2003天皇賞・春


こっそりと越える2マイルの坂

 モンテファスト=ミサキネバアーで決まった84年、あるいはクシロキング=メジロトーマスの86年、もう少し古いひとだとカシュウチカラ(79年)以来ちゃいまっかともいう。何がかというとこのレースのレベルの話。スプリントのG1ならこのくらいの水準でも特に咎められることもないのだが、春の天皇賞は歴史や伝統その他いろいろ背負っているものが多いので、看板になる強豪がいないと薄っぺらに見られがちだ。でも、華やかだったこれまでの10年も、1頭ないし3頭のチャンピオンがいて頂点は高いものの、全体の水準としてはそれほどでもなかった。それはそれぞれ7、8着あたりの馬を抜き出してジャパンCや有馬記念と比較してみれば明らかだ。菊花賞を含めて重賞が年間5つしかない3000m超級の特殊性を考えれば、いつもチャンピオン勢揃いの豪華版を望む方が無理というものではないだろうか。むしろ、むやみに強力なのが混じってこないぶん、専門的ステイヤー諸君がのびのびと力を発揮できる可能性は広がったかもしれない。

 去年の菊花賞で本命にして今回も本命の予定だったバンブーユベントスが故障、戦線離脱。当初の作戦は変更を余儀なくされたが、当然、代案のひとつやふたつは用意してある。長距離戦には長期的展望が必要なのである。そこで、菊花賞では本命にする予定だったのに出られなかったマイネルプレーリーにする。何はともあれ、ここまで進んでこれたことで作戦の半分は成功といっていい。年明けから重賞を3戦。走るたび、ジワジワと力不足が明らかになってきているように映らなくもないが、これも前哨戦の戦い方としては及第点を付けられる。伏兵が目立ってしまっては、その時点でおしまいなのである。今年のメンバーなら、重賞ひとつ勝てばそれだけで目立ってしまう。父は3歳秋から重賞を派手に勝ちまくってこのレースで初G1を得たが、それとは違うやり方、目立たずにきて菊花賞をかすめ取った母の父に似た作戦を選んだようだ。マイネルプレーリーのタマモクロス×グリーングラス×テスコボーイの配合は見方によっては天皇賞馬×天皇賞馬×天皇賞馬の父と捉えることができるもので、それぞれが、ハイペリオン×ナスルーラ〜ネアルコという80年代までのオーソドックスな配合で構成されている。また、父系の祖であるグレイソヴリンと、グリーングラスの母の父であるニンバスは、ともに名牝コングの仔のスプリンターとステイヤー。フォルティノの母の父レリックと曾祖母の父ブリッカバックからマンノウォーも入っていて、配合的な整合性という点でもA級だと思う。まあ、今の時代にノーザンダンサーもレイズアネイティヴもヘイルトゥリーズンもないとなると、エンジンの排気量の違いでだけで負けてしまう懸念もあるが、排気量が大きければそれだけ燃費も悪いわけで、このような超長距離戦であれば、それを逆手に取ることもできる。4月10日、19歳で世を去った父への手向けのG1制覇とならないだろうか。

 トーホウシデンは97年生まれクラシック組の唯一の生き残りとなってしまった。弱いといわれながらも、昨秋の天皇賞は休み明けでシンボリクリスエスから0秒4差なら底力は示しているし、菊花賞2着のある3000m超級なら、まだポテンシャルの底が知れたわけでもない。ブライアンズタイムはサンデーサイレンスよりひと足先に日本に血統革命をもたらし、サンデーサイレンスが台頭してからもそれと五分、場面によってはそれ以上の存在感を備えていて、ロベルト系というくくり方をすれば、同系の先輩リアルシャダイ以来、このレースは最も力を発揮できる舞台だ。ブライアンズタイム×ブラッシンググルームの配合はマヤノトップガンと同じパターンで、祖母の父はブラッシンググルームと特に相性の良いニジンスキー。加齢とともに強くなった“ゴドルフィン”のチャンピオン・ファンタスティックライトに見るように、この配合の奥の深さは世界レベル。6歳とはいえ、マヤノトップガンが5歳で春の天皇賞を制したときに比べてもまだ遙かに浅いキャリア。上昇の余地もそれだけ大きいと思う。

 ヒシミラクルは菊花賞の後がなんとも全然だが、前走あたりは3〜4コーナーにかけてしばらくの間、G1馬の——あの菊花賞をG1というのかどうかの議論は別にして——片鱗を見せた。同じ牝系の菊花賞馬アカネテンリュウ(4代母の仔)はその後G1級制覇こそなかったものの、スピードシンボリ翁に食い下がる有馬記念2着2回のほか天皇賞でも春秋で3着がある。水準以上のサッカーボーイ産駒は息が長く、重賞での好走が1回きりというケースも少ない。3000m以上でないと出番がないとしたら、今回走らずにいつ走ると考えるべき。母系から入るシャーリーハイツやフィダルゴといったステイヤー血脈の真価が発揮されるのも古馬になってからだ。

 ダンスインザダーク産駒が4頭。これらが人気の上位を占めそうだ。菊花賞馬のダンスインザダークはサンデーサイレンス後継争いで目下トップに立ち、中長距離担当ということで産駒の活躍期間も長い。自身が菊花賞で示したラスト1Fの切れ味は伝統的ステイヤーとは異質のもので、菊花賞馬をステイヤーといわなかったりすると話が込み入ってくるのでそれは避けるが、2000〜2400mの世界レベルで争える資質を備えていた中長距離ランナーだったと思う。全姉ダンスパートナーのフランスでのパフォーマンスを見ても、それくらいの期待ができる血統だ。そういうわけで、彼ら4頭には秋により大きな舞台があるのだから、そちらで頑張ってもらいたいと考える。それはさておき、ファストタテヤマは、母の父ターゴワイスのムラな面が影響してか、春と秋、半期に1度のアッといわせる大駆けを、ある意味規則的に繰り返している。ということは今回そろそろその周期。母のひとつ上の全兄アンバーシャダイは83年春の勝ち馬(天皇賞ではそれ以外に4回負けたが)で、母方の長距離適性という点でもこれが一番。

 ダイタクバートラムは無冠の名マイラー・ダイタクリーヴァの半弟。遡れば曾祖母の産駒にカブラヤオーやミスカブラヤ(週刊誌の考課表で1代間違っていました、すみません)が出るが、近いところはダイタクヘリオスやスイートラブが出てマイラー、スプリンター色が濃い。母の父も86年春の天皇賞では2番人気で14着に惨敗した。3000mの前哨戦を圧勝している武豊様御騎乗の本命馬にこういうことをいうのもどうかと思うが……。

 ツルマルボーイは1年近く勝ち運に見放されているが、去年の秋が東京開催であったなら、今ごろはシンボリクリスエスがなんぼのもんじゃというくらいになっていたかも。サッカーボーイ×アローエクスプレス×ダイハードの母は、ほかのサッカーボーイのステイヤー産駒とは一線を画すサッカーボーイらしい切れ味を備えていて、その母のイメージが強いので、3200mよりも2000や2400がいいのではないかと思う。

 タガノマイバッハはヘイルトゥリーズンの近交も持っていて、国際水準の良血度という点では4頭の中でも屈指の存在だが、土着性が薄いぶんがどうかな。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.5.2
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