上回る勢いで勝ち星を積み上げている(3月末までJRAのみ対象)。しかも、フェブラリーS、高松宮記念、桜花賞とここまでのJRAでのG1を独占し、質の面でも未曾有のハイレベル。今回もスズカドリームの回避があったのに、直仔4頭に加え、父母両系からの孫も含めると計6頭が出走。初年度産駒のジェニュインとタヤスツヨシが1、2着を占めた95年以来、ただでさえサンデーサイレンスが強いこのレース、逆らわないのが無難ではあると思う。ただ、このように順風満帆にことが運んでいるときにこそ思わぬ事態が起きるもの。特に成長過程で争うクラシックでは、表面的な勢いに惑わされて見えなくなっていることに注意を払っておく必要がある。そこで、サンデーサイレンス軍団御一行様をひとまず横に置いといて考えてみる。少々強引と思えるが、サンデーサイレンス産駒で1番人気に応えて勝ったものは、過去アグネスタキオン1頭しかいないのも事実なのだ。

 コスモインペリアルは昨年暮れに中国に渡ったタイトスポットの産駒。タイトスポットは3歳夏から4歳にかけて8連勝を飾り、8連勝目となったアーリントンミリオンは4着までがアタマ、クビ、クビという大接戦で、その勝負強さはひと際光ったが、それが生涯のピークだったか、続くBCマイルでは9着と大敗した。芝では通算12戦10勝で、当時のアメリカは芝のレベルが今より遙かに高かったので堂々たる成績だが、アメリカの芝馬って、やっぱり種牡馬としては今イチなのか、これまでに送り出した重賞勝ち馬はブラボーグリーンただ1頭。それでも、これにはリボー直系が日本でコンスタントな成績を収めにくいという土壌があって、情状酌量の余地は残されている。リボー直系のG1(級)勝ちはバンブービギンの菊花賞が最後。あとはバンブーアトラスのダービー、ケイキロクのオークス、リードスワローのエリザベス女王杯、グーッと遡ってイシノアラシの有馬記念、イシノヒカルの菊花賞、有馬記念までいくと70年代初頭だ。これで全部。でも、途中では、メジロファントムとか、メイショウモトナリとか、ごく最近では昨年の有馬記念2着タップダンスシチーとか、惜しいのは出ている。無敵のナリタブライアンに京都新聞杯で土を付けたスターマンもリボー系だ。アレッジドやプレザントコロニーといった大御所が退いてなお、欧米では距離の長短、牡牝の別を問わずコンスタントにG1勝ち馬が出るし、南半球でもポツポツと出ている。なぜ、日本では少ないかというと、いろいろあるだろうが、高速馬場でゆったり進んで上がりをサーッと11秒台〜11秒台〜11秒台でまとめるような競馬では底力の振り絞りようがないということもいえると思う。そういう競馬はサンデーサイレンスにかなうものがいない。で、出番はG1の消耗戦ということになってくるわけ。荒れている割に時計が遅くならない今の中山の馬場状態はどう捉えるべきか判断に苦しむ部分もあるが、タイトスポットが現役時代に速い時計の決着を得意としていたことを考えると、硬い荒れ馬場での高速戦というのはピッタリかもと思える。父はリボー系×ノーザンダンサー系×ネヴァーベンド系という配合で、母も同じ配合の欧州バージョンともいうべき血統構成。リボーのインブリードはタニノギムレット、ダンツフレームと昨年2頭のG1勝ち馬を出していて静かなブームでもある。強力SS軍団にひと泡吹かせられるパンチ力を感じさせる血統となるとこの馬。

 エイシンチャンプはミシエロからコンキスタドールシエロ〜ミスタープロスペクターと遡る父系、母の父がマニラ、祖母がマークオブエスティームを筆頭に子孫に名馬が続々と出るホームスパン。血統から受けるイメージは、ち切って勝つか大敗かという豪傑タイプと思うのだが、実際には勝っても僅差で負けても大きく負けない。力を小出しにする術を知っているぶん、使い込まれてもへこたれないという面があるのかもしれない。でも、逆にパワーをフル回転させればどれだけ強いのかという、実はこっちの期待の方が大きい。熾烈な2着争いのその5馬身くらい前でゴールしていても驚かないし、それはそれで痛快。

 サンデーサイレンス系では、ここ一番となるとサクラプレジデントが強そう。日本の正しいお坊ちゃんというべき正統派の配合で隙がない(レースぶりはそうでもないが)。“サクラ”の根幹牝系スワンズウッドグローヴからはダービーのサクラチヨノオー、朝日杯のサクラホクトオーが出ていて、最近ではレジェンドハンターとかフジノテンビーとか地方所属馬の活躍が目に付いたが、去年は本家筋のサクラヴィクトリアが関東オークス勝ちのあと、秋はファインモーションの高い壁を越えられなかったものの、ローズS、秋華賞と2着して名門の威信を保った。在来の名門牝系にサンデーサイレンス×マルゼンスキーを重ねるパターンはスペシャルウィークやロイヤルタッチと同じで、ということは、ここでもしダメでもダービーがあるさというケースも考えられる。

 ザッツザプレンティはダンスインザダークの仔で、母がバブルガムフェローの半姉、母の父はサイレンススズカと同じだから、ある意味サンデーサイレンス直仔以上にサンデーサイレンスらしさを集めている。この父の仔なので、もう少し時間がたって、距離も延びてというイメージで捉えられがちだが、ノーザンダンサー4×4にレイズアネイティヴ4×5も持つ配合は最先端ともいえる近代的なもので、実際には2000mがベストかもしれないと思う。クラシックではここが最大のチャンスかと。ただ、ダンスインザダークも、バブルガムフェローも、サイレンススズカもなぜかこのレースには縁がなかったなあ。

 スズノマーチは愛ダービー馬シャリーフダンサーと同じ牝系。マクトゥーム家の長兄マクトゥーム殿下の服色で走ったシャリーフダンサーは、鳴り物入りで種牡馬となった割に地味な実績だったが、モハメド殿下の活躍馬コロラドダンサーを送り、コロラドダンサーは20世紀最後の名馬ドバイミレニアムを生んだ。ドバイミレニアムは祖母がフォールアスペンで、父はシーキングザゴールド(ミスタープロスペクター×バックパサー)。ということはフォールアスペン×ウッドマンのティンバーカントリー産駒であるこの馬は、ドバイミレニアムと共通する要素が非常に多い。そう「競馬四季報」の特集に書いたら、編集担当の山下女史に「あはは、面白い。でも、スズノマーチ=ドバイミレニアムといわれても全然ピンときません」といわれてしまった。確かに書いた本人でもピンとこないが、実績を重ねればそのうちなるほどと思えるかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.04.18
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