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大種牡馬ミスタープロスペクターと、引退戦のブリーダーズCディスタフまで13戦不敗の名牝パーソナルエンスンとの間に生まれたアワエンブレムは、カーターHをハナ差で勝ち損ねたG1ニアミスが最後まで尾を引いて、結局重賞のひとつも勝てずに現役生活を退いた。それでも、全兄マイナーズマークもG1ジョッキークラブGCに勝っていることから、その可能性を信じた有志によってシンジケートが組まれて名門クレイボーンファームで種牡馬となる。いくら良血とはいえ、重賞勝ちもないのに名門種馬場で種付け料1万dなら大きなチャンスを与えられたと見るべきだ。ヒョロッとして薄いマイナーズマークに比べると馬体の良さは目をひいたらしく(聞いた話)種牡馬としての期待は大きかったようだが、初年度産駒はパッとしなかった。一般にアメリカの種牡馬、それも特にミスタープロスペクター系が初年度はパッとしないということを知らないアメリカ人は多いらしく(あるいは分かっているが経済面でどうにもならないのかもしれないし、実際パッとしないまま終わるのが多いのかも)、チャンスは与えたけれど、やっぱりダメだコリャということで都落ちを余儀なくされ、今年はメリーランド州で4000dで供用された。すると、年が明けてすぐに2年目の産駒となるプライヴェートエンブレムが快進撃を始めて4月にはG2アーカンソーダービーを制し、その勢いを引き継ぐようにウォーエンブレムがG2イリノイダービー勝ちをへてケンタッキーダービー、プリークネスSの2冠を制すと、今度は牝馬戦線にも孝行娘が現れて、セプテンバーシークレットがG3に勝った。こう立て続けに最高クラスを含めて重賞勝ち馬が出る以上はフロックではあり得ないということで、良血種牡馬アワエンブレムは巨額のトレードマネー(1010万d)でケンタッキーに凱旋することになったのである。その直後にウォーエンブレムが三冠制覇に失敗したのは皮肉だが、これは父のあずかり知らぬところ。 重賞2着3回、3着2回、桜花賞はシャダイカグラの5着。ノンタイトルの名牝として記憶されるエイシンウイザードは、生涯初めて重賞で1番人気となった92年の京都牝馬特別で6着と敗れたのを最後に引退、サンデーサイレンスと配合された。そして生まれたエイシンサンディは故障で競馬場でデビューすることなく種牡馬となる。弥生賞勝ち後に電撃引退したフジキセキからは1年遅れたが、種付け料30万円というリーズナブルな価格と日高地区では先駆けとなるサンデーサイレンス直仔ということでそこそこ人気を集め、その初年度種付けの産駒から現れたのが◎ミツアキサイレンス。ブランド的にこの世代は地方入厩馬が多かったが、同期では金沢・日本海ダービーのシャムスンが出ていて、エイシンサンディのポテンシャルの裏付けとなっている。良血の名馬が必ずしも名種牡馬となれない場合がある反面、良血の凡馬がワンチャンスを生かして成功したり、このあたりの逆転や転倒が血統の面白いところで、エイシンサンディはミツアキサイレンスの活躍によって、廉価版サンデーサイレンス後継の地位を確立したのだった。サンデーサイレンス後継種牡馬の産駒は、ここまでまだどれも惜しいところでG1に手が届いていないが、そろそろ勝ち馬が出てもいいころ。その一番乗りが不出走馬だったりすれば、それもサンデーサイレンスらしい意外性といえるかもしれない。オークス馬ライトカラーと同じファミリーになるミツアキサイレンスの母系には、ターナボス×ラディガ×セイントパディ×インディアナというステイヤー血脈が重ねられ、今どきここまで徹底したステイヤー配合は例えば英国の障害馬あたりを探さないとお目にかかれないくらい。時代遅れとさえいうべき重厚な母系にサンデーサイレンスの血が注入されて大スパークを起こした例としてマンハッタンカフェを挙げることができるが、本馬もそれに近い線で捉えられよう。同期にマエストロセゴビア、レジェンドハンターと揃った笠松御三家のなかでは最もゆっくりと、しかし最も大きく成長したのが本馬だったのは、その母系のステイヤー血統ゆえ。恐らくもう一段階強くなる奥行きを備えていて、G1も手の届かないものではないと思う。ま、近代的なスピードの裏付けがサンデーサイレンス血脈だけといっていいので、2分10秒台の争いとなると分が悪いのは確かだが、ジャングルポケットもナリタトップロードもいないここなら、そう無様な競馬にはならないだろう。 このレースも他の大レースに劣らずサンデーサイレンス系の上位占有率が高いが、サンデーサイレンスを力でねじ伏せられるとすればブライアンズタイム。特に今年は皐月賞、ダービーとブライアンズタイムが制し、去年がトニービンの年とすると、今年はブライアンズタイムの年といえる。ただ、○ダンツフレームの場合はこれまでサンデーサイレンスやトニービン、コジーンといった切れのあるタイプにG1勝ちのチャンスをつぶされているわけだから、あるいはリアルシャダイ産駒などによく見られるロベルト系らしいジリ脚といえるのかもしれない。力は認めても、人気を背負っての正攻法だとスパッと切れる馬にやられる可能性はつきまとう。サンキリコからリファールが入ってリボーの軽いインブリードがあることを考えると、受けて立つ形よりも、より強いメンバー(例えば秋の天皇賞とか)で思い切った競馬をするときの方が、持ち味が生きるとは思う。 サンデーサイレンスの産駒には1回おきに走るタイプが少なくなく、ダンスインザダーク産駒にはさらにその傾向が顕著に現れる気がする。そう思って見ていた▲ツルマルボーイの前走だが、勝っちゃいましたね。2連勝だ。これで課題はコーナー4回の右回りがどうかということになった。サッカーボーイ血脈にはこういうよく分からない部分で頑固なところがあるので、もう少し様子を見ておくべきなのかもしれない。エアシャカールとの関係だけをいっても、2Kもらって0秒2差なら、同斤量なら逆に0秒2負ける計算も成り立つ。ただ、いきなり強い相手とぶつかっても結果を出してしまうのがサンデーサイレンス血脈の強さであり、そこに母譲りのサッカーボーイらしい決め手が加われば、初G1でも鮮やかに差し切ってしまう可能性はある。その方が面白いしね。 エアシャカールは今年の2戦で4歳世代に完敗。斤量を考えれば互角の戦いはできているが、内容的には勢いの違いが歴然。母系はラジャババ系なので、大きな成長はないが能力が落ち込むこともないというタイプで、押さえとしての△。サンデーサイレンス直仔で穴狙いをするとすれば、トウカイテイオーの半弟というブランドの威光でトウカイオーザの方に妙味がある。 77年の米三冠馬シアトルスルーが今年の5月7日に世を去った。無敵の競走馬にして万能の種牡馬の28歳での大往生といえよう。その直仔マチカネキンノホシは不真面目なタイキブリザードといったキャラクターだが、京都開催とはいえ95年にはシアトルスルー産駒で1、2着を占めている。母は幻の三冠馬アリシーバの全妹だけに底力はここでもNo.1。高速決着にも対応できる血だ。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.6.23
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