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9月8日のムーランドロンシャン賞を楽勝してG1・7連勝、ついにミルリーフの記録を破ったロックオブジブラルタルと無傷で4連勝中のファインモーションは同期のデインヒル産駒で、ともにアイルランドの巨大競馬オペレーション・クールモアの出身。そう思って見るからかもしれないが、顔つきとか似てますね。片方はじかに見たことはないが、“ザヲロック”といわれるだけあって、デインヒルらしい彫像のような重い質感の筋肉の付き方とか、牡牝の違いはあるにせよ、そのあたりも似ている。デインヒルはこれまでトータルで世界ナンバーワンでも、誰もが名前を知っているようなスーパースターを出していないという面もあったが、今年で一気に(少なくとも日本では)実績にふさわしいネームバリューを得ることになった。 ◎ファインモーションの母ココットは1勝ながら仏G3プシケ賞2着、英G2ナッソーS4着など、ヨーロッパの3歳牝馬重賞でそこそこ活躍した馬で、繁殖入りすると初年度にグローイングアーダーを産む。これが愛G3シルケングライダーSに勝って、その父ダンシングブレーヴにとっては初の重賞勝ち馬となった。そして5番目に生まれたのがご存知ピルサドスキー。これは2歳時2戦0勝、3歳時も5戦してハンデ戦に2勝しただけ、それが4歳になると一気に素質が開花し、その年の秋にはブリーダーズCターフを制して、スウェイン、シングスピールらとともに“強力92年生世代”の一角を占めることになる。オーナーブリーダーのワインストック卿は、トロイやエラマナムー、サンプリンセスで欧州競馬に一時代を築き、ピルサドスキーやスペクトラムの活躍を経て、今年の7月に亡くなってからもゴーランやイズリングトンが大レースに勝ち続けているが、最初の大きな成功は曾祖母ゲイリーの愛1000ギニー制覇だった。以来、この牝系は卿のバリマコル牧場によって育てられてきたが、ピルサドスキーが当歳の12月、母ココットはセリでクールモアが購買する。そして、サドラーズウェルズやカーリアンといったクールモアの誇るエース種牡馬が配合されるのだが、これがなぜかサッパリ走らない。それなら、ということかどうかは知らないが、デインヒルが配合されて11番目の仔として生まれたのがファインモーション。デインヒルはピルサドスキーの父ポーリッシュプレシデントと同じくダンチヒ直仔であり、ダンチヒの祖母の父がペティションで、母の父トロイの父系祖父もまたペティション、結果生ずるペティションの軽いインブリードが良かったのかもしれないし、ダンシングブレーヴとの配合ならフェアトライアル(ペティションの父)の5×5がある。サドラーズウェルズやカーリアンではそういった近交ができないので、走らなかった理由をそこに求めることもできるが、まあ、でも、どうなんでしょう。ワインストック卿の代表作であるトロイの血を生かせるかどうかということだったのかもしれない。ちなみにダンチヒのオーナーであったH.ドヲクウィアトコフスキ氏はポーランド出身なので、ポーランド系のワインストック卿とは縁がないこともない。卿の生産したオリエンタルエクスプレス(安田記念2着)も父がダンチヒ直仔グリーンデザート、母の父がトロイだった。それでも、実際には特に成功の確率が高い配合というわけでもない。やはり、ずば抜けた名馬というのは、パターンとか確率とか計算とか、そういうのを外れたところから出てくるということかもしれない。 さて、しかし、デインヒルの日本でのこれまでのG1勝ちはフェアリーキングプローンの安田記念だけで、その世界的名声、欧州やオセアニアでのG1馬量産ぶりからすると物足りない部分は残る。これは日本での供用が96年の1年だけ(アタラクシアの世代)で、あとは輸入競走馬という量的な問題もあるにせよ、やっぱり器用さとか瞬間的な鋭さとか、そういった部分でサンデーサイレンスやトニービンといった日本向きの軽快さを備えたものに勝てないという面があるからだろう。そこで○はひとひねりしてシアリアスバイオ。まあ、タマモクロスも重賞勝ち馬は出してもG1に届かない種牡馬ではある。デインヒルとは逆に底力が足りない。でも、第1回のファビラスラフインの父ファビュラスダンサーもフランスヲローカルの種牡馬で、以降(ブライアンズタイムやダンシングブレーヴも勝ったが)このレースは国内的一流種牡馬がサンデーサイレンスあたりの国際的一流種牡馬に互して戦える舞台。タマモクロスといえば、半妹ミヤマポピーがエリザベス女王杯に勝っていて、まるっきり縁がないわけでもない。母はダートで活躍したが、シラオキを経てフロリースカップに遡る名門牝系でその父はマルゼンスキー。さすがに単勝は苦しいかもしれないが(ちょっと買うけどね)、春の既成勢力との比較なら台頭の余地はある。 ▲サクラヴィクトリアもグレイソヴリン系。今どきタマモクロスとトニービンを並べてグレイソヴリン系といういい方はどうかとも思うが、アンチ主流の一撃の鋭さという点で、この系統には独特のものがある。サクラチヨノオーを筆頭に“サクラ”の名馬が続々と出るスワンズウッドグローヴ系で、母の父がサクラユタカオー、祖母の父がマルゼンスキーというのもいい。ただ、オークスには間に合わず、トニービン産駒のホームである東京コースが来春まで開催がないという点にツキのなさを感じるし、京都なら外回りの方がいい。間違いなく芝向きとは思うが実際には芝は未勝利。このあたり人気しているだけに気になるところ。 △マイネミモーゼは秋を迎えてレースでも調教でも、見ていてどうも精彩に欠けるが、ブライアンズタイム産駒のここ一番での強さは、このレースに限ってもファレノプシスが示している。フロリースカップ系でも、このサンマリノ〜サンキストの分枝は長打力より打率で勝負するタイプで、G1ではロングレザーが桜花賞2着、ヤマノスキーが阪神3歳S2着など、あと一歩で超えられない壁があるが、マルゼンスキー、ブライアンズタイムとくぐってきた以上はG1級の底力を身につけて不思議ない。 タムロチェリーは曾祖母がファインモーションと同じゲイリー。こちらはココットの系統に比べると地味なのは否めないが、それでも祖母の孫で98年生まれのストリートポーカーはドイツで重賞に去年と今年ひとつずつ勝っている。欧州系の血を集めていて、特に早熟なタイプとも思えないだけに、きっかけさえあれば復活は可能だと思う。 チャペルコンサートは母が英G1でもそこそこ活躍したG3勝ちのスプリンターで、ファミリーにはスプリンターばかりで、母の父もやはりスプリンター。いくらサンデーサイレンス産駒でもオークスではとても印を付けられる血統ではない。それでも2着に来るのだからどうなっているのだろう。ただ、そういったわけの分からない、納得し難い部分も含めてのサンデーサイレンス、スーパーサイアーの偉大さということはいえるだろう。ビリーヴで“鬼門”のスプリントG1を制した勢いで、最後の不得意分野も踏破してしまうかもしれない。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.10.11
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