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この10年、活躍している馬はサンデーサイレンス×輸入牝馬というパターンばかりのような気がする。良血牝馬の輸入によって血統レベルの底上げがあったともいわれる。でも、本当に輸入モノばかりで今の日本の競馬が世界地図の一隅を占めるまでになったのだろうか。古くから日本に根を下ろした牝系から出た名馬がそれほど少ないということはないもんな。そう思いついて夜を徹して作ったのが下のグラフ。トニービンやリヴリアがデビューした1990年生世代以降のデータを今年3月末までとった。91年生まれからブライアンズタイム、92年生まれからサンデーサイレンスが加わり、マル外が急増してきたのもそのころ。日本の競馬が曲がり角を回って、在来の血統がこれまでにない大きな試練を受けるようになった時期だ。しかも、過去10年のクラシックがすっぽり収まるレンジ。表の項目の「本馬」は自身が輸入馬で、早い話がマル外。「母」は母が輸入馬、「5代母以前」は輸入された牝祖が5代以前ということである。なお、数字は勝った重賞の数ではなく、その馬が勝ったGの最高をとっているので、G1を5勝しようが、1コだけ勝とうが、G1にもG2にもG3にも勝っていようが、表記は一律「G1」となる。
マル外や母が輸入馬というのは当然のことながら多い。しかし、「5代母以前」のグループが、数の上では健闘どころか最大勢力を形成しているのにちょっと驚く。もちろん、5代も経ていれば子孫の絶対数が多いし、それらも輸入種牡馬の力を取り込むことによって生き延びてきたわけではあるが、内国産牝馬に輸入種牡馬をかけるという伝統的なやり方で、最新輸入血統相手に互角以上の戦いができるということはこれで明らかになった。この重賞勝ち馬の合計を、祖母以降の“新しい世代”と、曾祖母以前の“古い世代”に分けると、新しい世代が51%で古い世代が49%と拮抗している。マル外に代表される新しい世代は高い確率で早い時期に華々しく勝ち上がって印象が派手だが、古い世代も重賞級にまで抜け出す資質を持ったものは何ら最新血統に見劣らないわけだ。 この区分を桜花賞に当てはめてみよう。過去10年、輸入牝馬の直仔は2頭(ベガ、ファレノプシス)、祖母1頭(チアズグレイス)、4代母2頭(ワンダーパヒューム、プリモディーネ)、5代以前5頭(オグリローマン、ファイトガリバー、キョウエイマーチ、テイエムオーシャン、アローキャリー)。一般的比率を遙かに超えて、古い世代の占有率が高い。今年もそうなるとは限らないが、ここまできたらその流れに乗ってみようというわけで、◎は「5代母以前」組から選んでみる。書いてて気付いたんですが(数行前あたり)、この10年でシュリリー系が2勝してますね。これで決まった、ヤマカツリリーだ。オグリキャップの半妹オグリローマンと5代母が同じキョウエイマーチはシュリリー系でも“メジャー系”のクインナルビー(53年秋の天皇賞)の分枝だが、こちらは系統としては地味。しかし、母はエリザベス女王杯に勝ち、祖母は東京3歳優駿牝馬の勝ち馬。地味な中にひときわ輝く存在ではあった。母は86年生まれのロジータ(南関東三冠)、87年生まれのエイシンサニー(オークス)に続くミルジョージ全盛期の産駒で、これだけのクラスは繁殖入りして8年目の仔となる本馬が初めてだが、ロジータ系でもレギュラーメンバー、カネツフルーヴとホームランを連発するようになったのは最近のこと。たとえばダイナカールでもエアグルーヴは7年目の産駒で、エアグルーヴはすぐに一流馬を生んだが、一般的にはG1級牝馬が良い母となるのには時間がかかるケースが少なくない。ちなみに、昨年のダービー馬を生んだタニノクリスタルは母の同期で、ローズS、エリザベス女王杯で、その後塵を拝している。父は2歳でブリーダーズCジュヴェナイルに勝ち、3歳でプリークネスSも制した。産駒アドマイヤドンの朝日杯、ダービーグランプリ勝ちはティンバーカントリーの能力の幅の広さをよく示しているが、ダービーGPのムガムチュウ、中山グランドジャンプのギルデッドエージといった他の活躍馬を見ると、母系からナスルーラが入っていること(入らない方が珍しいが)、G1と付けば内容を問わず強いという特性もある。ともあれ、この馬の場合は血統中に父の母フォールアスペン、母リンデンリリーに加え、イントリーギング、マタティナといった多彩な名牝が散りばめられていることがパワーとスピードの源泉となっていると思う。 ○には行きがかり上といっては失礼だが、オカノハーモニー。母はリンデンリリーの全妹となる。この世代からは牡馬にも活躍馬マイジョーカー(母がリンデンリリーの半妹)が出ていて、リンデンリリー血統の活躍はまさに堰を切ったよう。父ロドリゴデトリアーノの唯一のG1勝ち産駒はエリモエクセルで、これはリヴァーマン牝馬との配合だった。同じネヴァーベンド系ミルジョージ牝馬との配合なら、英2000ギニー圧勝の父の瞬発力が生きてくる可能性も十分だろう。成績に目をつむって、ヤマカツリリーと2頭、血統だけで選べといわれれば、むしろこちらをとるかもしれない。 リンデンリリーの世代の桜花賞馬はシスタートウショウ。オークスは桜花賞で落鉄に泣いたイソノルーブルが巻き返していて、ほかにもノーザンドライバー、ミルフォードスルー、スカーレットリボンなどいて、今思うと近年で最も華やかな牝馬クラシック世代だった。話がそれたが、▲にはシスタートウショウの姪シーイズトウショウ。母はダンディルート2×3、母の父はソシアルバターフライ3×3という“トウショウ”ブランドの結晶のような配合で、トウショウボーイが入っていない替わりに父系がトウショウボーイと並ぶテスコボーイ系の雄サクラユタカオー。“古い世代”の代表であるフロリースカップ系で、しかも出走馬中唯一、血統表の3代目までカナ馬名が埋める。今回のテーマからすると外せない存在だ。 △にレイナワルツ。これは祖母が88年生まれのクラシック世代で、フロリースカップ系にミスタープロスペクター3×3の最先端配合を重ねた。同じトサモアー(桜2着)の分枝、オースミハルカとともに注目。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.04.11
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