2002スプリンターズS


遺児に託すスプリント魂

 今年も海外からの出走はなかった。それどころか、8月末の「選出馬」の段階ですら英米のB級スプリンター2頭と、元A級で欧州から米国に渡ってB級で伸び悩んでいる1頭の計3頭のみ。確かに日本のスプリント戦で勝つのが容易でないことが周知の事実となり、世界的にスプリンターの資源不足という背景はあるにせよ、夏から秋の諸々のスプリントG1→ブリーダーズCスプリント→香港スプリントという一流スプリンターの選ぶルートからは完全に外れている。特に今年から国際G1に昇格した香港スプリントとの差は明らかで、このままずっと国内自称G1で行くのならともかく、国際G1の認定を目指すのなら何らかのテコ入れが必要だろう。最短ルートは海外の強い馬——国際レーティングの高い馬——が出走しやすい環境を作ることで、持ちレーティングの高い馬が多く出走すれば、それだけレースのレーティングが高くなりやすく、国際G1の基準をクリアする可能性も高まる。具体的にはジャパンCの週に持ってくるのがベスト(でもその前に東京芝1200mがないのが大問題だが)。ブリーダーズCスプリントと香港スプリントの間に置けばいい。環太平洋短距離三冠という形でボーナスの設定も出来そうだし、3つのうち2つを選ぶこともできるのだから、国際派一流スプリンターにはシーズン終盤のオプションが増えることにもなる。しかも、JCやJCダートの出走馬に帯同してくるケースもあるだろうから、1頭当たりの輸送コストも下がる。まあ何より、夏競馬の延長といえる今の時期にやるよりは、チャンピオンと認められるのにふさわしい時期を選ぶべきで、今の日本のスプリンターのレベルなら、このレースの勝ち馬が世界的な名声を得られるチャンスを作ってやらなければもったいない。

 サニングデールの父ウォーニングは、87年の欧州2歳チャンピオンで、88年の3歳チャンピオンマイラー。同年のブリーダーズCマイルでは本命になりながら、ミエスクの11着と謎の大敗を喫している。翌年は、ナシュワンやジルザル、ポーリッシュプレシデントといった下の世代の突き上げが強力で、G2勝ちをひとつ上乗せするにとどまった。種牡馬入りしてからはその父ノウンファクトと同じで、マイラーやステイヤーやさまざまなタイプを出したが、色分けすればスプリンター種牡馬といえただろう。日本に輸入後は、早熟、短距離向きと見られる傾向が強く、それも間違ってはいないと思うが、カルストンライトオあたりが古馬になってから初重賞を得ているように、案外奥の深いところがある。欧州に残した産駒にはG1をひとつだけ勝ったものが多く、1シーズンにグンと強くなって、勢いに乗ったままピークにG1を勝って、しかし、そう長くその強さが続かないというタイプなのだと思う。半弟コマンダーインチーフの産駒も距離適性こそ違うが、強くなるときにはG1寸前まで強くなり、どこまで強くなるかと思うとそこから壁を突き破れないタイプが多いのに似ているといえなくもない。サニングデールにとっては、春に世代限定の重賞を勝ち、夏に古馬の王者を破り、その勢いを持ち込んで臨む初G1という今回が恐らく生涯最大のチャンスだろう。血統表を一見して感じるのは欧州のG1スプリンターのような雰囲気。実際にはウォーニング×ダルシャーン牝馬という配合のG1勝ち馬はいないのだが、何となく相性の良さは感じ取れる。ウォーニングが最も相性がいいのはサドラーズウェルズ牝馬で、ダルシャーン牝馬の相性がいいのもサドラーズウェルズなので、友達の友達の見ず知らずの人という感がなきにしもあらずだが、ウォーニングの弟にはシャーリーハイツ産駒のデプロイという愛ダービー2着馬がいるから、試されればそれなりに成功した配合パターンだったのではないだろうか。牝系もウォーニングと同世代の英・愛ダービー馬カヤージが出るアガ・カーン殿下の名門で、G1馬にふさわしい格を備えている。ところで、父は00年に世を去っていて、これからというときだっただけに残念というほかない。サンデーサイレンスは残された産駒がこの後もまだいくらでもG1に勝つだろうが、ウォーニングにとってはここが日本でのG1勝ちの残された数少ないチャンス。しかも1200mは譲れない領域でもある。

 対照的に米国的スピード血脈を集め、ガンガン行くのがサーガノヴェル。父のバウンダリーはデインヒル以外のダンチヒ直仔が案外種牡馬として大成していない中で、割り切って(?)ダンチヒのスピード志向を強めたのが良く、今のところ競走成績以上の種牡馬成績を収めている。母は86年の米古馬チャンピオン・ターコマンの全妹で、ターコマンにはどうも巨漢のドン臭いイメージがあるのだが、さすがにアリダー血脈は母系に回っていい働きをするようで、この馬の場合はG1でも音を上げない底力につながっていると思う。牝系はアルゼンチンの名門で、アルゼンチン血脈はサンデーサイレンスやポイントギヴン、そしてウォーエンブレムまで、近年は米国の名馬に欠かせないスパイスとなっているようだ。ただ、このレースはヒシアケボノとアグネスワールド兄弟くらいしか好走例がないように、典型的米国血統には苦戦の場。舞台が替わることで傾向も変わる可能性はあるが、その点は割引。

 ビリーヴは大種牡馬サンデーサイレンスが初めてスプリントG1を狙える素材。大抵のビッグネームと高い和合性を示すサンデーサイレンスだが、ダンチヒ牝馬とだけはそこそこまで行ってもG1勝ちに至らず、そのあたり中長距離ではあと一歩の底力が足りないのかもしれない。逆にそのぶん短距離がいい可能性があって、サンデーサイレンス×ノーザンテースト牝馬で一番G1に近付いたのが高松宮記念2着のディヴァインライトだったのと同じたぐいなのかもしれない。母は米国の歴史的名牝レディーズシークレットの半妹で、ノーザンダンサーアイスカペードの2×2を持つ。この同血の疑似近交はカナダ三冠のイズヴェスチア(父アイスカペード、祖母の父ノーザンダンサー)など、壺にはまると大物を出す場合があり、ビリーヴの爆発力の源泉もそのあたりにあると思われる。曾祖母からグレイソヴリンが入っているのもスプリンターらしくていい。

 にはゴールデンロドリゴを、このレースで強い和風スプリンター代表として抜擢。ま、父は輸入馬なので、むしろショウナンカンプあたりの方が和風といえば和風なのだが、母は90年のダービー卿CT勝ち馬で、地味な牝系に突如現れた一流牝馬。一般にスプリンターにはこういう“ある日突然”という計算外のことがらがつきもので、月友、チャイナロック、パーソロンとその時代の代表的種牡馬を配合されてきて鳴かず飛ばずだった牝系から重賞勝ちまで抜け出した母の意外性はいかにもスプリンターらしいと思う。ロドリゴデトリアーノは英2000ギニー、インターナショナルSなどマイルから2000mで活躍して、代表産駒がオークスのエリモエクセルだが、その母系に並ぶハビタット系ホットスパーク、スピードの塊クリムゾンサタンの血はスプリント戦でこそ大きな武器となりそうだ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.9.27
© Keiba Book