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1年の最強馬を決めるべきJCウイークが、今年は大雨によってジャパンC、JCダートともに珍妙な結果に終わった。ジャパンCの場合は日本馬はもちろん外国招待馬にも特に硬い馬場に向いた強豪が揃っていただけに良馬場なら違った結果になっていた可能性は高いが、道悪がタップダンスシチーの恐るべき能力を明らかにしたことは確かだろう。有力馬のほとんどが道悪に能力をそがれて外野フライで凡退しているときに、ひとり150mの大場外ホームランをかっ飛ばした。そんな感じ。野球なら150m飛ぼうが、90mちょっとだろうが柵さえ越えればホームランだし、競馬でも勝ち負けということであれば数センチでも先着すればいいわけだが、素の能力を測るとすれば最大150m飛ばせるのと90mちょっとでは明らかな差がある。今年のジャパンCの収穫、タップダンスシチーに関しての収穫もそのあたりだ。父のプレズントタップは5歳時の92年、米古馬チャンピオンに選ばれた名馬だが、そこに至る苦労というのか、迷走ぶりはブリーダーズCへの出走歴をたどるだけでも分かる。2歳時にはステークスで初勝利を挙げた勢いでBCジュヴェナイルに挑んで6着。これは無理があった。ケンタッキーダービーでアンブライドルド、サマースコールに続く3着と健闘した3歳時はなぜかBCターフを選んで後方のまま8着。どうにも重賞に勝てない4歳時は目先を替えてBCスプリントに出ると、直線猛然と2着に追い込んでアッといわせた。それがきっかけになったか、5歳を迎えた92年は確実な追い込みを見せるようになり、特にトップレベルで1着と2着を繰り返した夏以降の充実ぶりはステイヤーとしての本格化を示すものだった。アメリカでステイヤーとしてやっていくのはなかなか難しいが、4コーナー先頭から直線独走、ひとつ下のケンタッキーダービー馬ストライクザゴールドに4 1/2馬身差で圧勝したG1ジョッキークラブゴールドCはその一戦のみでそれこそ150m級ホームランの価値があった。こう見てくるとタップダンスシチーの能力全開に至るまでの過程は、父にそっくりであることが分かる。父も米国屈指の名門ラトロワンヌ直系の名血だったが、タップダンスシチー自身も週刊競馬ブック「血統アカデミー」で山口祐司さんが詳述しているように名馬がキラ星のごとく並ぶ名門トゥーボブ系。しかも母の父は今や貴重な生の(?)ノーザンダンサー。すでに合同フリーハンデではジャパンCのパフォーマンスによって2003年最強馬としての地位はなかば約束されているようなものだが、もう一度“良馬場で”頂点に立つことで、外野の声を封じてもらいたいもんだ。ただ、父は最後のレースとなったBCクラシックで、前走のジョッキークラブGCでは寄せ付けなかった3歳馬エーピーインディに雪辱を許して2着に敗れている。父の蹄跡の踏襲に忠実な息子だからこそ、そのあたりに死角があるかもしれない。○。 で、ザッツザプレンティが◎というわけです。ジャパンCのタップダンスシチーは実に気持ちよく自分のリズムで走っていた。対照的に最もシンドい2400mを走り、なおかつ2着を死守したこの馬が、いちばん強い内容ではなかったかと思う。春の不安定さは、素質を持ちながらも本格化に至っていないステイヤーにありがちなことであり、距離損のあったダービーで0秒2差3着、神戸新聞杯は休み明けでは動かないステイヤーらしさが仇となっただけで、菊花賞勝ち、そしてジャパンCと、その成果をたどれば、タイトルはともかく、実質的な強さではすでにネオユニヴァースを凌いでいるといっていい。菊花賞に勝った父でさえ、典型的なステイヤーというには近代的なスピード血脈を豊富に備えていたし、母にしてもミスワキ産駒でバブルガムフェローの半姉だから中距離により適性がある。ただ、ミスワキはステイヤー血脈と結びつくことで一流のステイヤーを出し、父にはキートゥザミント、母にはプロミナーといった“ステイヤーの素”ともいうべき血脈が潜んでいる。スピード血脈を主体としつつ、それに持久性を加えた近代的ステイヤーと捉えるのが正解なのだろう。ところで、プレズントタップを負かして米年度代表馬のタイトルをもぎ取ったエーピーインディはベルモントS勝ち馬。プレズントタップの息子を負かすのが菊花賞馬という符合も出来過ぎとはいえないだろう。 シンボリクリスエスにはついに一度も本命を付けることなく最後のレースを迎えることになった。申し訳ない。恥ずかしい。この血統のどこが気に入らないか1年以上考え続けても、結局「馴染めなかった」という以外に明確な答が出ない。種牡馬になって産駒が活躍するようになると、また悩まされるかもしれない。ただ、いえることはインターナショナルクラシフィケーションや合同フリーハンデのレーティングで“120”前後での争いなら文句なしに強いが、タップダンスシチーみたいに“130”を超えようか(JPNクラシフィケーションはブリーダーズCターフ勝ち馬より上にできないという遠慮があるのか125だった)というレベルになると対応しきれない面は確かにあるのではないかと思う。しつこくたとえ話をすれば、ホームラン王だが150m弾は打てないなというケース。まあ、去年のようにタップダンスシチーはあるのに、シンボリクリスエスを買っていないという醜態は繰り返したくないので▲。 ファストタテヤマは昨年の菊花賞をハナ差でヒシミラクルと争った後は未勝利。オールカマーで復活かと思わせてまた鳴りを潜めてしまったが、距離や展開や、探せばそれぞれに敗因はある。好走と大敗との落差が大きい点はダンスインザダークらしさの一面といえる。母の父は名牝オールアロングの父であり、娘の産駒からはBCターフで単勝17.6倍の穴を開けたティッカネンが出ている。しかも、かつての“ミスター有馬記念”アンバーシャダイは祖母の全兄。ここで買わねばいつ買うか!とまではいわないが、穴人気しない穴馬ということでは狙い目あり。△。 今回、有馬記念父子制覇の資格を唯一持っているのがチャクラ。マヤノトップガンの産駒はミニ・マヤノトップガンといった風情でなかなか活躍しているが、父を超えるようなスケールを感じさせる子はまだ現れていなくて、この馬も例外ではない。ただ、ブライアンズタイム系は上昇のさなかを無理筋でも狙いうちするのがセオリー。カーリアン産駒の母は、兄弟にメルクフィンク銀行賞のプラティニ、イタリアで共和国大統領賞に勝ったパオリニというドイツのG1ウイナーがいて、底力の点でも見劣りはしない。 半弟シェルゲームの登場と入れ替わるようにしてアグネスデジタルも今回で引退。何度もわれわれを驚かせてきたワンダーキッドもさすがにお年を召されたか。しかも、クラフティプロスペクター産駒に2500mでは……。ただ、ミスタープロスペクター系ということでは、ミスワキ産駒が凱旋門賞に勝ったり、マキアヴェリアン産駒が4000mの仏G1に勝ったりと、それぞれ当初はビックリするようなことがかなり頻繁に起きている。それがサイアーラインとしての活力ということなら、奇跡の起きる余地は残されている。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.12.28
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