2003NHKマイルC


理想郷へのマイルストーン

 先週の天皇賞、サンデーサイレンスの孫によるG1制覇はまた持ち越しとなったが、(ほぼ)同日のケンタッキーダービーはフォーティナイナーの孫が勝った。ニューヨーク産馬として史上初めて、せん馬としては1929年のクライドファンデューセン以来74年ぶりの勝利を収めたファニーサイドは、フォーティナイナー直仔のG2勝ち馬ディストーティッドヒューモアの初年度産駒。フォーティナイナーは直仔からベルモントS勝ち馬(エディターズノート)やトラヴァーズS勝ち馬(コロナードズクエスト)といった各世代の最強クラスを出しているにもかかわらず、ケンタッキーダービー勝ち馬はまだ出ていなくて——今後もサンデーブレークのように日本から向こうに連れていくか買われていくかでないと実現しないわけだが——孫がひと足先に快挙を達成してしまったことになる。これはフォーティナイナーの父である大種牡馬ミスタープロスペクターのケースに似ている。ミスタープロスペクターも直仔はプリークネスSやベルモントSには勝つのに、ケンタッキーダービーは孫にあたるファピアノやガルチの仔ばかりという状況が長く続き、直仔フサイチペガサスがようやくケンタッキーダービーに勝ったのは、ミスタープロスペクターが世を去った翌年のことだった。こういったエピソードまで共通しているあたり、フォーティナイナーが“サイアー・オブ・サイアー”ミスタープロスペクターの正統の後継者なのは間違いなさそうだ。それほどの大物も96年に日本に輸入された当初は今いちパッとしなかったが、ここにきてビワシンセイキ、サンデーブレークなどG1で勝ち負けを争えるものが現れてきた。これは年月を経て、配合のセオリー、育成、調教のノウハウが手の内に入ったということで、従来なら「日本に合わない」ということで片づけられてきたものから、ちゃんとその素質を引き出せるだけの力が日本の競馬に備わってきたともいえるだろう。

 フォーティナイナーにとって輸入後初めてのG1勝ち馬ユートピアは、そのひとつの到達点となった。全日本2歳優駿は仏・英G12勝のアグネスワールド、海外、統一、JRAG1計5勝のアグネスデジタル、ジャパンダートダービーのトーシンブリザードらの異能のスーパースターを輩出してG1に昇格したが、創設間もないころからダービー馬ゴールデンウェーブ、同じくダイゴホマレ、天皇賞、有馬記念のオンスロート、天皇賞、宝塚記念のヒカルタカイなど、中央に転じて大成功を収めた“卒業生”を送り出している。昨年の「合同フリーハンデ」ではユートピアが芝のトップを押さえて2歳総合チャンピオンとなったが、歴史を振り返ればそう突飛なことでもなかったわけだ。さて、日本におけるフォーティナイナーの配合のセオリーのひとつは母系も北米血脈で固めることだが、ノーザンテースト、デワン(ボールドルーラー直仔)、トムフール、スワップスという配合なら文句のないところ。ノーザンテーストを、似た血脈のデピュティミニスターあたりに置き換えれば、そのままアメリカのG1戦線で戦っていて不思議ないくらい。予定通りドバイへ遠征していればひょっとしてひょっとしたかもしれない。ノーザンテーストも昨年、母の父としてこのレースの記念すべき内国産勝ち馬第1号を送り出したばかりで、フォーティナイナーに不足しがちな柔軟性と辛抱強さを補うには最適な血だといえる。また、このレースはシーキングザパール(シーキングザゴールド)、エルコンドルパサー(キングマンボ)、イーグルカフェ(ガルチ)とミスタープロスペクター後継のビッグネームが名を連ねていて、そこにフォーティナイナーはやはり欠くべからざる存在。

 ヒューマの母ゲイリーグリーシャンは、ピルサドスキーとファインモーションの母ココットの半妹。半妹だが父が同じペティンゴ系のトロイからエラマナムーに替わっただけで、ワインストック家のカラーは失われていないし、父はピルサドスキーと同じポリッシュプレセデント。ダンチヒ系というくくり方をすれば、ファインモーションの父デインヒルも同じで、これら3頭の近親関係を図にすると1辺のごく短い正三角形を描くことになる。ただ、ピルサドスキーは完全な遅咲きだったし、ファインモーションも春は走らなかったから分からないとはいえ、実際に能力を示したのは3歳秋。そう考えると、高い能力の保証はあっても、今の時期から一線級のスピード争いに対応できるかどうかの疑念は残る。疑念は残るが、ニジンスキーやダンシングブレーヴやナシュワンあたりは3歳の今の時期、ちゃんと2000ギニーに勝っている。“通過点”としてここを勝つようなら、大変な存在だとはいえるだろう。

 ウインクリューガーはナシュワン(2000ギニー、ダービー、エクリプスS、“キングジョージ”連破の名馬)と同じ名門ハイクレアから出る。母の父はミニ・ノーザンダンサーともいうべき多芸の名血で、母の父としてロックオブジブラルタルに見るように、欧州血脈と米国血脈の仲介に絶大な手腕を発揮する。この馬の場合は牝系がどっしりとした欧州血統で、母は下級とはいえ15Fと16Fで勝ったステイヤー。父は元祖ボーダーレスの名馬で、昨年の新種牡馬チャンピオン。マイルに軸足を置きつつ、さまざまな発展性が考えられる配合だと思う。

 ミスタープロスペクターとケンタッキーダービーの話に戻ると、エコルプレイスの父グラインドストーンも欠かせないところ。現役時はケンタッキーダービーでスパークしたきりだったし、種牡馬としても軽快さに欠くためかこれまでにG3勝ち馬が1頭出た程度だが、ミスタープロスペクター系でも特に大レースでの大駆けが多いファピアノ〜アンブライドルドの系統。エコルプレイスは母の父もノーザンダンサー×セクレタリアトのダービー馬だから重厚さばかり目に付くが、東京のG1ならこれくらいでちょうどいいかもしれない。軽いスピード争いになると苦しいだろうが、長い直線の消耗戦になれば台頭の余地は十分。

 東京にコースが移ることで、どうも分が悪そうなのがサクラバクシンオー・トリオ。G1クラスのショウナンカンプは1400mまで、1800mでも大丈夫なメジロマイヤーやダートで強いロードバクシンはG3級、シーイズトウショウはマイルG1で頑張ったが牝馬限定の2着まで。ということで、今までのところ、能力の高さ×幅の積に一定のリミットが認められる。エイシンツルギザンは祖母ヴィデオジェニックが米G12勝の名牝で、母の父もファピアノだが、ファピアノの一発の魅力は父系直系でこそという面もある。サクラタイリンも祖母が米G12勝のビフォアドーンで、母の父は幻の凱旋門賞連覇で知られるサガス。サガスは貴重なリュティエ直仔で、この系統が細々と生き延びる日本で、父のサクラバクシンオーもまた世界的に見れば細々と生き延びるテスコボーイ直系。5代アウトだが、雰囲気として配合が合うのはこれと思う。ニシノシタンは最も日本的で、ショウナンカンプ同様ネヴァービートの近交を持つ。本格化はもう少しあとかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.5.9
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