2003高松宮記念


秘伝のスプリント血脈

 国際レース化3年目にして初めて海外からの遠征をみた。といっても、予定していたドバイ遠征をやめたところに、インターナショナルクラシフィケーションのレーティング「115」以上の超一流馬にはJRAが馬の輸送費と関係者の滞在費を負担するという制度が昨秋からできたことで、たまたま渡りに船というべき状況になったため。また、世界的にスプリントのカテゴリーの一流馬となると超長距離(E:14F以上)の次に資源が少なく、「115」以上の国際G1クラスとなると、マイルから2400mの領域のようにつねに一定数以上の一流馬が確保できるわけではないので、安定供給が難しい。しかも、Takamatsunomiya Kinen という Disturbingthepeace と同じくらい読みにくくて覚えにくい名前で、果たして海外の競馬関係者に定着するのだろうかという心配も残る。ジャパンC、香港C、ドバイワールドC……。成功している国際レースの名前はどれもシンプルだ。ジャパンCや安田記念のようにコンスタントに外国調教馬が出走するようになれば、いずれ傾向もつかめるだろうし、ダートのドバイゴールデンシャヒーンか芝の高松宮記念かというふうに共存してくれるようになればいいとは思うが、たまたま1回だけというのでは、馬券を買う方としては困ったもんだ。

 といって、出てくる以上、困ってばかりもいられない。インターナショナルクラシフィケーションにおけるディスタービングザピースエコーエディ、米国馬2頭の昨年のレーティングは「117」。日本のスプリンターの歴代上位をざっと見ていくと、02年ショウナンカンプが116、ビリーヴ113はセックスアローワンスを入れると117で、01年トロットスター117、00年のアグネスワールド119は英G1ジュライCのものなので、国内最高はダイタクヤマト116。99年はアグネスワールドとブラックホークが並んで117、98年マイネルラヴ=3歳=も117だった。こうして見ると机上の計算では日本のチャンピオンスプリンターと同じ能力を持っていることになる。そして次に、国際レーティングを読む場合の実戦的な机上の計算を重ねる必要がある。“日本馬割引”の補正だ。インターナショナルクラシフィケーションの昨今の流れを見ていると、もとが英仏のフリーハンデだけに、日本馬の国際的な活躍は認めつつ、それでも本場で実績を出さねばダメだよという(恐らく英仏の)根本的な欧米>アジアの序列意識が底流にある。その日本馬過小評価のぶんがスプリントなら大まかに見積もって2ポイント=1馬身程度ということで、ショウナンカンプから1/2〜1馬身後ろで入線するであろうということに、計算上はなる。出てきては凡走を繰り返したスプリンターズSの米国馬に比べれば、地力そのものが高いし、走り慣れた左回り1マイル馬場でもあって、そう無様なレースはしないと思う。ただ、さらに余計なことをもうひとつ加えるなら、スプリンターというのは地域密着型というか、中長距離馬に比べて世界を股にかけて活躍する馬が少ない。股にかけるほどレースがないのも事実だが、国外で成功するタイプにしても、日本馬アグネスワールドにとってのイギリスとか、アメリカ馬コーラーワンのドバイ、豪州馬ファルヴェロンの香港といったように、自国以上に適した競馬風土がたまたまあったというケースが多く、どこへ行ってもいつでも強いというのは少ない。そう考えると、力に敬意は表しつつ、積極的に狙えない、配当がつけば買ってもいいかなといったところ。

 ショウナンカンプがここを勝てば、スプリンターズS連覇のサクラバクシンオーに並ぶ。高松宮記念→スプリンターズSというのはフラワーパークとトロットスターが達成しているが、消長の激しいスプリント界で、同一G1連覇が困難なのは、ブリーダーズCスプリントを連覇した馬がいないのを見ても分かる(ブリーダーズCはほかのレースでも難しいが)。しかし、そこはテスコボーイ以来30余年を日本で生き抜いてきた父系の力と、もとがステイヤー牝系の息の長さで乗り越えられると思う。凄くラフな結論の出し方で申し訳ありませんと思うが、スプリンターの血統というのは、あんまり計算や推論が成り立たないケースが多いんですよ。

 にはリキアイタイカン。去年のスティンガーのような直線一気の大勢逆転(未遂に終わったが)の力業を望むとすればこれになる。父は現役時代は7〜9Fを中心に活躍したマイラーで、産駒の傾向もそれに準ずるが、88年のブリーダーズCスプリントでは最後方に近い位置から直線強襲してガルチの21/4馬身差3着に食い込んだ。産駒のスターリングローズもどちらかといえばマイラーだが、実際にJBCスプリントに勝っていて、スプリンター種牡馬としての資質も目立たないながら十分に備えていることは明らかだ。母の父のニジンスキーもスプリントのイメージからは遠いが、直仔のダンシングスプリーは、89年のブリーダーズCスプリントでセーフリーケプトの逃げ切りと見えたところを強烈な末脚でゴールでクビ差捉えている。トムフール〜ミーナウの近交もあって、大レース向きともいえる。

 アグネスソニックもごく大まかにいえばミスタープロスペクター系×ノーザンダンサー系でリキアイタイカンと同じ世界的主流のパターン。こちらはここ一番での長打力でミスタープロスペクター系随一ともいえるファピアノ〜アンブライドルドの流れ。祖母の父にリボー直系キートゥザミントの名が見えるあたりはG1でこそ完全燃焼できるように思えるし、4代母ヒルブルックからはコンスタントにA級馬が出る。今年のクラシック候補シルクボンバイエも同じヒルブルックの末裔でファミリーの勢いもある。

 ネイティヴハートはコジーンの孫。エイシンバーリン、アドマイヤコジーンとこのレースで2頭の連対馬を出した唯一の種牡馬がコジーンで、勝ち切るまではいかなくても、その軽快なスピードや瞬発力に現れたグレイソヴリンらしいピリッとした味が侮れない系統だ。ノーザンテーストは母の父として96年の勝ち馬フラワーパーク、00年2着のディヴァインライト、02年2着のアドマイヤコジーンを出す隠れ高松宮記念血脈。祖母サンサンは72年の凱旋門賞馬でもあり、オープン特別が上限というわけでもないだろう。

 サニングデールはこのコースで3戦3勝。一流に育つウォーニングの産駒はスプリンターにしては意外に晩成で奥の深いものが多く、長じて勢いに乗るとG1も突破する。昨秋のスプリンターズSがその時かと思ったのだが、まだ時期尚早だったみたい。今回もちょっとピンと来ない。このレースはもっと苦労を重ねた馬でないと勝てないという雰囲気でいっているだけのことだが、ダルシャーン×ブラッシンググルームという配合の母なら、秋にはもっと強くなるだろうとも思う。

 ゴールデンロドリゴは母がダービー卿CT勝ち(当時1200m)の快足。地味な牝系ではあるが、トウショウボーイ×パーソロン×チャイナロックという伝統的和風配合の良さはそれを補って余りある。父は貴重なエルグランセニョール直系の末脚自慢。切れ味ではひけを取らない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.3.28
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