2003菊花賞


全速前進する疑似サッカーボーイ血統

 セントライトは皐月賞(の前身の横浜農林省賞典四歳呼馬1850m)が3馬身差で、日本ダービーが8馬身差。シンザンは3/4馬身、1 1/4馬身。ミスターシービーは1/2馬身、1 3/4馬身。シンボリルドルフは1 1/4馬身、1 3/4馬身。ナリタブライアンは3 1/2馬身、5馬身。それらの先輩三冠馬に比べるとネオユニヴァースの皐月賞のアタマ、日本ダービーの1/2馬身という1馬身に満たない着差は決して大きくない。これは過去の三冠馬が全体のレベルの高くないところでのずば抜けた存在として生まれていたのと、今回は少し状況が違うということを示している。この世代のレベルが低くないことはネオユニヴァースが自ら宝塚記念で差のない競馬をして見せたことや、札幌記念でサクラプレジデントがエアエミネムを押さえていることでも明らか。そのようにハイレベルで拮抗している以上、過去の諸先輩のように悠々と三冠達成というわけにはいかないと思う。

 ネオユニヴァースは調教でも実戦でも、ゴールしても耳を伏せたままで、これはサンデーサイレンスの一流馬には珍しい。大抵はゴールするとヒョイと耳を前に向けて力を抜いてしまうのが多いんだが……。そのように最後まで気を抜かない性格と、最後まで気を抜かせない騎乗者によって2冠を達成したわけで、その血統も力の絞り甲斐のある欧州仕様の母系。特に母の父クリスの産駒は、たとえば追い比べになって手応えは見劣りしていても、追われるほどに渋太くジワジワと伸びて勝ってしまうというタイプが多く、そういった意味でもデムーロのような欧州型の追える騎手によって初めて100%の力を発揮できるという面がある。遡ればレディパステルやサンプリンセス、フサイチコンコルド、リンカーンらが出る繁栄牝系だが、この分枝はやや停滞気味で、欧州的スタミナの蓄積が過ぎ、スピード面で近代競馬に対応しかねていたという面があった。そこから突如現れたドバイワールドC勝ち馬ストリートクライはミスタープロスペクター系マキアヴェリアンの産駒で、次に現れたのがサンデーサイレンス産駒のネオユニヴァース。重い欧州血脈に米国血脈が起爆剤の役割を果たしたわけだ。ただちょっと、クリスがねえ。クリスという種牡馬は牝馬にはマイラーからステイヤーまで幅広く一流馬を出す割に、牡馬には専門的マイラーや2000mだけで強いタイプが多かった。例外はあるが、大体が順応性の幅が狭いというか、なぜか牡馬では融通の利かない面のある血脈なのだ。そのあたり、長距離では良くても3000mの超長距離では足を引っ張る恐れがなきにしもあらず。

 ヒシミラクル、マイネルデスポット、セイウンスカイ、トウカイパレス……。これまで菊花賞で穴をあけた(まで行かなくてもある程度の番狂わせを演じた)タイプに共通するのは、日本的な土着性というか、一種の泥臭さというか、ピカピカの流行血統だけでない部分があった点。マッキーマックスは7年前の菊花賞馬ダンスインザダークの産駒で、母はディクタス×ノーザンテースト。垢抜けた血統ではあるが、牝系は社台グループに現存するなかでは最古の部類に入るクヰックランチ系タカハタの分枝。曾祖母の父ガーサントまでは社台の根幹種牡馬ばかりだが、さらに遡るとライジングフレームやセフトといった日本血統史に重要な位置を占める名前が現れる。ディクタス×ノーザンテーストのいわゆる“サッカーボーイ血統”で、サッカーボーイ産駒が菊花賞に2勝している事実は大きな追い風になるし、サッカーボーイ血統とサンデーサイレンスとの相性の良さはステイゴールドによって、子のダンスインザダークとの相性はツルマルボーイと来年の桜花賞候補ツルマルシスターによって証明されている。トゥナンテやイングランディーレといったこの系統から出る一流馬には晩成型の面があるので、本格化は今少し先かとも思うが、サンデーサイレンス系だけにここで一気に一線級撃破という急上昇も期待できる。

 には同じダンスインザダーク産駒のザッツザプレンティ。おそらくステイヤーなんやろけどステイヤーといい切ってしまっていいものかどうか。というのも、その血統がサンデーサイレンスの代表産駒の多重構造となっている点で、まず、父がダンスインザダーク。これは見れば分かる。祖母とサンデーサイレンスの組み合わせでバブルガムフェロー。サンデーサイレンスとミスワキの組み合わせではサイレンススズカ。……と、どうも同じサンデーサイレンス産駒でも、それぞれ遠く離れた個性の持ち主を組み合わせていて、それでいてニジンスキーとリファール、ニジンスキーとミスタープロスペクターといったニックスを備え、さらにレイズアネイティヴの近交は爆発力を感じさせるし、キートゥザミント、バックパサーといった大レース向きアイテムも持っている。上等な素材が高い技巧で仕上げられているのは分かるのだが、それがどういった個性に繋がるのか、いまだによく分からない。見た目はニジンスキー風なので、三冠を阻止したのは最後の英三冠馬の血だったというケースが考えられるけど、誰もがそのように考えるかとなると、それはまた疑問。謎の多い馬だ。

 チャクラはドイツの国際派名馬プラティニ、パオリニ兄弟の甥にあたる。マンハッタンカフェほどドイツ色の濃い牝系ではないが、適度に欧米流行血脈を取り入れた配合なので、重過ぎる恐れがない。父は8年前の勝ち馬で、ブラッシンググルーム血脈を内包しているだけに、母の父カーリアンとの親和性は高いし、瞬発力も備えたステイヤーと見ることができる。京都新聞杯2着は父と同じであって(レース名だけのことだが)、初重賞が菊花賞となれば、これも父と同じ。なお、この馬かダンスインザダーク産駒が勝てば、シンザン〜ミホシンザン以来の菊花賞父子制覇の快挙となる。

 ゼンノロブロイの前走の強さはダービー時の力関係を逆転していると思わせるに十分なもの。ただ、母は6Fで3勝、7Fで3勝、勝った最長距離が7.5F。マイニング×クレヴァートリックというその血統から推測できる通りのスプリンターだった。8.5FのG2で2着もあるが、最大のタイトルであるG1バレリーナHはやはり7F。短距離でズバッと差す脚が武器であり、いかにサンデーサイレンスが母系からいいところだけを引き出す神通力をもっているとしても、そこまでの荒技は難しいのではないか。サイレンススズカの母がミスワキ産駒のスプリンターで——ミスワキとマイニングはミスタープロスペクター×バックパサーの似た配合——サイレンススズカは2000mがベストだった。

 サクラプレジデントはスペシャルウィークと同じサンデーサイレンス×マルゼンスキーで、この配合にはダンスインザダークの年に人気を落としながら2着に食い込んだロイヤルタッチもいる。名門スワンズウッドグローヴ系でステイヤー・セダンの血も入っていて、伯父のサクラホクトオーは89年にとんでもない大外から勝ったバンブービギンに0秒4差の5着まで追い込んでいる。武豊騎手は前走で、一度脚を使った後どこまで我慢できるか測る乗り方をしたとも取れ、瞬発力を計算通りに発揮できれば怖い一頭になる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.10.26
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